太陽系の外からやって来た彗星を、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がとらえました。その成分を分析したところ、太陽系で生まれた彗星にはまず見られない「異質な比率」が出てきて、研究チームは驚いたといいます。手がかりをたどると、この彗星は100億年以上前――太陽系が生まれるよりずっと昔、銀河がまだ若かったころにできたらしい、という話です。
太陽系の外から来た、三人目の訪問者
その彗星は「3I/ATLAS(スリーアイ・アトラス)」と呼ばれています。名前の「3I」は、太陽系の外からやって来たと確認された天体としては3番目、という意味です。最初に見つけたのがNASAの支援する観測網ATLASだったので、後ろにその名前が付いています。発見は2025年7月1日でした。
太陽系の外から来た天体(恒星間天体)が見つかったのは、これで3つ目です。過去には2017年の「オウムアムア」、2019年の「ボリソフ彗星」がありました。どれもほかの恒星のまわりで生まれ、はるばる宇宙空間を旅して、たまたま私たちの太陽系を通り抜けていく――いわば“よその星系からの落とし物”です。中身を直接調べられる機会はめったにないので、見つかるたびに天文学者が色めき立ちます。
3I/ATLASは太陽に最も近づいたあと、2025年12月から太陽の反対側へ遠ざかり始めました。太陽に温められて、凍りついていた成分が一気にガスとなって彗星を包み、観測にはちょうどよい状態に。研究チームはウェッブの観測スケジュールを一部割り込ませてもらい、近赤外分光器(NIRSpec=光を波長ごとに分けて成分を読み取る装置)でその成分を測りました。
ウェッブがとらえた「異質な比率」
分かったのは、炭素と「重い水素」の比率が、太陽系の彗星とはっきり違うということでした。
ひとつは重水素(じゅうすいそ=普通の水素より重い水素)です。3I/ATLASの水の氷には、この重い水素が太陽系の彗星のおよそ30倍も多く含まれていました。重い水素を多く含む「重い水」の氷は、とても冷たい場所で作られ、その後いちども十分に温められなかったときに残ります。逆に言えば、3I/ATLASは生まれてからずっと、深く凍りついたまま過ごしてきたということです。研究では、その生まれた場所がマイナス240℃ほどの極寒の環境だったと見積もられています。
もうひとつは炭素です。炭素には軽いもの(炭素12)と重いもの(炭素13)があり、重い炭素は、星が生まれては死んでいく世代交代を重ねるうちに少しずつ増えていきます。3I/ATLASには、この重い炭素がごくわずかしかありませんでした。つまり、重い炭素がまだ十分に蓄えられていない、銀河の若い時代に作られた、という見立てです。ちなみに私たちの太陽は約45億年前という比較的最近にできたので、重い炭素を多めに含んでいます。
100億年以上前、という推定年齢
これらの手がかりを合わせて、研究チームは3I/ATLASが100億〜120億年前にできた可能性があると見積もりました。太陽系の年齢(約45億年)のおよそ3倍。宇宙そのものの年齢が約138億年なので、宇宙が誕生してそれほど経たないころに生まれた、かなりの“古株”ということになります。
生まれた場所も、星がさかんに作られていた時代の、冷たく濃いガスとちりの雲の中だったと考えられています。そうした古くて冷たい星系の名残が、何十億年もの旅を経て、たまたま私たちのそばを通り過ぎていった――そう考えると、ただの氷のかたまりが少し違って見えてきます。

観測でわかったことの意味
恒星間天体のうれしいところは、「よその星系の作られ方」を、その場へ行かずに手元で調べられる点です。ふつう、ほかの恒星のまわりの様子は遠くから光を見て推測するしかありません。ところが恒星間天体は、よその星系で作られた“現物”が向こうから訪ねてきてくれる、めったにないサンプルです。
今回の結果は、3I/ATLASが私たちの太陽系とはまるで違う、古くて冷たい環境で生まれたことを示しました。これは裏を返せば、私たちの太陽系がどれくらい“ありふれているのか/珍しいのか”を測る物差しにもなります。研究に加わったNASAの研究者は、こうした天体を調べることは、生命につながる化学反応が宇宙でどれほど普通に起きうるのかを知る一歩になる、と話しています。実際、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡(VLT)を使った別チームも、同じ彗星のシアン化合物(炭素と窒素を含む物質)を分析して、ウェッブの結果を補う観測を進めています。
解釈上の留意点
年齢の「100億〜120億年」は、成分の比率から逆算した推定値で、ぴたりと言い当てた数字ではありません。今後ほかの観測やモデルで見直される可能性もあります。また、彗星に有機物や生命の材料につながる物質が含まれていても、それは「生命がいた/いる」という意味ではありません。あくまで、生命につながる化学が宇宙のどこで起こりうるかを考えるための材料です。
3I/ATLASはこのまま太陽系を離れ、二度と戻ってきません。観測のたびに新しいことが分かってきた天体なので、しばらくは続報を追いかける価値がありそうです。
出典・もっと知りたい人へ
研究成果は2026年6月22日付で学術誌Natureに掲載されています(査読済み)。


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