天の川の中心、嵐の中の“凪の島”で星が生まれようとしている——ALMAが見たゆりかご

宇宙・天文
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天の川銀河の中心は、星が生まれそうにない場所だと長く考えられてきました。ガスが音速を超える速さで荒れ狂っていて、星の材料が一カ所に落ち着いて集まる暇もないからです。ところが、その渦のただ中にぽつんと“凪(なぎ)”ができていて、そこでガスが静かに星の種を集めはじめている——ALMA望遠鏡による観測で、そんな一角が見つかりました。

銀河中心という“星が生まれにくい場所”

天の川の中心には、超巨大ブラックホールを取り巻くように、冷たいガスの巨大な雲が広がっています。中心分子帯(Central Molecular Zone、CMZ)と呼ばれる領域で、星の材料になるガスがたっぷり詰まっています。

ただ、材料が豊富なのに、ここは星づくりには向かない荒れ地です。ガスが激しく乱れていて、ふだんは音速を超える速さで流れているからです。ここでいう音速は、私たちが耳にする空気中の音ではなく、その冷たいガス自身の中を伝わる音の速さのこと。それを上回る勢いで動き回っていると、ガスが一カ所にとどまって固まることができません。流れの速い急流の中では、何も沈んで溜まっていられないのと同じです。星は、ガスが重力で自分自身を引き寄せ、密に固まることで生まれます。だから、この乱流こそが銀河中心で星づくりを邪魔している張本人だと見られてきました。

音速を下回る“凪”の一角

研究チームがこの混沌を細かく地図にしていったところ、荒れ狂う流れのなかに、思いがけず静かな一角が見つかりました。そこではガスの速さが音速を下回り、ゆるやかに、なめらかに漂っていたのです。急流のただ中に、波の立たない淀みがぽつんとあった、という具合です。

その静かな領域の内側には、糸のように細長いガスの構造(フィラメント)が通っていて、ガスはそれに沿って小さくランダムに揺れているだけでした。一方、領域の縁までくると、ガスはふたたび乱れ、速さを増します。つまり、激しい流れから静けさへの切り替わりが、ごく短い距離のあいだで起きていたことになります。

さらにチームは、この一角の重力も測りました。すると、ガスが自分の重力で互いをつなぎ留めておけるほど密になっていることがわかりました。これは、新しい星が生まれはじめる場所の条件を満たしているということです。つまりこの“凪”は、これから星が生まれてくる候補地だと考えられます。

ALMAによる、ガスの動きの測定

これを可能にしたのが、チリのアタカマ砂漠にあるALMA(アタカマ大型ミリ波・サブミリ波干渉計)です。チームは銀河中心の広い範囲をきわめて細かい解像度で観測し、濃いガスがどう動いているかを測りました。この観測は、ALMAがこれまでに撮った中で最大の画像にもなりました。

見どころは、ガスの動きが「激しい乱れ」から「静けさ」へ移り変わる様子を、これまでにない細かさで追えたことです。これまでの研究の多くは、銀河中心ですでに生まれた若い星を探すものでした。今回はそれより一段前の、星が生まれる手前にある“静かなガス”そのものに目を向けています。

そして、こうした静けさの一角はおそらく他にもあります。中心分子帯には1千万を超えるスペクトルのデータ点が含まれていて、人の手で全部を見ていくのは現実的ではありません。チームは、機械学習を使ってこの膨大な地図を読み込ませ、銀河中心に散らばる“静けさの島”を次々と探し出すツールの開発を進めているといいます。

太陽の誕生にもつながる意味

これまで、こうした穏やかなガスのゆりかごは、太陽の近所のような銀河の“静かな郊外”でしか見つかっていませんでした。荒れ狂う中心部では初めてです。

同じ静けさの条件が、銀河でいちばん荒っぽい場所でも成り立っていた——これは、星の生まれ方には場所を問わない共通のレシピがあるらしい、ということを示唆します。太陽をはじめ、ほとんどの星は約45億年前、宇宙がもっと若く、いまより環境が荒っぽかった時代に生まれました。今回の発見は、そんな過酷な環境でも、ガスはいったん静まって冷え、重力に身をゆだねられるところまで落ち着けることを示しています。私たちの太陽のもとになったガスも、固まって星になる前に、こうした静かな時期をくぐり抜けた可能性が高いということです。銀河でいちばん騒がしい一角に、自分たちの始まりの姿が垣間見える、というわけです。

解釈上の留意点

注意したいのは、ここで見つかったのは「星が生まれた現場」ではなく、「これから星が生まれるかもしれない候補地」だという点です。条件はそろっていますが、実際にガスが固まって星になるところまでが確かめられたわけではありません。

また、この“凪の島”の結果は2026年6月にアメリカ天文学会の会見で発表されたもので、まだ初期段階の報告です。今後の検証や、機械学習による他の領域の調べ上げを通して、絵柄がはっきりしてくる段階だと見ておくのがよさそうです。「静か」というのもあくまで周囲と比べての話で、宇宙の基準で穏やかになった、という意味あいです。

出典・もっと知りたい人へ

An Island of Calm at the Violent Heart of the Galaxy(Universe Today)

Scientists find a calm island of potential star-forming gas at the Milky Way’s center(Center for Astrophysics | Harvard & Smithsonian プレスリリース)

Largest image of its kind shows hidden chemistry at the heart of the Milky Way(ESO・ALMAによる中心分子帯の大型画像)

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