金の微細構造で、ナノのすきまを越える熱を最大4倍に

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熱いコーヒーはそのうち冷め、動かしているノートパソコンは手のひらに熱を伝えてくる。熱は高いほうから低いほうへ、まわりへ自然と散っていく——これがふだん私たちが知っている熱のふるまいだ。ところが、ものとものとのすきまを、髪の毛の太さよりはるかに小さいところまで近づけると、その常識が通用しなくなる。

アメリカのカーネギーメロン大学を中心とする研究チームが、金で作った微細な構造を向かい合わせに並べることで、このごく狭いすきまを通る熱の流れを、構造のないときと比べて最大で4倍に増やしてみせた。熱を「設計して強める」ことを実験ではっきり示した成果で、2026年に学術誌Natureに発表された。

ナノスケールで変わる熱の伝わり方

今回の研究の土台にあるのは、「近接場ふく射熱輸送(きんせつばふくしゃねつゆそう)」と呼ばれる現象だ。少しかみくだくと、2つのものが極端に近づいたとき、すきま越しに熱がふだんよりずっと効率よく伝わる、という話になる。

ものから出る熱の一部は、赤外線のような電磁波になってまわりへ放たれている。太陽が地球を温めるのと同じしくみで、ふつうは四方八方へ散っていくため、近くにある別のものに届くのはごく一部だ。ところが、すきまが数百ナノメートル——髪の毛の太さのおよそ数百分の一——まで狭くなると、本来なら散ってしまうはずのエネルギーがすきまを直接渡れるようになり、予想をはるかに上回る量の熱が流れる。

この現象自体は、以前から知られていた。難しかったのは、それを実際の材料の上で、しかも大きく強めてみせることだった。

金のメタマテリアルによる4倍の熱輸送

研究チームが使ったのは「メタマテリアル」と呼ばれる人工の材料だ。細かな構造を規則正しく並べることで、ふつうの材料にはない振る舞いを引き出せるように設計されたものを指す。

具体的には、窒化ケイ素(半導体づくりでよく使われる材料)の薄い膜の上に、微小な金のリング状構造——一部が途切れたC字の形で、メタマテリアルではおなじみの形だ——を規則正しく刻んだ。そして、この金の構造を刻んだ膜どうしを、ナノメートル単位のすきまを空けて正面から向かい合わせた。

結果として、すきまを越えて流れる熱の量は、同じ配置で金の構造がない場合と比べて最大4倍に増えた。研究グループの説明によれば、これはもっと離れた距離で従来の物理から見込まれる量をはるかに超えている。つまり、すきまの広さは変えずに、表面に構造を刻むだけで熱の通り道が大きく広がったことになる。

構造と材料が高め合う共鳴

熱が増えたのは、単に熱の通り道が増えたからではない。鍵になっているのは「共鳴」だ。

金の構造は、材料そのものがもともと持っている波——「表面フォノンポラリトン」と呼ばれる、材料の表面で原子の細かな振動と電磁波が結びついて伝わる波——とやりとりする。両者のリズムがうまくかみ合うと、エネルギーがすきまを通り抜けやすくなり、効果が積み重なっていく。研究チームはこれを「協調的な効果」と表現する。構造と材料が、おたがいを増幅し合うというわけだ。

チップ冷却とエネルギー利用への応用

この成果が注目されるのには、材料の選び方も関係している。これまで、近接場の熱輸送を大きく強めた実験の多くは、炭化ケイ素のような特殊な材料に頼っていた。こうした材料は強い表面の波を自然に生み出せる一方で、半導体の製造現場で当たり前に使われているわけではない。今回使われた金は、加工のしやすさからナノ加工ではすでに標準的に使われている材料だ。手に入りやすく扱いやすい材料で同じような効果を出せた点が、実用への距離を縮めている。

応用先として真っ先に挙がるのが、半導体チップの冷却だ。電子機器は小さく高性能になるほど発熱が増え、その熱をどう逃がすかが大きな課題になっている。データセンターなどで膨大な計算をこなす高性能チップでは、発熱対策が性能を左右する。熱の流れを思いどおりに導けるようになれば、こうしたチップを冷やす新しい方法につながる可能性がある。

熱を電気に変える技術にも関わってくる。熱光起電力(ねつこうきでんりょく)と呼ばれる、熱から出る放射を電力に変換するしくみでは、放射でやりとりする熱の効率を上げられれば、発電効率の改善が期待できる。さらに、熱の信号をより強く精密につかめるようになることで、環境のモニタリングなどに使われる赤外線センサーの性能向上にもつながりうる。

実用化に向けた課題

ただし、今回の実験は注意深く整えられた実験室の条件で行われたもので、対象もナノスケールの小さなシステムにとどまっている。理論的に予想されていたことを、実物で確かめた段階だと考えるのが正確だ。すぐに製品の冷却装置になるわけではなく、実際の機器でどう使えるようにしていくかは、これからの課題として残っている。

出典・もっと知りたい人へ

研究をやさしく紹介した記事(無料で読める):ScienceDailyの解説記事カーネギーメロン大学のプレスリリース

元の論文:Zexiao Wang ほか「Metamaterial-enhanced near-field radiative heat transfer」, Nature, 2026年, 654巻, 64ページ(doi.org/10.1038/s41586-026-10595-4)。※本文は有料の場合がある。

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