AIを動かすデータセンターが大量の電気を使うようになり、世界の電力需要が急速に伸びています。足りない分を新しく発電するのも一つの道ですが、もう一つ、「いま使っている電気を、もっと無駄なく使う」という考え方があります。その方向で、アメリカの国立研究所が手のひらに乗るくらいの小さな部品を作りました。「ULIS(ユリス)」と呼ばれる電力モジュールで、ねらいはシンプルです。同じ電力から、これまでより多くを使える形で引き出す——それが売りです。

電力需要の急増という背景
まず背景から。AIの普及で、計算をこなすデータセンターの電力消費がふくらんでいます。製造業の拡大や車の電動化も、電力需要を押し上げる方向にはたらいています。発電所を新しく増やすには時間もお金もかかるので、「すでにある電気を、いかに取りこぼさず使うか」が現実的な打ち手として注目されています。
ここで効いてくるのが、電気の「変換」を担う部品です。コンセントや送電線から来た電気は、そのままでは機器が使えないことが多く、電圧や形を変えてから届けられます。この変換を受け持つのが電力モジュール——電気の流れを制御する電子部品をひとつにまとめたもので、変換のたびにいくらかの電気が熱として失われます。ここでの無駄を減らせれば、同じ発電量でも実際に使える電気が増える、という理屈です。
ULISが達成した性能
ULISを開発したのは、アメリカ・エネルギー省の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)です。素材には炭化ケイ素(たんかけいそ)という半導体を使っています。シリコンより高い電圧や温度に強く、電気の変換を効率よくこなせる材料として、近年この分野で広く使われ始めています。
研究チームによると、ULISは従来の設計にくらべてエネルギー密度——同じ大きさにどれだけの電力を詰め込めるか——を約5倍に高めつつ、サイズはより小さくできたとしています。つまり、小さく軽い部品で、より多くの電力をさばける。定格は1200ボルト・400アンペアで、データセンターのサーバーから送電網、小型の原子炉、次世代の航空機や大型車両まで、幅広い用途を見込んでいるといいます。
寄生インダクタンスを抑える意味
ULISのいちばんの強みは、寄生インダクタンス(きせいインダクタンス)がとても小さいことだとされています。耳慣れない言葉ですが、ざっくり言えば、電流のオン・オフを速く切り替えようとしたときに、それを妨げてしまう厄介な性質のことです。これが大きいと、速く切り替えたくても電流がついてこられず、変換の効率が頭打ちになります。
ULISは、この妨げを、いまある最先端の炭化ケイ素モジュールにくらべて7〜9分の1ほどに抑えたとしています。妨げが小さいぶん、電流を速く・無駄なく切り替えられる。その結果、同じ電気からより多くを使える形で取り出せる——これがULISの中心的な主張です。
設計と素材の刷新
性能の多くは、部品の形を思い切って変えたことから来ています。これまでの電力モジュールは、半導体の部品を箱の中に積み重ねる作りが一般的でした。ULISはこれをやめ、回路を平たい八角形に並べた円盤状の形にしています。開発者の一人は「パンケーキのように平らに潰した」と表現しています。平たくしたことで部品を小さくまとめられ、電流の通り道を工夫して、互いの磁気の干渉も打ち消し合うようにしているそうです。
素材の組み合わせも見直しています。従来は銅を硬いセラミックの土台に貼り付けていましたが、ULISはテンプリオンという曲げられる樹脂に銅を貼り合わせる方式を採りました。これで薄く軽く、扱いやすくなったうえ、熱と圧力だけで貼り合わせられ、普及している機械で加工できるといいます。その結果、製造コストは数千ドル規模から数百ドル規模に下がったとしています。さらに、ケーブルなしの無線で制御・監視でき、自分の状態を見張って部品の故障を前もって予測する機能も備えるとのことです(この無線通信の方式は特許を申請中)。
想定される応用先
NRELは、ULISが効きそうな場面をいくつか挙げています。送電網では、電気を使える形に変換する際に大きな機器で無駄が出がちですが、ULISの速い切り替えと高温への強さが、効率の改善や保守コストの削減につながりうるとしています。航空では、軽くて高出力の変換装置が作れることから、電動の垂直離着陸機(いわゆる「空飛ぶクルマ」に近い乗り物)の実用化を後押しする可能性に触れています。コンパクトで信頼性の高い電源部品が要る、将来の核融合発電のような分野でも使い道があるかもしれない、という見方です。ULISはすでにライセンス提供が始まっており、企業が実際の製品に組み込める段階に入っています。
解釈上の留意点
ひとつ補足を。ここで紹介した数値や利点は、開発元であるNRELの発表にもとづくものです。研究所自身が「実際の現場で強みを示したい」と述べているとおり、さまざまな実機での長期的な検証はこれからの段階にあります。ライセンス提供が始まったとはいえ、私たちの身のまわりの製品にすぐ入ってくるとは限りません。電気の使い方を効率化する有望な選択肢の一つ、という距離感で見ておくのがちょうどよさそうです。


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