光の粒1個が「イエスかノーか」を決める——量子マジック8ボール自作記

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振ると答えが浮かぶ占いおもちゃ「マジック8ボール」を、量子効果による“本物の乱数”で動かした人がいます。光をぎりぎりまで弱めて、光の粒(光子)が一度に1個だけ通る状態をつくり、その1個がどちらの道を選ぶかで「イエス」か「ノー」を決める——そんな自作プロジェクトです。手のひらサイズの占いおもちゃを入り口に、乱数と量子の基本を一気にのぞける工作になっています。

占いおもちゃ「マジック8ボール」とは

マジック8ボールは、黒い球の中に20面体が濃い色の液体に浮かんでいて、振ると面のひとつが窓に浮かび上がって答えを返す、昔ながらのおもちゃです。面には「イエス」「あとでもう一度きいて」のような決まり文句が書かれています。質問して、振って、出た答えはたいして当たらない——それでも何かを決めるきっかけに使う、あの手のものです。

今回作者が手を入れたのは、その「答えをどう選ぶか」の部分です。中身を液体の20面体から、量子のふるまいで答えを引く電子装置に置き換えました。

「本物の乱数」と擬似乱数のちがい

普通のコンピューターが出す「ランダムな数」は、多くが擬似乱数(ぎじらんすう)です。計算式でランダムっぽく見える数列を作っているだけなので、出発点(種)が同じなら同じ列が出ます。実際のOSでは、物理的なノイズを種にし、こまめに種を入れ替える仕組み(LinuxのCRNGなど)が使われていて、ふだん使う分には十分ランダムです。それでも、種と種の間は決まった計算をたどっています。

一方、量子乱数生成器(QRNG)は、ビットを取り出すたびに新しい物理現象からランダムさを汲み上げます。ここが擬似乱数との分かれ目です。ただし作者自身は、擬似乱数・暗号用の乱数・量子乱数の三つに「統計的な差はほとんどない。効いてくるのは哲学的なところ」と率直に書いています。つまり量子乱数の取り柄は、速さや見た目の質ではなく、「毎回、まっさらな物理イベントから作っている」という性質そのものにあります。

光子1個がつくるランダムな結果

その種になるのが、光子(こうし=光をつくる最小の粒)1個のふるまいです。まず光源を、実質的に一度に光子1個だけが進む程度まで弱めます。その1個がビームスプリッター(光を二手に分ける半透明な鏡)に当たると、まっすぐ通り抜けるか、跳ね返るかのどちらかになります。

どちらを選ぶかは事前に決まっておらず、測ってみるまで決まらない——これが量子の世界のランダムさです。通り抜けた先と跳ね返った先に、それぞれ光電子増倍管(こうでんしぞうばいかん=ごく弱い光も捉えられる高感度センサー)を置き、どちらが反応したかで「0か1」を決めます。光子が1個通るたびに、まっさらなランダムビットが1個生まれる、という仕組みです。

装置の構成と乱数の品質検証

作者がたどり着いた構成は、紫外線LED → 50:50のビームスプリッター → 2つの光電子増倍管(AとB)→ Red PitayaというFPGA(用途に合わせて回路を組み替えられるチップを積んだ測定ボード)、という流れです。FPGAでは「フォン・ノイマンの偏り除去」という簡単な手続きをかけて、ビット列のかたよりをならします。鏡の分かれ方がきっちり半々でなくても、結果が公平になるようにする処理です。ならした乱数はネットワーク経由で配信され、最後にマジック8ボールが受け取って答えを返します。

仕上がった乱数の質も確かめています。作者によれば、アメリカの国立標準技術研究所(NIST)が公開している乱数検定セット「STS」で、約16億ビットを調べて全項目に合格したとのことです。さらにこの8ボールは、ネット越しに質問を投げられるAPIまで用意されていて、バイエルンの地下室で動く本物の装置につながっている、と作者は説明しています。

乱数と量子への入り口として

量子乱数そのものは目新しい発想ではなく、暗号やくじ引きのように「予測されては困る」場面で実用が進んでいる分野です。それを占いおもちゃという身近な題材に落とし込むと、光子1個・ビームスプリッター・検出器という量子の基本部品が、いっぺんに体感できます。

装置の名前は「Universe Splitter(宇宙を分けるもの)」。光を分ける「ビームスプリッター」のもじりで、観測のたびに世界が枝分かれするという多世界解釈(エヴェレット解釈)にかけた、作者なりのジョークです。質問すると「この世界での1つの答え」と「あらゆる並行世界での答え」を返してくれる、という遊びになっています。今回の製作記は二部構成の前編で、QRNGを組み上げるまでが書かれています。

解釈上の留意点

「本物の乱数」という言い方には、少し慎重でいたいところです。作者自身が擬似乱数との統計的な差はほぼないと認めているとおり、量子乱数の利点は質の高さそのものではなく、「毎回、新しい物理現象から作っている」という性質にあります。元記事のコメント欄でも、「何かを“真にランダム”と呼ぶのはためらう」という指摘が出ていました。言葉の華やかさより、仕組みのほうに目を向けるのがよさそうです。

また、これは実用の暗号装置というより、量子と乱数を手を動かして学ぶ、趣味・教育寄りのプロジェクトです。占いの的中率が上がるわけではありません(そこは作者も笑いのネタにしています)。光電子増倍管や高電圧電源など、扱いに注意が要る部品も含まれるので、まずは仕組みを知る読み物として楽しむのが安全です。

出典

A Quantum Magic 8-Ball(Hackaday)

Building the Beam Universe Splitter I: A Quantum Magic 8-Ball(David Noel Ng・製作記/一次情報)

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