「宇宙の正午」に見つかった早すぎる銀河団
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、本来ならまだできあがっていないはずの、重くて中心まで密に詰まった銀河団を見つけました。場所は約104億光年のかなた。光がそれだけの距離を旅してきたということは、私たちが見ているのは104億年前の姿で、ビッグバンからまだ34億年ほどしか経っていない若い宇宙です。いまの宇宙の年齢が約138億歳ですから、まだ4分の1も育っていないころにあたります。
この時代は「コズミック・ヌーン(宇宙の正午)」と呼ばれます。宇宙が一日のうちで一番元気な“真っ昼間”だった、というたとえで、星づくりがもっとも盛んだった時期を指します。当時の宇宙は、いまの約100倍ものペースで星を生み出していました。その活気あふれる時代に、すでに大人びた銀河団が居座っていた——これが今回の発見の意外なところです。
銀河団はゆっくり育つはずだった
銀河団というのは、たくさんの銀河が重力で寄り集まった、宇宙でいちばん大きな“まとまり”です。標準的な宇宙の成り立ちの理論(ΛCDMモデル=暗黒物質と暗黒エネルギーをもとに宇宙の進化を描くモデル)では、こうした大きな構造は時間をかけて少しずつ組み上がっていくと考えられてきました。小さな塊が何十億年もかけてだんだん集まり、ようやく中心がぎゅっと詰まった成熟した姿になる、という筋書きです。
だとすれば、宇宙がまだ若いコズミック・ヌーンの時代には、銀河団は“できかけ”でゆるく散らばっているはずでした。ところが今回の銀河団「XLSSC 122」は、その予想に真っ向から反していました。
XLSSC 122の異質さ
XLSSC 122は2014年ごろから注目されていた天体ですが、JWSTでとらえ直したところ、研究チームの目をすぐに引きました。あまりに大きく、中心まで質量がぎっしり集まっていて、近所の現代の銀河団とそっくりに見えたのです。100億光年以上も遠い若い宇宙にいるのに、まるで“歳をとった”銀河団のように成熟していました。
カリフォルニア工科大学IPACのカイル・フィナー氏らのチームによれば、その質量は中心に極端に集中していました。ゆっくり育つはずという従来モデルの予想とは食い違う特徴です。つまりこの銀河団は、理論が見込むよりずっと早いペースで成熟していた、ということになります。
もうひとつ、銀河と銀河のあいだを漂う淡い光「銀河団内光(イントラクラスター光)」も見つかりました。これは、銀河どうしがぶつかって混ざり合うときに、引きはがされた星々がばらまかれて生まれる光です。その検出はこれまでで最も古い時代のもので、XLSSC 122がコズミック・ヌーンの時点で、すでに内部の銀河を合体させ始めていたことを物語っています。
重力レンズという手がかり
この発見を支えたのが「重力レンズ」という現象です。アインシュタインが1915年に一般相対性理論で予言したもので、重い天体のそばを通る光は、曲がった時空にそって進路を曲げられます。手前に重い天体があると、その背後にある遠い銀河の光が引き伸ばされ、明るく拡大されて届くのです。天然の虫めがねのようなはたらきと言えます。
XLSSC 122は、この強い重力レンズとして働く銀河団としては、これまでで最も遠い記録になりました。ハッブル宇宙望遠鏡が以前に観測したときには、強いレンズ効果があるとは分からなかったのですが、JWSTの観測能力で初めてはっきりとらえられました。背後のさらに遠い銀河の光を増幅してくれるので、その向こう側の宇宙を調べる足がかりにもなります。
見えない物質を測るという意味
重力レンズが面白いのは、目に見えない暗黒物質まで“測れて”しまう点です。暗黒物質は光と反応しないため直接は見えませんが、重力ははたらきます。しかも銀河の中身は、星や惑星やガスといった普通の物質より、暗黒物質のほうが5倍ほど重い。だからレンズ効果の大半は暗黒物質が担っています。レンズの曲がり具合を読み解けば、見えないはずの暗黒物質がどう分布しているかを地図にできるわけです。
フィナー氏は、強い重力レンズは暗黒物質を直接見ずに測る手段であり、宇宙論モデルを試すための感度の高い“ものさし”になると説明しています。XLSSC 122のような天体を、若い宇宙のなかでこの先いくつも、あるいは何百個も見つけられれば、宇宙の組み立てに関する理論を本格的に検証できるようになる、というのが研究チームの期待です。
解釈上の留意点
もっとも、たった1つの“異常な”銀河団が見つかったからといって、それで標準モデルが覆るわけではありません。ΛCDMモデルは何十年もの精密な検証に耐えてきた理論で、例外がひとつあっても、すぐにひっくり返るような土台ではないからです。今回の成果がはっきり示したのは、JWSTがコズミック・ヌーンまでさかのぼって、重力レンズによる精密な質量測定ができるようになった、という新しいフロンティアが開けたことです。これまで問えなかった問いを、実際に観測で問えるようになった——その入り口に立った段階、と受け止めるのがちょうどよさそうです。

出典・もっと知りたい人へ
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