飛行機は“車輪で速さを測らない”のに、どうやって速度を知るのか

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車を運転しているとき、スピードメーターは車輪の回転から速さを割り出している。タイヤが何回まわったかを数えれば進んだ距離がわかり、時間で割れば速度が出る。ごく素直な仕組みだ。

ところが飛行機は地面から浮いている。車輪は空を飛んでいるあいだ何の役にも立たないし、ヘリコプターにいたっては、そもそも回る車輪を持たない機体すらある。では、空を飛ぶ乗り物はいったい何を手がかりに「いま時速何キロで進んでいるか」を知っているのか。

答えは大きく分けて二つある。ひとつは何百年も前からある、流体力学を使った素朴な方法。もうひとつは、ここ数十年で使えるようになった現代的な方法だ。Hackadayが両方をわかりやすく整理していたので、その中身をたどりながら、飛行機が速度を測る仕組みをのぞいてみる。

対気速度と対地速度

まず押さえておきたいのは、飛行機の「速度」には種類があるということ。ふだん私たちが速さと言うとき、たいていは地面に対する速さ——地上のある地点から別の地点へどれだけ速く移動したか——を指している。飛行機の世界ではこれを対地速度(たいちそくど)と呼ぶ。

けれど、パイロットがもっと気にするのは別の速さだ。機体のまわりを流れる空気に対して、どれだけ速く進んでいるか。これを対気速度(たいきそくど)という。

なぜ空気に対する速さが大事なのか。飛行機を空に浮かせているのは、翼にあたって流れる空気だからだ。翼がどれだけ浮く力(揚力)を生むかは、翼にあたる空気の速さで決まる。地面に対していくら速くても、追い風で翼まわりの空気があまり流れていなければ、翼は十分な力を得られない。逆に地上で止まっていても、強い向かい風を受ければ翼は浮こうとする。パイロットが知りたいのは、飛び続けられるかどうかを左右するほうの数字——空気に対する速さなのだ。

圧力差から速さを知る仕組み

では、その空気に対する速さをどうやって測るのか。ここで登場するのがピトー管という細い管だ。フランスの技術者アンリ・ピトーが1732年に考案したとされる、ずいぶん歴史のある道具である。

やっていることは意外なほど単純だ。飛行機の機首や翼の前に、進行方向へまっすぐ口を開けた管を突き出しておく。飛行機が前へ進むと、この口には向かってくる空気がぶつかって押し込まれる。速く進むほどぶつかる空気の勢いは強くなり、管の中の圧力は高くなる。この「空気がぶつかって高くなった圧力」を全圧(ぜんあつ)、あるいはよどみ圧と呼ぶ。

ただし、これだけでは足りない。管の中の圧力には、飛行機が進んでいなくても存在する、その場の大気そのものの圧力もふくまれているからだ。速さのぶんだけを取り出すには、この「もともとの大気の圧力」を差し引かなければならない。

そこで機体の側面に、空気の流れと平行になるよう別の小さな穴を開けておく。流れに正面を向けていないので、この穴には空気がぶつからず、その場の大気の圧力だけがかかる。これを静圧(せいあつ)孔という。

あとは引き算だ。正面で受けた全圧から、横で測った静圧を引く。残るのは、飛行機が空気を押しのけて進むことで生まれた圧力——動圧(どうあつ)だけになる。動圧は速さが上がるほど大きくなるので、そこから対気速度が計算できる。窓から手を出したときに感じる風圧が、速いほど強くなるのと同じ話で、その圧力を引き算で数字に変えているわけだ。機体が止まっていれば全圧と静圧は等しくなり、速度計はきちんとゼロを指す。

衛星測位による速度測定

ここ数十年で、まったく別のやり方も使えるようになった。GPSに代表される衛星測位(GNSS)だ。受信機の位置が時間とともにどれだけ動いたかを見れば、速さは簡単に割り出せる。市販の受信機なら、どれでも標準でこの数字を出してくれる。GPSでもGalileoでもGLONASSでも、主要な測位システムなら同じことができる。

ただし、GPSがわかるのは地面に対する速さ、つまり対地速度のほうだ。さきほど見たとおり、飛行機を飛ばし続けるのに本当に必要なのは空気に対する速さ。だからGPSの速度は、ふだんは主役の計器としては使われない。ピトー管の系統が使えないときの予備や、表示がおかしいときの確認用として役立つ、という位置づけになっている。ガラスコックピットと呼ばれる最新の液晶表示にも、GPS由来の対地速度は補助情報として出てくるが、機体を飛ばすための主データではない。

ピトー管が使われ続ける理由

もうひとつ、素朴なピトー管がいまだ現役であり続ける理由がある。高いところほど空気は薄くなるので、翼に同じ「空気の勢い」をあてるには、実際にはより速く飛ばなければならない。ピトー管が示すのは、まさにその「翼にあたる空気の勢い」に対応した速度だ。翼が浮く力も、機体にかかる負荷も、この勢いで決まる。だから計器が示す対気速度は、パイロットにとって「いま飛べているかどうか」に直結した、いちばん扱いやすい数字になっている。薄い空気を補正した“本当の速さ”(真対気速度)は、必要に応じてそこから別に計算で出す。

つまり、電子機器で固めた最新のコックピットでも、速さを測る土台は300年近く前と同じ物理のまま。センサーが賢くなっただけで、原理そのものは変わっていない。

詰まりのリスクと冗長性

単純な仕組みだけに、弱点もある。ピトー管の口がふさがれば圧力を正しく測れず、速度計はでたらめな値を出す。原因は氷のこともあれば、小さな虫のこともある。Hackadayの書き手も、一匹のバッタが管に入り込んで小型機のコックピットが大混乱した、という経験にふれている。

だから航空機では、同じ計器を複数そなえておく冗長性が重視される。ひとつが詰まっても、別の系統で異常に気づける。実際、2009年のエールフランス447便の事故では、ピトー管の凍結による速度表示の乱れが引き金のひとつになったとされる。単純で信頼できる仕組みだからこそ、詰まりへの備えは欠かせない、というわけだ。

車のスピードメーターがタイヤの回転から速さを知るように、飛行機は空気の圧力差から速さを知る。見た目はまるで違うのに、どちらも身のまわりの物理をうまく数字に変えているという点では同じだ。次に飛行機の機首あたりに突き出た細い管を見かけたら、あれが300年前の知恵で速度を測っているのだと思い出すと、少し見え方が変わるかもしれない。

出典・参考リンク

How Airspeed Sensors Work(Hackaday, 2026-06-30)

How does a speedometer in an airplane work?(HowStuffWorks)

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