BBCの長波放送が停波、100年あまりの歴史に幕——理由は「替えの真空管がない」

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英BBCが、ラジオ4の長波(ロングウェーブ)放送を止めました。周波数は198kHz。現地時間2026年6月27日の午前1時(日本時間では同じ日の朝9時ごろ)に送信機が落とされ、いまは「放送は終了しました」という録音メッセージが流れています。これも6月30日には完全に止まる予定です。

面白いのは、止まった直接の理由です。聴く人が減ったとか古くなったとか、それももちろんあるのですが、いちばん効いたのは「大電力の送信に使う真空管(送信管)の替えが、もう手に入らないから」でした。1920年代半ばから一世紀あまり続いた放送が、部品の在庫切れで幕を閉じた——という終わり方をしています。

「長波放送」とは

長波は、おおむね153〜279kHzというとても低い周波数の帯域です。波長にすると1km以上あり、「ロング(長い)ウェーブ(波)」の名前はここから来ています。日本ではなじみが薄く、アメリカでも放送用には割り当てられていません。ヨーロッパや一部地域で、放送のごく初期から使われてきた古い方式です。

なぜわざわざ低い周波数を使ったかというと、遠くまで届くからです。長波は昼間、地面に沿うように進む電波(地表波)として、1つの送信所から数百km先まで安定して届きます。夜になると上空の電離層に反射して、さらに遠く、条件がよければ国をまたいで届くこともあります。

BBCの場合、イングランド中部ウスターシャーにある「ドロイトウィッチ送信所」が主力でした。出力は500kW。これ1つでイングランドとウェールズのほぼ全域をカバーし、スコットランドの2つの補助送信所(バーグヘッドとウェスターグレン、各50kW)と合わせて、英国のどこでも受信できるようにしてありました。海を越えてフランスや、ときにはノルウェーあたりでも聴けたといいます。送信所には高さ213mの鉄塔が2本立ち、その間に張ったアンテナ線から電波を出していました。1930年代に英国で作られたラジオには、長波のダイヤルに「Droitwich」とわざわざ書き込まれていたほどです。

終了の直接の理由

ドロイトウィッチの主力送信機は、大きな電力を出すために真空管を使っています。この送信管はとっくに新品の製造が終わっていて、予備の在庫も尽きました。1つ壊れれば終わり、という状態だったわけです。約90年動き続けた設備が、替えの効かない一点の部品で寿命を迎えた格好です。

BBC自身の説明は、もう少し穏やかな言い方です。長波の技術は「寿命の終わりに近づいて」おり、使い続けるには大きな投資がいる。一方で実際に長波で聴いている人はごく一部(数万人規模とも報じられています)。だから、限られた予算をそこに注ぐより、FMやデジタルへ寄せる、という判断です。

背景にはもう1つ、長波やAM(中波)放送全体がじわじわ追い込まれてきた事情があります。家じゅうの電源アダプターやLED照明などに使われる「スイッチング電源」がノイズを出し、弱い電波を聴きづらくしてきました。そこへFM・DAB(デジタルラジオ)・ネット配信といった、より高音質で安定した手段が普及し、聴き手が静かに移っていった——という流れです。

198kHzが担ってきた役割

この周波数は、ただ番組を流していただけではありません。いくつもの“裏方仕事”を兼ねていました。

1つは時刻と周波数の基準です。198kHzの電波は原子時計(ルビジウム)で正確に制御されていたため、無線愛好家や技術者が機器の周波数合わせ(校正)に使う「ものさし」として重宝されてきました。1988年に198kHzへ移る前は200kHz=波長ちょうど1500mで、これも基準として使いやすい値でした。

もう1つ、英国らしいのが電気メーターの制御です。198kHzの電波には、夜間に料金が安くなる「Economy 7」のような時間帯別プランの電気メーターを、遠隔で一斉に切り替えるための信号(ラジオ・テレスイッチ)が重ねて送られていました。電波が、ラジオ番組と一緒に各家庭の電気の切り替えまで担っていたわけです。長波を止めるにあたっては、こうしたメーターを別の方式へ移す作業が現実的な課題になり、移行の段取りは何度か調整されてきました。

番組としては、英国の海域ごとの天気を淡々と読み上げる「シッピング・フォーキャスト(船舶向け気象通報)」と、その前に流れる「Sailing By」というテーマ曲が有名です。もともとは沖の漁師や船乗りのための実用放送でしたが、その独特の響きから、陸の人々にも“眠る前に聴く番組”として親しまれてきました。

核戦争の判定に使われた、という逸話

長波にまつわる有名な言い伝えに、こんなものがあります。英国の原子力潜水艦の艦長は、本国が壊滅したかどうかを判断する手がかりの1つとして、198kHzでBBCラジオ4が聴こえるかどうかを確かめた——というものです。放送が途絶えていれば、英国に最悪の事態が起きたと判断する材料にする、という話です。

もっともらしく語られますが、真偽ははっきりしません。半ば伝説として広まっている話で、事実だと確認できているわけではない点は押さえておいてください。それでも、こうした逸話が生まれるくらい、長波放送が「英国じゅうに途切れず届く声」として特別な位置を占めていた、ということは伝わってきます。

世界的に進むAM・長波の終了

長波やAMをやめる動きは、BBCに限った話ではありません。ノイズに弱く、設備の維持にも費用がかかる古い方式は、各国で少しずつ姿を消しています。今回のBBCの停波は、その流れを象徴する、わかりやすい一例だといえます。

一方で、長波には捨てがたい長所もありました。1つの送信所で広い範囲をカバーでき、簡単な受信機でも、山あいでも海の上でも届く。停電や大きな災害で通信網が傷んだときに、こうした“素朴で粘り強い”仕組みが見直される場面もあります。便利さと引き換えに何が手元から消えていくのか、という点では、ただ懐かしむだけでは済まない話でもあります。

解釈上の留意点

「放送終了」と聞くと番組が消えるように感じますが、そうではありません。ラジオ4の番組そのものは、FM・DAB・アプリ(BBC Sounds)・テレビ経由などで、これまで通り続きます。BBCによればFMだけで英国の世帯の99.5%に届くとされ、長波で聴いていた人の多くは別の手段に移れます。なくなるのは「長波という届け方」であって、中身ではありません。

ただし、誰もがすぐ移れるわけではない点には配慮が要ります。古い長波ラジオしか持たない高齢の人などが取り残されないように、という声も上がっています。新しい方式への置き換えは、便利になる人がいる一方で、置いていかれる人をどう支えるかという宿題も残す——そこは淡々と見ておきたいところです。

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