落下する宇宙望遠鏡をロボットで救え――NASAの前例なき「スウィフト救出」

宇宙・天文
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22年近く宇宙で働いてきた望遠鏡が、大気の抵抗に引かれて少しずつ落ちてきています。そこでNASAが選んだのは、ロボットの整備機を送り込み、落ちかけた望遠鏡をつかんで軌道を押し上げる、という方法でした。人が乗らないロボットだけで、しかも「整備されることを想定していなかった衛星」を捕まえにいく――こうした試みは、これまで実現したことがありません。

対象は、ガンマ線バーストという宇宙最大級の爆発を見張ってきた「ニール・ゲーレルス・スウィフト天文台(Swift)」。救出役は、新興企業カタリスト・スペース・テクノロジーズが作ったロボット衛星「LINK」です。打ち上げは2026年6月30日(米東部時間)以降が予定されています。

落下を続ける宇宙望遠鏡スウィフト

スウィフトは2004年11月に打ち上げられ、ガンマ線バースト――遠い宇宙で起きる、ほんの数秒から数百秒で太陽の一生分を超えるエネルギーを放つ閃光――を素早く見つけるために作られました。当初の計画寿命は2年でしたが、働きぶりが評価されて運用は何度も延長され、今では幅広い波長で宇宙を見張る多目的の観測装置になっています。

スウィフトの特徴は「速さ」です。広視野の検出器が空の約6分の1を常に見張り、爆発をとらえると2分ほどでX線・紫外線の望遠鏡をその方向に向け、世界中のほかの望遠鏡へ「あそこで何かが起きた」と知らせます。NASAはスウィフトを「宇宙を調べるための万能ツール」と呼びます。ハッブルやジェイムズ・ウェッブのような有名な望遠鏡でも、この“すぐに振り向く”仕事はできません。代わりがいない、というのが今回の救出に踏み切った理由です。

軌道が急に下がり始めた理由

スウィフトには、自分で高度を保つためのエンジン(推進装置)が積まれていません。低い軌道をまわる衛星は、わずかに残る大気の抵抗を受けて少しずつ高度を下げていきます。スウィフトもこれを止める手段を持たないまま、ゆっくり落ち続けてきました。

そこに拍車をかけたのが、太陽の活動です。太陽は2024年に活動の極大期を迎え、放つ粒子が増えました。これが地球の大気を温めて外側へふくらませ、衛星が受ける抵抗を強めます。結果としてスウィフトの落下は想定より速くなりました。打ち上げ当初は高度約600km(約375マイル)にいましたが、今は約400kmまで下がっています。NASAの予測では、何もしなければ今秋までに約300km(約185マイル)を下回り、年内に大気圏へ再突入するおそれがあるとされています。約300kmというのは、救出機が間に合って軌道を押し上げられる、ぎりぎりの下限でもあります。

スウィフトの運用チームは時間を稼いできました。2026年2月には観測をいったん止め、機体を抵抗が最も小さくなる向きにして、落下のペースを抑えています。

救出機「LINK」がやること

LINKは、冷蔵庫ほどの大きさのロボット衛星です。重さは約400kg、高さは約1.5mほどで、スウィフト本体のおよそ3分の1の大きさにあたります(重さは資料によって約400〜425kgと幅があります)。約6mのソーラーパネルで、3基のイオンスラスタ(電気で推進する静かなエンジン)と、3本のロボットアームを動かします。

段取りはこうです。まずLINKをロケットで軌道に乗せ、数週間かけて推進・航法・センサーが正しく働くかを点検します。問題がなければスウィフトにゆっくり近づいて様子を確かめ、3本のアームでつかみます。そこからイオンスラスタを使い、数週間から数か月をかけて少しずつ高度を上げ、元の約600km(約370マイル)付近まで戻したら、スウィフトを切り離す――という流れです。うまくいけば、スウィフトの科学運用は5年以上延びると見込まれています。

つまり今回の山場は、ドッキング用の差し込み口すら用意されていない衛星を、ロボットアームだけで“つかんで持ち上げる”という、前例のない一点に集約されています。

1年足らずの開発と最後のペガサスXL

このミッションでもうひとつ目を引くのが、準備の速さです。NASAがカタリストに製作を委ねたのは2025年9月。そこから打ち上げまでが9か月足らずで、実際の機体の製作はおよそ7〜8か月だったとされています。新しい衛星を一から作り、しかも整備を想定していない望遠鏡へ向かわせる計画としては、異例の短さです。

打ち上げには、空中発射式のロケット「ペガサスXL」が使われます。改造した大型機「スターゲイザー」が高度約12km(約4万フィート)までロケットを運び、空中で切り離すと、数秒の落下のあとにロケットが点火してLINKを軌道へ届けます。発射の拠点は、太平洋・マーシャル諸島のクェゼリン環礁です。なお、今回飛ぶペガサスXLは在庫として残った最後の1機で、長く続いた空中発射ロケットの歴史にひと区切りがつくことにもなります。

衛星を“延命”するという新しい選択肢

NASAは、今回をスウィフト1台の救出で終わらせるつもりはありません。狙いのひとつは、「いったん軌道に上げた衛星を、後から押し上げたり、燃料を足したり、直したりして使い続ける」という整備技術を、実地で示すことにあります。これが成り立てば、寿命が近い衛星をすぐに捨てずに延命できる道が開けます。

関心を寄せている関係者もいます。たとえばハッブル宇宙望遠鏡も少しずつ高度を下げており、今後の数十年で再突入する可能性が指摘されています。かつてはスペースシャトルが人を運んで何度もハッブルを押し上げましたが、今は同じことができません。ロボットによる押し上げが現実の選択肢になれば、その意味は小さくありません。米国防総省も、壊れたり機能停止したりした衛星を素早く整備する能力に注目していると報じられています。

3000万ドルをめぐる賛否

今回の契約額は約3000万ドル(数十億円規模)です。22年も働いた古い望遠鏡に、これだけの費用をかける価値があるのか――という疑問は当然出ます。NASA側の説明は、スウィフトにしかできない“すぐに振り向く”能力を別の新しい望遠鏡で置き換えるより、押し上げて延命するほうが安く済む、というものです(スウィフト自体は2004年に約2億5000万ドルで打ち上げられました)。

一方でNASAは、「軌道から落ちてくるものは何でも押し上げるべきだ」という前例にはしたくない、とも明言しています。多くの衛星が役目を終えて大気圏で燃え尽きるのは、宇宙のごみを減らすうえで必要なプロセスでもあるからです。あくまで“代わりのいない特別な観測装置”だから救う、という線引きです。

解釈上の留意点

このミッションは、NASA自身が「高リスク・高リターン」と呼ぶ挑戦です。本記事を書いている時点ではまだ打ち上げ前で、成否は決まっていません。打ち上げ日は「6月30日以降(no earlier than)」という条件付きで、天候や機体の状態しだいでずれる可能性があります。捕獲の段階でも、ソーラーパネルの不具合や、機体を覆う断熱材の劣化、大きな太陽嵐による落下の加速など、うまくいかない要因はいくつもあると指摘されています。「成功した」という前提では読まない方がよい段階です。

また、機体の重さや開発期間、高度の数字は、発表元や時期によって少しずつ違う値が出ています。ここではNASAの最新の発表に近い値を中心に、幅があるものはそのまま幅として書いています。続報が出れば数字が更新される可能性があります。

出典

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