日本の夜空にまれに現れる、ぼんやりした赤いオーロラ。その光が、思っていたよりずっと高いところ——地上500〜800kmまで届いていたことがわかりました。国際宇宙ステーション(ISS)が飛んでいるのがだいたい高度400kmなので、それよりも上に広がっていたことになります。しかも、それほど激しくない「中くらいの磁気嵐」のときに起きていた、というのが今回の研究のおもしろいところです。
調べたのは、北海道大学と沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チーム。2024年6月から2025年3月にかけて北海道から観測された5件の赤いオーロラを分析した結果が、2026年5月に専門誌に発表されました。
日本の空に現れる赤いオーロラ
オーロラと聞くと、北極圏の空に緑のカーテンが揺れる映像を思い浮かべる人が多いと思います。あれは、太陽から飛んでくる電気を帯びた粒(荷電粒子)が、地球の大気の酸素や窒素にぶつかって光る現象です。ぶつかる高さや相手の分子によって色が変わり、緑が出やすいのは比較的低いところ、赤が出るのはもっと高いところ、というおおまかな住み分けがあります。
日本のように緯度の低い場所では、強い磁気嵐のときだけ、北の空の低いあたりがぼんやり赤く染まることがあります。これが「低緯度オーロラ」で、高いところの薄い酸素が出す赤い光が主役です。日本では昔から記録があり、『日本書紀』に出てくる620年のものをはじめ、1400年以上にわたって「赤気(せっき)」の名で書き残されてきました。北海道では近年も、北の空が赤くなったのを山火事と間違えて消防車が出動した、という話があるくらい、ふだんは目立たない淡い光です。

予想を超えていた到達高度
日本のような低緯度で見える赤いオーロラは、ふつう高度200〜400kmあたりにできるとされてきました。ところが今回の5件は、およそ500〜800kmにまで届いていました。下端と上端で幅はありますが、これまでの「相場」のおよそ2倍の高さです。
意外だったのは高さだけではありません。これらが現れたとき、磁気嵐そのものは強くなかったのです。嵐の強さを示す代表的なものさしに「Dst指数」というものがあります。地球規模で磁場がどれだけ乱れたかを表す目安で、今回の出来事はピークでおおむね−110nT前後。これは「中規模」に分類される範囲で、空が大きく荒れるほどの大嵐ではありません。穏やかめの嵐なのに、オーロラだけが飛び抜けて高くまで昇っていた——ここが研究チームを驚かせた点でした。実際、チーム自身も「中規模の嵐でこんなに高いオーロラが出るとは思っていなかった」と振り返っています。
全国の観測者が支えた観測
「どのくらいの高さで光っていたか」を後から知るのは、簡単ではありません。空を見上げた一人ひとりには、オーロラが手前にあるのか奥にあるのか、ぱっと見ではわからないからです。そこで研究チームは、日本各地のアマチュア観測者が撮った写真を集め、人工衛星のデータと組み合わせました。
使ったのは、写真に写ったオーロラの「見上げる角度(仰角)」です。離れた複数の場所から同じオーロラを撮れば、それぞれの角度の違いから、光っている場所の高さを割り出せます。さらに、その光を地球の磁力線に沿わせてたどることで、どこまで高く伸びていたかを立体的に組み直しました。あちこちに散らばった人たちが同じ夜空を記録してくれたおかげで、決まった観測所だけでは取りこぼしてしまう、まれな現象を多地点でとらえられた——市民参加型の観測(シチズンサイエンス)が効いた研究でもあります。
中規模の嵐に隠れていた強さ
では、なぜ穏やかめの嵐でオーロラがそんなに高くまで昇ったのか。研究チームの説明はこうです。太陽から濃い「太陽風」(太陽から流れ出す荷電粒子の風)が吹きつけ、地球を包む磁気のバリア(磁気圏)をいつもより強く押し縮めた。その圧縮で大気の上層(熱圏)が温められて膨らみ、赤いオーロラができる場所が押し上げられた、というわけです。
同時に、もう一つ示唆されているのが「嵐は見かけより強かったかもしれない」という点です。荷電粒子が外へ抜けていく動きが、標準的なものさしの数字を実際より小さく見せていた可能性がある、というのです。つまり、Dst指数では「中規模」に見えても、地球の高いところで起きていたことはもっと激しかったかもしれない——指数だけでは嵐の本当の強さを取りこぼすことがある、という指摘です。
人工衛星の運用への影響
これは夜空の美しさの話にとどまりません。大気の上層が温まって膨らむと、そこを飛ぶ人工衛星が受ける空気の抵抗(大気抵抗)が増えます。抵抗が増えれば、衛星は予想より速く高度を落としてしまう。実際、過去には中規模とされた磁気嵐の最中に、打ち上げ直後の衛星が想定外に高度を下げて落下した例も報告されています。
低軌道を回る衛星はいま急速に増えています。だからこそ、「指数の上では中規模でも、上空ではもっと強く効いている」かもしれない、というずれを知っておくことには意味があります。研究チームは、今回の知見が宇宙天気予報の改善や、より安全な衛星運用につながりうるとしています。地上から見上げる淡い赤い光が、頭のはるか上を回る衛星の安全とつながっている、というのは少し意外な接点です。
解釈上の留意点
この研究は査読を経た専門誌に掲載されたもので、速報段階のプレプリント(査読前の原稿)ではありません。とはいえ、扱ったのは5件という限られた事例です。「濃い太陽風が磁気圏を押し縮めて高度を押し上げた」という説明も、観測とつじつまの合う有力な見立てではありますが、今後さらに多くの事例で確かめていく余地があります。「中規模の嵐でも、まれにオーロラが超高高度まで届くことがある」——いまの段階で言えるのは、ひとまずここまで、と受け取っておくのがよさそうです。
出典
元論文はオープンアクセスで、全文を無料で読めます。
Tomohiro M. Nakayama & Ryuho Kataoka, “Faint red auroras as seen from Japan associated with intense magnetospheric compression,” Journal of Space Weather and Space Climate, 2026.
元論文(Journal of Space Weather and Space Climate・全文無料)


コメント