ハエトリグモの目に学んだ3Dカメラ、消費電力は常夜灯より少ない

テクノロジー・エネルギー
スポンサーリンク

ハエトリグモは、獲物にぴょんと飛びかかる前に、相手までの距離をきわめて正確に測っています。そのちいさな目のしくみをまねて、消費電力が常夜灯より少ない3Dカメラが作られました。アメリカのノースウェスタン大学が開発した「SpiderCam」です。

モノまでの距離を立体的につかむ3Dカメラは、ロボットやドローン、AR(現実の風景にデジタル情報を重ねる技術)などで使われています。ただ、これまでの方式は電気を食いがちでした。それを、虫の目に学ぶことで一気に省電力にした、というのが今回のポイントです。

これまでの3Dカメラと電力の問題

距離を立体的に測るカメラのやり方は、大きく2通りあります。ひとつは、少し離れた2つのレンズで同じ場面を撮り、見え方のズレから距離を割り出す方式。人間が両目で奥行きをつかむのと同じ理屈です。もうひとつは、自分から光を投げかけて、跳ね返ってくるまでの様子を測る方式。LiDAR(光を使った距離測定)などがこれにあたります。

どちらもよく働くのですが、たくさんの計算が要ったり、自分で光を出すぶん電気を使ったりします。コンセントにつなげる場所ならいいものの、電池で動かしたいウェアラブルや小型ロボットには重たい。そこで研究チームは、ハエトリグモに目を向けました。

ハエトリグモの目のしくみ

人間の目は、奥にある網膜(もうまく=光を受け取る膜)が1枚です。ところがハエトリグモは、ひとつの目の中に網膜が何層も重なっています。そして層ごとに、ピントの合う距離が少しずつ違います。ある層では対象がくっきり見え、別の層では同じ対象が少しぼけて見える、という具合です。

ハエトリグモは、このぼけ方の違いを脳で見比べて、相手までの距離を判断していると考えられています。研究をまとめたエマ・アレクサンダー准教授によれば、ハエトリグモは常に複数のピントの像を同時に集めていて、そのくっきり具合の差から距離を読み取っているといいます。しかも、その計算をこなす脳はケシ粒ほどの大きさ。小さな脳で効率よく距離を測っている点に、省電力のヒントがありました。

SpiderCamの距離の測り方

SpiderCamも同じ発想で作られています。同じ場面を、ピント設定をほんの少しだけ変えて2枚同時に撮ります。そして、2枚のあいだで輪郭や模様のくっきり具合がどう違うかを専用のプログラムが調べ、その差を距離に変換します。ぼけの差を距離に翻訳する、というわけです。

2つの視点を見比べたり、自分で光を出したりしなくても、この方式なら距離マップ(場面の各部分が手前にあるか奥にあるかを表した地図)をリアルタイムで作れます。重たい処理を省けるぶん、電力もぐっと抑えられます。

省電力を支えるチップ

もうひとつのカギが、計算を載せる場所です。研究チームは、ふつうのプロセッサーで重たいソフトを動かすのではなく、FPGA(用途に合わせて中身を書き換えられる専用チップ)にアルゴリズムを直接組み込みました。やることを絞った専用回路にしてしまうことで、消費電力を小さくできます。

できあがった試作機は、毎秒32.5コマのペースで距離マップを作り、消費電力は624ミリワット。0.6ワットほどです。多くの常夜灯が1ワット前後を使うことを考えると、それより少ない電力で立体視ができている計算になります。研究チームは、1ワットを切って動くこの種の3Dカメラはこれが初めてだとしています。

想定される使い道

省電力であることの利点は、電池で動かせる機械の幅が広がることです。研究チームは、身につけて使うウェアラブル機器、目や体の不自由さを補う補助機器、ロボット、ドローンといった用途を挙げています。コンセントが使えない屋外での利用や、周りのモノの位置を把握する必要があるARとの相性のよさにも触れています。

距離を測る機能を、電源を気にせず小さな機械に積めるようになれば、これまで距離センサーを載せるのが難しかった場面にも立体視を持ち込める、という見立てです。

現時点での位置づけ

この成果は、コンピュータービジョン分野の国際会議CVPR(査読のある会議)で2026年6月7日に発表されたもので、プレプリント(査読前の原稿)もarXivで公開されています。今はまだ試作の段階で、研究チームは今後、視野の広さを改善したり、光学系を磨いたり、ウェアラブル機器や小型ロボットへ組み込んだりする計画だとしています。専用チップを新たに設計して、消費電力をさらに下げることも視野に入れているそうです。

派手な製品がすぐ出るという話ではありませんが、「虫の目をまねて電力を10分の1以下にする」という発想そのものが、距離センサーの作り方に新しい選択肢を加えた、と受け取れます。

出典・もっと知りたい人へ

ノースウェスタン大学プレスリリース「Jumping spiders inspire ultra-efficient 3D camera」

New Atlas の解説記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました