天の川銀河の中心に近い場所に、テルザン5という星の集まりがあります。長いあいだ、ありふれた「球状星団」の一つだと考えられてきました。ところがハッブルとジェイムズ・ウェッブの両宇宙望遠鏡で丁寧に調べ直したところ、正体はもっと珍しいものでした。いまの天の川銀河ができあがる前の“材料”が、溶け込まずにそのまま生き残った、いわば銀河の化石のかけらだったのです。

球状星団という長年の分類
球状星団は、数万から数百万の星が重力で球状に密集した、とても古い集団です。多くの場合、そこにある星はほぼ同じ時期に一斉に生まれます。だから年齢も、含まれる元素の組み合わせもだいたいそろっていて、いわば“同期生の集まり”のように見えます。テルザン5も、見た目のうえではその一つとして扱われてきました。
ただ、この天体の来歴は少し込み入っています。1968年に天文学者アゴップ・テルザンが発見したあと、2009年に、内部で年齢の異なる2種類の星の集団が見つかりました。2016年にはハッブルがそれぞれのおおよその年齢を割り出し、片方は約120億年前――天の川銀河そのものが組み上がっていた頃――に、もう片方は約50億年前、ちょうど地球ができ始める少し前に生まれたと分かりました。年齢がこれほど離れた集団が同居しているのは、ふつうの球状星団らしくありません。この時点で、テルザン5はただの星団ではなさそうだと考えられていました。
4世代にわたる星づくりの発見
今回の研究では、ジェイムズ・ウェッブの新しい赤外線観測と、ハッブルが12年かけてためてきたデータを組み合わせました。その結果、テルザン5では星づくりが一度きりではなく、最大で4回に分けて起きていたことが明らかになりました。それぞれの年代は、およそ125億年前、47億年前、38億年前、25億年前です。
ふつうの球状星団は、古い星が一世代あるだけです。ところがテルザン5には世代が4つある。これは、自分の中でガスや重い元素を抱え込みながら、星の誕生を何度も繰り返した“自己完結した恒星系”だったことを意味します。研究チームは、こうした性質を持つ天体を「バルジ化石断片(bulge fossil fragment)」という新しいクラスとして位置づけ、テルザン5をその代表例(プロトタイプ)としました。バルジというのは、天の川銀河の中心にある、古い星が球状に密集した膨らみのことです。
世代が2つだけなら、「よそから漂ってきたガスの雲を取り込んで、もう一度星を作った」という説明も成り立ちます。ですが世代が4つもあると、その説明は苦しくなります。星が生まれ、大きな星が超新星爆発を起こして重い元素を作り、それを外へ逃がさずにため込んで、次の世代がより濃い材料から生まれる――そうした一連のサイクルを、この天体が自前で回していたと考えるほうが自然だからです。よく混ざったケーキの生地のなかに、溶けきらずに残ったダマが一つある。テルザン5は、天の川銀河のバルジという“生地”のなかに残った、そんなダマのような存在です。
塵の向こうを見通した観測
テルザン5があるのは、星がぎっしり詰まり、濃い塵の雲にも覆われた、観測がとても難しい領域です。可視光ではその奥を見通しにくく、これまで詳しく調べるのを妨げてきました。そこで力を発揮したのが、塵を透かして見られるジェイムズ・ウェッブの赤外線です。これにより、これまで捉えきれなかった暗い星まで数多く拾えるようになりました。
さらに研究チームは、ウェッブとハッブルの画像を突き合わせて、一つひとつの星のわずかな動き(固有運動)を測りました。これによって、本当にテルザン5に属する星と、たまたま手前や奥に重なって見えているバルジの星とを選り分けることができました。混雑した背景から、目当ての星だけを丁寧により分けた、という地道な作業です。
銀河の組み立てを読み解く手がかり
これらを合わせると、テルザン5はもともと125億年前にできた、いまよりずっと大質量の恒星系の生き残りらしいと見えてきます。現在の姿でも、太陽の約200万倍の質量が、わずか数十光年ほどの範囲に詰まっています。地球からの距離は約22,000光年、いて座の方向です。
初期の宇宙では、銀河は巨大なガスの円盤が細かいダマに分裂し、そのダマが中心へ移動して次々に合体することでバルジを作った、と考えられています。ほとんどのダマは中心で溶け合って個性を失いましたが、テルザン5は重すぎて溶けきれず、独自の性質を保ったまま今日まで残った――そう解釈できるわけです。つまりこの天体は、天の川銀河がどう組み上がったのかを、当時の“かけら”そのものからたどれる、貴重な手がかりになります。
同じように再分類された天体は、いまのところリラー1(Liller 1)が2例目として知られているだけで、まだごく少数です。研究チームは、バルジの中を回るほかの40〜50個の球状星団についても、星の世代が一つだけなのか、それとも複数あるのかを順に調べていく予定です。ここから、天の川銀河の中心の膨らみがどのようにできたのかが、少しずつ見えてくるかもしれません。
解釈上の留意点
この成果はアメリカ天文学会の会合で発表され、専門誌 Astronomy & Astrophysics に掲載された査読済みの研究です。ただし、比較的若い世代(38億年前・25億年前とされる集団)の年齢については、今後さらに分光観測で確かめていくことが望まれる段階です。大枠の描像は確からしいものの、細部はこれからの観測で補強されていく、という受け止め方が妥当でしょう。
出典
この記事は、以下の情報をもとにまとめました。数値・固有名詞は各機関の公式発表で確認しています。
Astronomers Discover Terzan 5’s True Nature(Universe Today)
NASA Webb, Hubble Reveal History of Relic of Milky Way’s Formation(NASA Science)
Webb and Hubble reveal history of relic of the Milky Way galaxy’s formation(ESA/Webb)


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