天の川の100分の1サイズの銀河が、生まれたての宇宙の霧を焼き払っていた

宇宙・天文
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生まれたばかりの宇宙は、水素のもやに覆われて光がまっすぐ進めない、いわば「霧の中」のような状態でした。その霧をいったい何が晴らして、宇宙は今のように透き通ったのか——天文学が長年追いかけてきた大きな問いです。ハッブル宇宙望遠鏡が、その「霧が晴れる現場」をとらえました。ビッグバンから約14億年後の小さな銀河が、周囲のガスを内側から焼き払っている様子です。

宇宙を覆っていた霧

宇宙が誕生してからおよそ最初の10億年ほど、星と星のあいだ、銀河と銀河のあいだを満たしていたガス(中性水素=電気的にプラスとマイナスが釣り合った、ふつうの水素)は、エネルギーの高い紫外線を通しませんでした。光源があっても、その手前のガスに吸収されてしまう。だから初期の宇宙は、遠くを見通せない霧の中のような状態だったわけです。

それが時間とともに、ガスがあちこちで電離(でんり=原子から電子がはぎ取られた状態)していき、宇宙は紫外線を通す透明な空間へと変わっていきました。この移り変わりの時期を「再電離期(さいでんりき)」と呼びます。スイッチを切り替えるように一瞬で終わったのではなく、数億年をかけて少しずつ進んだと考えられています。

問題は、「何がガスを電離させて霧を晴らしたのか」がはっきりしていなかったことです。有力なのは「若い銀河の中で生まれた星々が出す光が、まわりのガスを電離した」という説でしたが、その決定的な現場をこれまで誰も押さえられていませんでした。

観測できないはずだった光

今回ハッブルがとらえたのは、MXDFz4.4という名前の銀河です。ビッグバンから約14億年後、ちょうど再電離期が終わりに近づいたころに存在していました。注目すべきは、この銀河から出ている「電離光」——水素を電離できるほどエネルギーの高い紫外線——をハッブルが直接とらえた点です。

これは本来なら「観測できないはず」のものでした。手前にある分厚い水素の霧が、その紫外線を吸い込んでしまうと予想されていたからです。主著者でアメリカ・宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)のイリアス・ホーファールツ氏は、この光が観測できると思われていなかったことを認めたうえで、ハッブルがその光を見つけただけでなく、銀河の細かな性質まで明らかにしてくれた、と説明しています。

つまり、再電離の犯人とされてきた「若い星の光」が、実際にガスを突き抜けて外へ逃げ出している現場を、これだけ初期の時代でとらえたのは初めてということです。これまで電離光を出す銀河として確認できていたのは、宇宙が約16億歳のころのものが最古でした。MXDFz4.4はそれより前にさかのぼる、いまのところ唯一の例です。

小ささゆえの激しさ

意外なのは、これを成し遂げたのが「小さな」銀河だったことです。MXDFz4.4は面積で天の川銀河の約100分の1しかありません。ところが、新しい星を生むペースは天の川銀河の約10倍。狭い場所に若くて高温の大質量星がぎゅうぎゅうに詰め込まれた、いわば過密状態の星の工場になっていました。

大質量星がこれだけ密集すると、出てくる紫外線も桁違いに強くなります。研究チームの見積もりでは、若い星が出す電離光のうち50〜100%が、まわりのガスに吸われずに外へ逃げ出していました。霧を晴らすには、光がガスを突き抜けて外まで届かなければ意味がありません。その「逃げ出し」が実際に起きていたわけです。

さらに後押しするのが、大質量星の短い一生です。こうした星はわずか数百万年しか生きず、多くは最後に超新星爆発を起こします。爆発はまわりのガスに巨大な空洞を吹き開け、そこからいっそう多くの光が抜け出せるようになります。「狭い場所にたくさんの若く高温の大質量星があるほうが、不透明なガスを突き破るのに有利だ」とホーファールツ氏は述べています。

3つの望遠鏡の連携

この発見はハッブル単独で得られたものではありません。3つの望遠鏡の役割分担が効いています。

まずハッブルは、この銀河の紫外線をとらえる役。12億年以上かけて届くあいだに宇宙が膨張し、もとは紫外線だった光は引き伸ばされて(赤方偏移=遠ざかる天体の光が波長の長い赤い側にずれる現象)、ハッブルが見えるころには可視光になっていました。この波長をとらえられる感度と解像度を持つのはハッブルだけだといいます。

次にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、近赤外線で銀河の質量や星形成の歴史を測定。銀河に含まれる古い星は軽くて温度が低く、ガスを電離する力はないと確認できました。つまり「霧を晴らしたのは新しく生まれた若い星のほうだ」と切り分けられたわけです。共著者でSTScIのマーク・ラフェルスキ氏は、ハッブルの画像で見えたものをウェッブが補ってくれなければ、こうした結論は出せなかったとしています。

3つ目は、欧州南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTです。可視光の観測で、この銀河が「ビッグバンから14億年後」に存在していた時期を正確に突き止めました。銀河名の「MXDF」は、このVLTの超深宇宙探査(MUSE eXtremely Deep Field)に由来します。

再電離の解明に向けて

再電離をどう解き明かすかは、何十年も続いてきた研究テーマです。遠すぎて星ひとつひとつまでは見分けられない初期宇宙の銀河について、近くの銀河の詳しいデータをもとに「たぶんこうだろう」と推測してきました。

2023年には、ウェッブの観測で、ビッグバンから約9億年後の銀河の星々が、まわりのガスを加熱・電離するのに十分な光を出していたことが示されました。これは大きな前進でしたが、「星の高エネルギーの光が、銀河内部のガスやちりをどうやって突き抜けて外へ逃げたのか」までは見えていませんでした。今回のMXDFz4.4は、まさにその「逃げ出す現場」を見せてくれた点で、再電離の全体像に一歩近づくものになります。

ラフェルスキ氏は、MXDFz4.4の観測によって再電離期にこれまでよりずっと近い時代で仮説を検証できるようになったとし、同じような銀河、とくにもう少し後の時代でまとまった数が見つかれば、何が宇宙の視界を晴らしたのかをより正確に絞り込めるだろう、と展望を語っています。

解釈上の留意点

大きな手がかりではありますが、いまの時点で得られたのは「この時代の1例」です。再電離が宇宙全体でどう進んだかを言い切るには、同じタイプの銀河をもっと見つけて、数で裏づけていく必要があります。研究チーム自身、MXDFz4.4のような銀河が他にも見つかるのを待っている段階だとしています。今回の成果は「決定的証拠が出そろった」ではなく、「決定的な一例をようやく押さえた」と受け取るのが正確です。

出典

研究論文(Goovaerts et al., 2026, The Astrophysical Journal):https://doi.org/10.3847/1538-4357/ae75b0

NASA(プレスリリース):Hubble Details Early Galaxy Transforming Neighborhood

ESA/Hubble:esahubble.org/news/heic2609/

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