中国の核融合実験装置「EAST(イースト)」が、長いあいだ「ここから先は無理」とされてきた密度の壁を越えて、プラズマを安定して保つことに成功しました。しかもその越え方は、ある理論が前もって「越えられる領域があるはずだ」と予言していたとおりのものでした。理論の予言を実験で初めて確かめた、核融合研究の節目になりそうな成果です。

核融合に必要な条件
核融合は、太陽が光り輝くしくみと同じで、軽い原子核どうしがぶつかって、より重い原子核に変わるときに大きなエネルギーを出す反応です。これを地上で起こして発電に使おう、というのが核融合発電の目標です。
地上で核融合を起こすには、燃料を想像しづらいほど高温にする必要があります。EASTのような装置がねらうのは、だいたい1億5000万℃。太陽の中心ですら約1500万℃なので、その10倍ほどの熱さです。ここまで熱すると、燃料の気体は原子核と電子がバラバラになった「プラズマ」と呼ばれる状態になります。
温度と並んでもう一つ大事なのが「密度」、つまりプラズマをどれだけ濃く詰め込めるかです。核融合で取り出せるパワーは、密度のおよそ2乗に比例して増えます。密度を2倍にできれば、パワーは4倍。だから、できるだけ濃いプラズマを保てるかどうかは、核融合発電が成り立つかを左右する大きなポイントになります。
立ちはだかってきた「密度限界」
ところが、プラズマはいくらでも濃くできるわけではありません。トカマク(ドーナツ形の装置で、強い磁場を使って超高温のプラズマを閉じ込める方式)には、経験的に「これ以上濃くすると壊れる」という上限があることが知られていました。提案者の名前をとって「グリーンワルド限界」と呼ばれる、密度の天井です。
この限界を超えてプラズマを濃くしようとすると、多くの場合、プラズマが急に崩れて運転そのものが止まってしまいます(専門的には「ディスラプション」と呼ばれる現象)。装置にも負担をかけるため、世界中のトカマクは長いあいだ、この限界の手前で運転するのが当たり前でした。密度の上限をどう破るかは、磁場でプラズマを閉じ込める核融合研究の積年の課題だったわけです。
確認された「密度フリー」の領域
今回EASTが示したのは、この密度限界が、思われていたほど絶対的なものではないかもしれない、ということです。
研究チームは、ふだんEASTが運転している密度(グリーンワルド限界の0.8〜1.0倍ほど)を大きく超えて、限界の1.3〜1.65倍にあたる濃さでプラズマを安定して保つことに成功しました。つまり、教科書的な上限の向こう側に、プラズマが崩れずにいられる領域が実際に存在した、ということです。
この「壁の向こう側でも安定でいられる領域」は、近年提案された「プラズマと壁の自己組織化(PWSO)理論」という考え方が、前もって存在を予言していたものでした。フランスのエスカンデらが提唱した理論で、プラズマと装置の金属の壁とのやり取りがちょうどよいバランスに収まると、密度の上限に縛られない領域(密度フリー領域)が現れる、と予測していたのです。今回の実験は、その予言を実際の装置で初めて裏づけた格好になります。
突破に用いられた手法
では、どうやって壁の向こう側に入ったのか。カギは、プラズマを立ち上げる「起動」の瞬間の扱い方にありました。
チームは、運転の最初の段階で、燃料ガスの量を多めに整えたうえで、ECRH(電子サイクロトロン共鳴加熱=特定の電波でプラズマの電子を直接温める方法)を当てました。こうしてプラズマと壁のやり取りを最初から望ましい状態に整えると、装置の中に不純物がたまったり、エネルギーが無駄に逃げたりするのを抑えられます。その結果、起動が終わるころには密度がスムーズに高いところまで上がっていた、というわけです。「ECRHを強める/最初に入れるガスを増やすと、密度の上限が上がる」という理論の予測と、実験の結果はよく合っていたといいます。
発電に向けた意義
密度を高く保てる、という一点は、核融合発電にとって地味ですが効いてくる話です。さきほどの「パワーは密度の2乗に比例する」を思い出すと、濃いプラズマを安定して保てることは、同じ装置からより多くのエネルギーを引き出せる可能性につながります。長らく設計と運転を縛ってきた前提が一つ動く、ということでもあります。
研究チームは、この成果を「トカマクや次世代の燃焼プラズマ装置で密度の上限を大きく引き上げる、実用的で拡張性のある道筋」と位置づけています。同じやり方は、トカマクとは別方式の「ステラレータ」の起動にも応用できる可能性があるとされています。
解釈上の留意点
ただし、これで核融合発電が一気に実現する、という話ではありません。今回うまくいったのは主にプラズマを立ち上げる起動の段階で、より高い性能をねらう本格運転でも同じように密度フリー領域に入れるかは、これから確かめる段階です。研究チーム自身、次は高性能のプラズマ条件で同じ手法を試したい、としています。
また、これは一つの装置での結果です。ほかの装置でも同じように再現できるか、より厳しい条件でも通用するかは、今後の検証を待つ必要があります。核融合の「密度の壁」をめぐる長い研究の中で、有望な一歩が確かめられた——いまの時点では、そう受け取るのがちょうどよさそうです。
出典
Jiaxing Liu et al., Accessing the density-free regime with ECRH-assisted ohmic start-up on EAST(Science Advances, 2026年1月1日。査読済みの論文。本文の一部は有料)


コメント