10.7光年先に、住めるかもしれない惑星——ただし話はそう単純じゃない

宇宙・天文
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「地球に似た惑星が見つかった」というニュースは、正直もう何度も聞いた気がします。でも今回のは、ちょっと事情が違います。なにせ場所が近い。10.7光年先、宇宙の感覚で言えば“ほぼお隣さん”のところに、水をたたえられるかもしれない惑星が確認されました。GJ 887 d という名前の星です。

ただ、近所だからといって「住める」とまで言えるかというと、そこはまだ慎重に見たほうがいい——という、その絶妙なラインの話をしてみたいと思います。

10.7光年って、どのくらい近いの?

光の速さで10.7年。数字だけ見ると遠そうですが、星の世界ではこれはかなりの近距離です。太陽の次に近いプロキシマ・ケンタウリが約4.2光年なので、それに次ぐご近所グループに入るくらいの感覚。夜空にある無数の星を思えば、文字どおり目と鼻の先です。

この惑星がまわっている星は GJ 887(ジー・ジェイ887)。みなみのうお座の方向にある赤色矮星(せきしょくわいせい)です。赤色矮星というのは、太陽より小さくて暗く、表面温度も低めの星のこと。GJ 887 は太陽の半分くらいの重さで、宇宙にいちばんありふれたタイプの星でもあります。しかもこの星、赤色矮星にしては珍しく“おとなしい”。赤色矮星は大きなフレア(爆発現象)を起こして暴れがちなのですが、GJ 887 は活動が穏やかなことで知られています。惑星にとっては、ありがたい大家さんかもしれません。

見つかったのは「スーパーアース」

今回の主役 GJ 887 d は、いわゆるスーパーアースに分類されます。地球より大きく、海王星よりは小さい——そのあいだのサイズの岩石惑星っぽい天体を、ざっくりこう呼びます。

重さは少なくとも地球の6.5倍ほど。じつはこの「6.5倍」は最小の値で、実際はもっと重い可能性もあります(理由はあとで触れます)。星のまわりは約51日で1周しています。地球が太陽を1年かけてまわるのに比べるとずいぶん駆け足ですが、相手が暗くて小さい赤色矮星なので、近めの軌道でもちょうどいい暖かさになりうる、というわけです。

そしてこの惑星は、星のハビタブルゾーン(生命居住可能領域)の中にあります。これは「水が液体のまま存在できる、星からほどよい距離の帯」のこと。熱すぎず冷たすぎず、というゴルディロックス(おかゆが熱すぎず冷たすぎず“ちょうどいい”童話のあれ)な場所です。GJ 887 d が受けている光の量は、地球が太陽から受けている量のだいたい8割ほど。すこし控えめですが、ちゃんと“帯”の中に収まっています。

研究チームによれば、GJ 887 d はプロキシマ・ケンタウリ b に次いで、ハビタブルゾーンにある惑星としては2番目に近いとのこと。これはなかなかの肩書きです。

どうやって見つけたの?

使われたのは視線速度法(しせんそくどほう)という、惑星探しの定番の手口です。惑星が星のまわりをまわると、その重力で星のほうもほんのわずかに揺さぶられます。ダンスでパートナーに引っ張られて、自分も少しよろめく——あのイメージです。その小さなよろめきを、星の光のわずかな色のズレとして読み取るわけです。

じつは GJ 887 の惑星さがしは、いきなり始まった話ではありません。2020年の研究(Science誌)で、すでに2つの惑星が見つかっていました。そのとき「50日くらいの周期で、もう1つ何かありそうだけど確証がない」という“あやしい信号”も引っかかっていたのです。それが星のシミ(黒点のような活動)なのか、本物の惑星なのか、当時は判断がつかなかった。

今回、チリにある望遠鏡の高精度な観測装置 HARPS と ESPRESSO で新しいデータを足し、ていねいに解析し直した結果、その50日の信号は本物の惑星だったと確認されました。さらにオマケで、地球くらいの重さの惑星(こちらは星に近すぎて熱そう)も新たに見つかり、GJ 887 はいまや少なくとも4つの惑星を従える一家に。もう1つ候補があるかも、という話まで出ています。にぎやかな家族です。

「住める」とまでは、まだ言えない

ここが大事なところ。見出しやSNSでは「地球そっくり」「住めるかも」と威勢のいい言葉が飛び交いましたが、研究の中身はもう少し控えめです。

まず、この惑星の大きさ(半径)がわかっていません。視線速度法は重さの“最小値”を教えてくれますが、惑星が星の手前を横切ってくれない(トランジットしない)ので、直径は測れていないのです。直径がわからないと密度が出せず、密度が出せないと「岩でできた星」なのか「水の惑星」なのか「ガスをまとったぷっくりした星」なのかが決められません。論文も、この3パターンのどれもありうる、と正直に書いています。

地球の6倍超という重さも、見方によっては気になります。これだけ重いと、分厚い大気をまとった金星のような“温室の蒸し風呂”になっている可能性もある。逆に、もし大気が薄ければ、ハビタブルゾーンにいても表面は凍えるほど冷たいかもしれません。「ちょうどいい場所にいる」ことと「実際にちょうどいい気候だ」ことは、イコールではないのです。大気しだいで、天国にも地獄にもなりうる、というのが正直なところ。

つまり、GJ 887 d は「住めるとわかった惑星」ではなく、「住める可能性を真面目に調べる価値がある、すごく近い惑星」。そこが今回のいちばん誠実な要約だと思います。近いのに、肝心なところはまだ霧の中。じれったいけれど、だからこそ面白い。

それでも注目される理由

では「わからないことだらけなら、騒ぐほどでもないの?」というと、そうでもありません。むしろ“近い”という一点が、この発見を特別にしています。

今後、宇宙に打ち上げが検討されている次世代の望遠鏡(生命の兆候を探す Habitable Worlds Observatory や、赤外線で惑星をとらえる LIFE といった計画)にとって、近くて、まわっている星が明るくて穏やかな GJ 887 d は、大気を直接調べる“狙い目”になりえます。もし将来、その大気のなかに生命のサインらしきものが見つかれば——という夢が、現実的な射程に入ってくる。論文でも、ぎりぎり観測の届くか届かないかのライン、と位置づけられています。手が届きそうで届かない、という距離感がまたいいんですよね。

出典・もっと知りたい人へ

この記事は、査読を経て学術誌に掲載された次の論文をもとにしています。数値や表現は、できるだけ原典に沿うようにしました。

「お隣にこんな星があったのか」と、夜空を見上げる口実がまた1つ増えました。宇宙のニュースは、こういう近所の発見がふいに飛び込んでくるのが楽しいところ。面白い話があれば、これからも拾って紹介していきたいと思います。

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