本物の熱帯魚を飼うのは、思ったより手がかかる。水換え、水温管理、エサやり、体調のチェック——きれいな水槽の裏には、地味な世話が毎日ついてまわる。そこで「じゃあ魚のほうをロボットにしてしまえばいいのでは」と考えて実際に作った人がいる。水槽の中を泳ぐ小さなロボット魚が、エサの代わりに自分で充電ステーションへ戻ってくる。掃除ロボットのルンバの水中版、と言えば雰囲気が伝わるかもしれない。
作ったのは「CPSdrone」というメイカー。技術系メディアのHackadayが2026年7月1日に取り上げて話題になった。中身を見ていくと、見た目のかわいさとは裏腹に、水中ならではのなかなか手強いエンジニアリングが詰まっている。

作り物の水槽の現代版
1990年代、動く作り物の魚を入れたインテリア水槽が売られていた時期がある。今回のプロジェクトは、あれを現代の技術でアップデートしたものと考えると分かりやすい。ただし当時のものとは違い、魚たちはただ揺れているだけではない。水槽の中を自分で泳ぎ回り、電池が減ってきたら自分の意思のように充電ドックへ戻っていく。
電池がなくなるたびに人が取り出して充電する、というのでは「手がかからない」と言いにくい。そこで各ロボットが自分で充電ステーションまで移動してドッキングするようにした。魚にエサをやる作業を、ロボットが自分で充電しに行く動きに置き換えたわけだ。世話がまったくのゼロになるわけではないが、日々のエサやりや水質管理からは解放される。
水中で電波が届かない問題
このプロジェクトで最初にぶつかったのが、水の中では電波が届きにくいという壁だった。魚たちは一匹ずつ勝手に判断して動く「完全自律」ではなく、外にある一つのシステムからまとめて指示を受けて動く方式をとっている。つまり、水中のロボットへ無線で命令を送り続ける必要がある。ところが水は電波を吸ってしまう性質があり、地上と同じ感覚では通信できない。
ここで使われたのが433MHz帯の無線だ。周波数が低めの電波なら、水槽くらいのサイズであれば減衰しきる前に届くはず——という読みで、実際に試してみたら通ったという。まず小さなマイコン積みの潜水艇を試作機として作り、通信のめどが立ってから本番の魚づくりに進んでいる。
天井カメラで居場所を追う仕組み
魚が自分で泳いでいるように見えても、頭脳の大半は水槽の外にある。水槽の上にはカメラが設置されていて、各ロボットの背中につけた目印(ArUcoマーカー=白黒のQRコードのような識別用の模様)を撮影し続ける。この映像からラズベリーパイ(小型のコンピューター)が一匹ずつの位置と向きを計算し、「次はここへ向かって」と指示を出す。制御にはPID制御という、目標との“ずれ”を見ながら滑らかに近づける定番の方式が使われていて、これで魚っぽい自然な動きを出している。
魚の体そのものにもこだわりがある。ボディは3Dプリンターで樹脂を使って成形し、ゴムのOリング(輪ゴム状のパッキン)とUV硬化樹脂で水が入らないように密閉している。中にはマイコンのArduino Pro Miniと、超小型のモーターが4つ。2つが前進と方向転換を、残り2つが深さ(浮き沈み)を担当する。小さな殻の中に、浮くには軽く、沈まないよう安定させる、という相反する条件を詰め込むのがいちばん難しかったという。
群れで泳がせる次の一手
現状でも、魚たちは水槽を泳ぎ回り、自分で充電ドックに戻り、ロボット同士で追いかけっこ(自律的な鬼ごっこ)までこなす。一方で、本物の魚の群れのようにきれいに隊列を組んで泳ぐ動きは、まだこれからの課題として残っている。
Hackadayの記事では、群れの動きを再現する定番手法として「Boids(ボイド)」というアルゴリズムに触れている。近づきすぎず、離れすぎず、周りと向きをそろえる——たったこれだけの単純なルールで、魚の群れや鳥の群れのような動きが生まれるというものだ。今回はまだ採用されていないが、これを入れれば、外の制御システムに頼らず魚同士だけで群れを作らせることも理屈のうえでは可能になる。
手のかからなさと引き換えに残るもの
もっとも、「メンテほぼ不要」の“ほぼ”は正直な表現だ。充電のためのドッキングは自動でも、機械である以上どこかで整備は要るし、防水が破れれば直す手間も出てくる。生き物を飼う世話とは種類の違う手間が残る、と考えておくのがちょうどいい。
それでも、水を汚す心配も、旅行中にエサを気にする必要もない水槽、というアイデアはなかなか楽しい。生き物としての魚の代わりにはならないかもしれないが、動く水槽を眺める体験そのものは十分に成立している。個人が趣味で作ったものとしては、見て楽しく、技術的にも見どころの多い一台だ。
出典
Engineering Micro-Submarines To Replace Fish(Hackaday)
Robotic Submarine Fish Are the Ultimate Low-Maintenance Aquarium Pets(Hackster.io)
制作者(CPSdrone)による解説動画(YouTube)


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