中国のフードデリバリー大手・美団(メイトゥアン)が2026年6月30日、輸入した高性能GPUを一切使わず、国産の半導体だけで学習させたという巨大なAIモデルを無料公開しました。名前は「LongCat-2.0(ロングキャット2.0)」。パラメータ(AIの規模を示す数)は1兆6000億にのぼり、同社は「学習から実行までのすべてを国産チップだけでやり切った、世界初の1兆パラメータ級モデル」だと位置づけています。ただし、この「世界初」や性能をめぐる主張は、いまのところ美団自身の発表にもとづくもので、第三者による独立した検証はまだ出ていません。
発表の概要
LongCat-2.0は6月30日に公開され、モデルの中身(重み)ごとGitHubやHugging Faceで配布されています。MITライセンスで、商用も含めて誰でも利用できます。手がけたのは、日本でいう出前アプリに近いサービスで知られる美団です。AI開発では後発にあたり、社内チームがモデルを世に出し始めたのは2025年後半から。今回のLongCat-2.0は、昨年秋に公開した前のモデル(5600億パラメータ)から1年たたずに、規模を約3倍へ広げた形になります。
同社が想定している用途は、コードを書いたり直したりする作業を任せる「エージェント型」の使い方です。プログラミング支援ツールの“頭脳”として動かすことを狙って設計した、としています。実際、AIモデルの実力を競うOpenRouterというプラットフォームの利用ランキングで、このモデルが上位に立っていたことも伝えられています。

国産チップだけで学習を完結という主張
今回いちばん注目されているのは、モデルの大きさそのものよりも「どこで作ったか」です。美団は、5万枚規模の国産チップを束ねた計算機の集まりだけで、学習から実行までの全工程をこなしたと説明しています。米エヌビディアの最上位GPU(A100やH100など)は使っていない、という主張です。
ここで効いてくるのが「学習(事前学習)」と「実行(推論)」の違いです。推論は、できあがったモデルに質問を投げて答えを返させる段階。いっぽうの事前学習は、膨大なデータを読み込ませて言葉のパターンを一から覚えさせる段階で、必要な計算量はこちらのほうがずっと大きくなります。中国のDeepSeekが4月に出した最新モデル(V4-pro)は、国産チップを推論だけに使っていたとされます。LongCat-2.0はその一歩先で、計算の重い事前学習まで国産チップで回した——というのが美団の言い分です。つまり、設計から訓練、運用までを国産のハードだけでひと通り回せることを示そうとした、というわけです。
仕組みと特徴
LongCat-2.0は「Mixture-of-Experts(MoE、混合エキスパート)」と呼ばれる作りを採っています。ざっくり言えば、モデルの中に“得意分野を持った小さなAI”をいくつも用意しておき、入ってきた課題ごとに関係するものだけを呼び出して動かす仕組みです。全体をいちいち総動員しないので、規模のわりに動かすコストを抑えられます。DeepSeekや、フランスのMistralが出しているモデルと同じ系統の設計です。
もうひとつの特徴が、一度に読み込める文章の長さ(コンテキスト)で、最大100万トークンまで扱えます。長い資料やコードのまとまりを、途中で切らずにまるごと渡せる、というのが売りです。
輸出規制という背景
この発表がニュースになる背景には、米国による半導体の輸出規制があります。2022年末以降、米国は先端AIチップの中国への流入を段階的に絞ってきました。その制約のなかで、中国側は国産の代替チップに力を入れてきた、という流れです。今回のハードは「大規模なASIC(特定用途向けに作った専用チップ)のスーパーポッド」だと説明され、報道では華為技術(ファーウェイ)系の技術が使われているとも伝えられています。ただし、このチップの中身については、美団の公式説明というより報道ベースの補足という段階です。
もし主張どおりなら、「先端GPUを断たれても、大型モデルは自前のチップで作れる」ことを示す一例になります。AIのハードをめぐる競争は米国側でも激しく、各社が自前のチップ開発に動いています。米中どちらの陣営も、モデルそのものだけでなく“それを動かす土台”の内製を急いでいる——今回の動きは、その構図のなかに置くと意味がつかみやすくなります。
解釈上の留意点
いくつか、鵜呑みにしないほうがよい点があります。まず「世界初」「国産チップだけ」「性能はトップ級」といった見せ方は、いずれも美団自身の発表にもとづくものです。同社は自社のベンチマークで、グーグルやOpenAI、Anthropicの最上位モデルと肩を並べる数字を示していますが、Artificial Analysisのような第三者機関による独立した性能評価はまだ出ていません。使ったチップの詳細も、一部は報道による補足で、すべてが公式に裏づけられているわけではありません。
とはいえ、重みが公開されている以上、これから多くの研究者や開発者が実際に触り、性能や再現性を確かめていくことになります。数字が独立に検証されるのを待ちながら、「制約のなかでどこまでできるか」を測る材料が一つ増えた、という受け止めがちょうどよさそうです。
出典
発表の一次情報は、美団の公式ブログ(英語)にあるLongCat-2.0の告知ページです。報道は、ロイター発の記事(Reuters/Investing.com掲載)や、規模・仕様をまとめたSouth China Morning Postの記事が参考になります。


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