ダークマターを“欠く”3例目の銀河、ケック望遠鏡が発見

宇宙・天文
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宇宙にある銀河のほとんどは、目に見えない「ダークマター(暗黒物質)」にがっちり包まれている——というのが、これまでの常識でした。ところが、その常識に当てはまらない銀河が、また一つ見つかりました。ハワイ・マウナケア山頂のケック望遠鏡による観測で、ダークマターをほとんど持たないように見える3例目の銀河「DF9」が確認されたのです。しかもこのDF9、ぽつんと単独であるわけではなく、同じようにダークマターを欠く2つの銀河と一直線に並んでいました。

ダークマターの役割

ダークマターは、光を出さず直接は見えないのに、重さ(重力)だけははっきり効いている、正体不明の質量のことです。1970年代に天文学者ヴェラ・ルービンが、銀河の回転のしかたから「見えている星やガスだけでは説明がつかない重さがある」ことを示し、その存在が広く受け入れられるようになりました。いまでは、宇宙全体の質量のおよそ85%がこのダークマターだと見積もられています。

役割をひとことで言うと、銀河をつなぎとめる“骨組み”です。星やガスは、この見えない重さが作る大きな塊(ハロー)の中に抱え込まれる形で銀河になった、と考えられてきました。だから普通は、小さな銀河ほど中身の大半をダークマターが占めています。今回のDF9は、その骨組みがすっぽり抜け落ちているように見える、というのが驚きどころです。

淡く広がった銀河DF9

DF9は、地球から約4,500万光年離れた「NGC 1052」という銀河の周辺にある、とても淡くて広がった矮小(わいしょう)銀河です。研究チームがこの銀河の重さを見積もったところ、太陽およそ1億個ぶん。これは、DF9の中で光っている星やガスだけの重さと、ほぼぴったり一致しました。

もしDF9が普通の銀河のようにダークマターのハローをまとっていたら、全体の重さは今の約100倍——見えている中身だけでは到底説明できない重さになるはずです。ところが実際には、余分な重さがまったく見当たらない。星の中身だけで説明がついてしまう。つまり、この銀河にはダークマターがほとんど無い、ということになります。

ケック望遠鏡による測定

「重さが無い」ことを直接測るのは難しいので、チームは星の動きの速さから重さを逆算しました。銀河の中の星は、まわりの重力が強いほど速く動きます。逆に、動きがゆっくりなら、それだけ重力=重さも小さい、というわけです。

使われたのは、ケック望遠鏡に備わる「ケック宇宙ウェブ撮像装置(KCWI)」。淡くかすかな光を精密に分析するための装置です。DF9はとても暗くて広がっているため、十分な光を集めるのに10時間を超える露光が必要でした。集めた光を波長ごとに分けて調べた結果、星の動きの速さ(速度分散)はわずか秒速6.5キロほど。ダークマターがたっぷりある銀河なら、もっと速く動いていていいはずの数字です。ここが、今回の発見のいちばんの核心でした。

一直線に並ぶ銀河の意味

DF9のとなりには、以前からダークマターを欠くことで知られていた「DF2」と「DF4」という2つの銀河があります。この3つは、いくつもの淡い銀河が一直線に連なる細長い構造の一部で、まるでビーズを糸に通したように並んでいます。ダークマターの無い銀河が一列に並ぶ、という光景は、これまで見つかったことがありませんでした。

なぜこんな並び方になるのか。チームが有力視しているのは、大昔に起きた銀河同士の高速の衝突です。ぶつかった勢いで、星のもとになるガスだけがダークマターのハローから引きはがされ、そのガスから新しい銀河がいくつも生まれた——という筋書きです(「弾丸矮小銀河(bullet dwarf)」と呼ばれる考え方)。もしそうなら、一直線に並んだ銀河たちは、同じ一回の衝突から生まれたきょうだいということになります。

この見方には、もう一つ大事な意味があります。「ダークマターなんて本当は存在せず、遠くの銀河では重力の法則が少し違うだけでは?」という対立仮説(修正重力理論)に対して、今回の結果は分が悪い、ということです。重力の法則そのものが違うなら、ある銀河にだけダークマターが無い、という状況は起きにくい。ダークマターが“物として”あって、条件によっては引きはがされることもある——そう考えたほうが、DF9のような銀河をうまく説明できる、というわけです。

解釈上の留意点

とはいえ、DF9はとても暗くて測りにくい相手です。星の動きは慎重な補正のうえで導かれた値で、今後さらに観測を重ねて確かめていく段階にあります。また「衝突で生まれた」という筋書きを裏づけるには、そのとき置き去りにされたはずのガスを見つけたいところ。チームは他の望遠鏡や、新設の「Mothra(モスラ)」望遠鏡などを使って、追加の観測を進めています。研究自体は査読を経て学術誌に掲載されたものですが、銀河のでき方の描き方を書き換えるほどの話になるかどうかは、これからの検証しだいです。

出典

Yale News「Third time’s the charm for a row of faint galaxies without dark matter」
W. M. Keck Observatory「Astronomers Discover Third Galaxy Without Dark Matter」
Universe Today「Astronomers Discover Another Galaxy With No Dark Matter」
The Astrophysical Journal(Keim et al. 2026、査読済み論文)

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