AIを業務に取り入れたのに、売上や利益にはつながっていない——。そんな企業がいまだに大半を占める、という調査結果をデロイトが公表しました。仕事のやり方は確かに変わりつつある。でも、お金の面ではまだ報われていない。世界中でAIへの投資が膨らむなか、「で、もうかっているの?」という問いに対する、わりと冷静な答えがそろってきています。
調査の名前は「State of AI in the Enterprise(企業におけるAIの実態)」。デロイトが毎年出している定点観測のレポートで、2026年版が2026年1月に公開されました。元になっているのは、2025年8〜9月に世界24カ国・6業種の企業で、取締役・経営幹部クラスから部長クラスまで合計3,235人に答えてもらったアンケートです。経営の意思決定に近い人たちが、自社のAI活用をどう見ているかをまとめたもの、と思って読むとちょうどいい中身になっています。

期待と現実の差
この調査でいちばんはっきり出ているのが、「やりたいこと」と「実際にできていること」のズレです。AIで売上を伸ばしたいと答えた企業は74%。ところが、実際に売上が伸びたと答えたのは20%にとどまりました。4社に3社が期待しているのに、手応えを得られているのは5社に1社、という構図です。
では何の役にも立っていないのかというと、そうではありません。「生産性や効率が上がった」と答えた企業は66%にのぼり、これが「いま実際に得られている効果」のトップでした。AIが効いているのは、仕事を速く・ラクにする部分。一方で、その効率化が会社の売上や利益にまで届いているかというと、そこはまだ、という温度感です。
生産性と利益のねじれ
ここで素朴な疑問が浮かびます。3分の2の企業で生産性が上がっているのに、売上が伸びた企業は5分の1しかいない。効率が上がったぶんは、どこへ消えているのでしょうか。デロイトのレポートでも、この食い違いにはっきりした答えは示されていません。
考えられる理由はいくつかあります。浮いた時間がそのまま別の作業に吸われていて、数字として表に出てこない。あるいは、コスト削減や品質改善といった「内向き」の効果は出ていても、新しい商品や市場を生む「外向き」の成果にはまだ結びついていない——。実際、AIを使って事業そのものを作り替えようとしている企業は34%で、残りはおおむね、いまある業務の自動化や効率化にとどまっているとされます。AIで「いまの仕事を速くする」のと、「会社のもうけ方を変える」のは別物で、多くの企業はまだ前者の段階にいる、というわけです。
明るい材料がないわけではありません。AIが自社に「変革的な影響」を与えていると答えた経営者は25%で、1年前の12%から倍増しました。AIへの投資を増やした企業は84%。手応えを感じている層は、着実に増えてはいます。
雇用への影響
仕事への影響についても、数字が出ています。1年以内に「自社の仕事の1割以上が完全に自動化される」と見込む企業は36%。これが3年以内という見方になると82%まで跳ね上がります。多くの経営層が、そう遠くないうちに一定の仕事は機械に置き換わると考えている、ということです。
ただ、その見込みに合わせて組織を作り替えている企業はまだ少なく、84%が「AIに合わせて仕事の役割を設計し直してはいない」と答えています。現場の温度差も大きく、技術職以外の社員でAIに強い意欲を持って使っているのは13%だけ。残りは「使ってもいい」が過半数で、避けたい・信用していないという人も2割以上いました。トップが描く未来と、現場の足取りのあいだには、まだ距離があります。
重なるPwCの結果
似た結論は、ほかの調査からも出ています。コンサルティング大手のPwCが世界の経営トップ4,454人に聞いた年次調査でも、AIから「コスト減も売上増も得られていない」と答えたCEOが56%にのぼりました。売上が増えたという回答は30%、コストが下がったは26%。むしろAIで費用が増えたという回答も22%ありました。
投資はどんどん先行しているのに、リターンははっきり見えてこない。いわゆる「AIバブル」がいま立っている場所を、二つの大きな調査が同じ方向から照らしている、と読むことができます。
解釈上の注意点
数字を受け取るときに、いくつか押さえておきたい点があります。まず、これはあくまで企業へのアンケートで、各社の自己申告がもとになっています。売上やコストへの効果を、企業がどこまで正確に切り分けて測れているかは別問題で、「効果が出ていない」と「効果を測れていない」は必ずしも同じではありません。
もう一つ、調査の出し手であるデロイトは、AI活用を支援する側のコンサルティング会社でもあります。レポート自体は「AIはまさに飛躍の手前にいる」という前向きな見立てで締められていて、ここは割り引いて読んでおくとフェアです。逆に言えば、その立場の会社が出した調査ですら「いまのところ利益には結びついていない」と認めている、とも受け取れます。
つまり、この結果は「AIは役に立たない」という話ではありません。生産性が上がっているのは本当で、変革を実感する企業も増えている。ただ、それが会社のもうけに変わるところまでは、まだ多くの企業がたどり着いていない——。過度に楽観も悲観もせず、いまはそういう途中段階なのだと押さえておくのが、いちばん実態に近そうです。
出典・参考
Deloitte「State of AI in the Enterprise」2026年版 プレスリリース(Deloitte AI Institute)
Deloitte「State of AI in the Enterprise」2026年版 レポート紹介ページ
The Register: Deloitte sees enterprises adopting AI without revenue lift


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