リチウム電池の「金属のトゲ」、初めて硬さを測ってわかったこと

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スマホやノートパソコン、電気自動車の電池の中では、充電を重ねるうちに金属の小さな針が育っていくことがあります。「デンドライト」と呼ばれるこの針状の結晶は、電池がいきなり劣化したり、最悪の場合は発火したりする原因として、長いあいだ知られてきました。それなのに、この針が「硬いのか、やわらかいのか」という、いちばん基本的な力学的な性質は、実はよく分かっていませんでした。今回、その性質を世界で初めて1本ずつ直接測った研究が出ました。出てきた答えは、研究者たちの予想とは逆のものでした。

リチウム電池に潜む「金属のトゲ」

まず、デンドライトが何なのかをざっと押さえておきます。リチウムイオン電池を充電すると、リチウムが負極(マイナス側)に戻っていきます。本来なら、リチウムは負極の表面に均一に広がっていくはずです。ところが条件によっては、平らに広がらず、針のように一方向へ突き出して育ってしまうことがあります。これがデンドライト(語源はラテン語の「枝」)です。

大きさは、髪の毛の太さの約100分の1。直径にして数百ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリ)という、目では到底見えない細さです。この針が伸びていくと、電池の中でプラス側とマイナス側を隔てている薄い仕切り(セパレーター)を突き破ってしまうことがあります。プラスとマイナスが直接つながればショート(短絡)が起き、熱が生まれ、ひどいときには発火につながります。

やっかいなのは、発火に至らなくても損が出る点です。育ったデンドライトは途中で折れて、電池の中に取り残されることがあります。電気的につながりを失ったこの破片は「死んだリチウム(デッドリチウム)」と呼ばれ、もうエネルギーを蓄える役に立ちません。これが積み重なると、電池の容量がじわじわ減っていきます。デンドライトが、次世代のリチウム金属電池を実用化するうえで最大級の壁の一つとされてきたのは、こうした理由からです。

やわらかいはずが、硬くてもろい

これだけ長く研究されてきたテーマなのに、デンドライトそのものの「力学的な強さ」は、ナノスケールではほとんど測られていませんでした。ある程度まとまった量のリチウム金属は、やわらかくて、ねんどのように変形する金属です。だから研究者たちも、そこから生えるデンドライトも同じようにやわらかいだろうと考えていました。

ところが、実際に測ってみると正反対でした。デンドライトは予想よりずっと強度が高く、しかも「もろい」性質を持っていたのです。力を加えても、ねんどのようにぐにゃりと曲がるのではなく、乾いたパスタがポキッと折れるように壊れる。研究チームはそう表現しています。つまり、やわらかいと思われていた針は、実際には硬くてもろい「トゲ」だった——というのが今回いちばん意外だった点です。

硬さを生む薄い膜の正体

なぜ、やわらかいリチウムから硬くてもろい針ができるのか。鍵になるのは、デンドライトの表面にできる「SEI(固体電解質界面)」という薄い膜です。リチウムは反応しやすい金属なので、電池の中の電解液と触れると、表面にこの膜が自然にできます。研究では、この膜が針を外側から硬い棒のように締めつけ、さらにナノスケールの細さならではの強化も加わって、全体が硬くもろい構造になることが示されました。

この性質は、デンドライトが起こす2つのトラブルの両方を説明します。硬いからこそセパレーターを突き破る力を持ち、もろいからこそ折れて死んだリチウムになる。これまで別々に語られてきた「ショート」と「容量低下」が、同じ一つの性質から来ていた、という見方ができるわけです。

空気を断って1本ずつ測る工夫

こうした測定がこれまで難しかったのには、はっきりした理由があります。リチウムは空気中の酸素に触れるとすぐに反応して変質してしまうため、動いている電池からデンドライトを取り出して、性質を保ったまま測るのが至難の業だったのです。

研究チームは、空気を遮断した密閉の移送箱を自作し、電子顕微鏡(SEM)の中に試料を運び込めるようにしました。そのうえで、極細のプローブを使って、デンドライトを1本ずつ引っ張ったり押したりして強さを測定。さらに、試料を強く冷やして観察するクライオ電子顕微鏡(クライオTEM)と、スケールをまたいだコンピューターシミュレーションを組み合わせ、「なぜそうなるのか」まで突き止めました。今回の研究は、ライス大学、ジョージア工科大学、ヒューストン大学、シンガポールの南洋理工大学、ニュージャージー工科大学(NJIT)などの国際的な共同研究です。

より安全な電池設計への手がかり

性質が分かれば、対策の方向が見えてきます。デンドライトを硬くもろくしている犯人がSEIの膜なら、その膜のでき方を抑えたり、リチウムに別の金属を混ぜた合金の負極を使ったりして、「折れにくく・突き破りにくい」状態へ近づけられるかもしれない——研究チームはそうした設計のヒントを挙げています。

発火しにくく、長持ちする電池は、スマホからEV、電力をためる大型の蓄電池まで、私たちの暮らしのあちこちに関わります。今回の成果は、その土台になる「なぜ危ないのか」という物理を、推測ではなく実測で押さえた一歩だと言えます。

解釈上の留意点

気をつけておきたいのは、これは「デンドライトを消す方法が見つかった」という話ではない、という点です。研究者自身が、今のところ動いている電池からデンドライトを取り除く実用的な方法はない、とはっきり述べています。今回分かったのは、あくまで「なぜ危険なのか」という仕組みの部分で、それを防ぐ具体的な技術はこれからの課題です。

また、これは実験室での精密な測定にもとづく結果です。手元のスマホやEVの電池がすぐにどうこうという話ではなく、明日から製品が変わるわけでもありません。とはいえ、長年「やわらかいだろう」と思い込まれていた前提がくつがえった意味は小さくなく、電池の安全性を考えるうえでの出発点が一つ更新された、と受け止めておくとよさそうです。

出典

研究論文(Science誌、査読あり):Strong and brittle lithium dendrites(Science, 2026)
研究機関のプレスリリース(NJIT):Why Do Lithium-ion Batteries Fail? Scientists Find Clues in Microscopic Metal ‘Thorns’
解説記事(New Atlas):Researchers crack the physics of dangerous battery dendrites

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