ブラックホールは星を食べたあと“げっぷ”する——数年遅れて届く電波の輝き

宇宙・天文
スポンサーリンク

星をまるごと飲み込んだブラックホールが、数か月から、ときには数年も経ってから「げっぷ」をする——そんな後始末の悪さが、電波の観測ではっきりつかまえられました。光が消えて静かになったように見えても、ブラックホールの食事はまだ終わっていなかった、という話です。

星を引き裂く潮汐破壊

きっかけは「潮汐破壊(ちょうせきはかい)」と呼ばれる現象です。星が銀河の中心にある超巨大ブラックホールに近づきすぎると、近い側と遠い側で重力の引っぱられ方に大きな差が生まれます。この差が星を細長く引き伸ばし、最後には麺のように引き裂いてしまう。研究者はこれを「スパゲッティ化」と呼んでいます。

引き裂かれた星のかけらの一部がブラックホールへ落ち込むと、ふだんは静かな銀河の中心が、可視光・紫外線・X線で一瞬まばゆく輝きます。これが潮汐破壊のサインです。そして、その閃光(せんこう)がしばらくして消えれば、ごちそうは終わり——長らくそう考えられてきました。

電波で遅れてくる輝き

ところが、電波で見ると話はそこから始まっていました。アリゾナ大学のケイト・アレクサンダー氏らのチームが、アメリカ・ニューメキシコ州にある大型電波望遠鏡群「VLA(超大型干渉電波望遠鏡群)」を使い、31件の潮汐破壊を長期にわたって追いかけたところ、閃光が消えたあと数か月から数年も経ってから、電波で再び明るくなる事例が驚くほど多く見つかったのです。

食べ終えたように見えたブラックホールが、しばらくしてから食べきれなかった分を吐き出す。アレクサンダー氏自身、この遅れて届く電波の輝きを「げっぷ」にたとえています。可視光が消えた時点で観測をやめていたら、見逃していたはずの“アンコール”でした。

げっぷが起きる二つの場面

面白いのは、この遅れた電波が「ちょうどいい一つの食べ方」から出てくるわけではない、という点です。チームが可視光・紫外線・X線のデータと突き合わせて、電波が届いたときにブラックホールがどのくらいの勢いでガスを飲み込んでいたかを見積もったところ、正反対の二つの場面で起きていることが分かりました。

一つは、潮汐破壊から数百日が経ってもなお、ブラックホールが猛烈な勢いで食べ続けている最中。もう一つは、いったん落ち着いて食べるペースがぐっと落ちたあと。早食いのときも、ゆっくり食べのときも、落ち込むガスの一部が飲み込まれずに外へ吹き出してしまう、というわけです。

吹き出したガスが周囲のガスにぶつかると衝撃波が生まれ、そこで加速された粒子が電波を放ちます。つまり遅れて届く電波の輝きは、事象の地平面(じしょうのちへいめん=光さえ抜け出せない境界)のすぐ近くから打ち出されたジェットや風が、周りのガスにぶつかった跡だと考えられます。ブラックホールの大きさが太陽の数倍でも数百万倍でも、同じ仕組みが働いているらしい、というのも今回の見立てです。

31事例を電波で追った観測

この研究は、VLAを主力にして潮汐破壊を年単位で追い続けた、電波としては過去最大規模のサンプルにあたります。電波の光をくわしくモデル化したオレゴン大学のイベット・センデス氏らの先行研究が土台になり、今回の結果を支えています。一度の閃光で終わる単発の珍事ではなく、ブラックホールが食べ、外へ吹き出し、周囲を作り変えていく一連の物語として、潮汐破壊をとらえ直したことになります。

将来の観測に向けた手がかりも得られました。あとから電波を出す潮汐破壊は、最初の可視光のスペクトルでヘリウムの輝線が出にくい傾向がある。最初から見た目が少し違うこうした事象こそ、長く追えば「げっぷ」をつかまえやすい有望株だ、というわけです。

静かな銀河中心の見直し

銀河の中心にいる超巨大ブラックホールは、ふだんは静かで目立ちません。けれど今回の観測は、その静けさが見かけだけかもしれないことを示しています。一度星を食べたブラックホールは、想像よりずっと長く、散らかった食べ方を続け、エネルギーを周囲に吐き戻している。そうしてブラックホールと銀河は、互いに影響し合いながら一緒に育っていきます。その過程を、電波という“耳”でリアルタイムに聞き取れるようになってきた、というのが今回の収穫です。

つまり、星を食べたブラックホールの食事は、まばゆい光が消えても何年もひそかに続いている——電波がそれを聞き分けて教えてくれた、ということになります。

解釈上の留意点

この成果はアメリカ天文学会の第248回会合で発表され、査読つきの専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に論文として掲載されています。ただし、なぜそのタイミングで遅れて吹き出すのか、個々の事例で何が起きているのかなど、まだ詰めきれていない部分も残っています。今後、より多くの事例を追うことで、絵がはっきりしていくと期待されます。

出典・もっと知りたい人へ

Astronomers Catch Black Holes “Burping” in Radio with the NSF VLA(NRAO 国立電波天文台 プレスリリース)

The Black Holes That Burp Years After They Eat(Universe Today)

論文本文(The Astrophysical Journal)

コメント

タイトルとURLをコピーしました