「呼吸する」レーザーの謎、ひとつの数式で解けた

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レーザーの光は、ふだん一定の強さで出ているように思える。ところが、出てくる光のかたまりが、リズミカルに大きくなったり小さくなったりを繰り返す——まるで呼吸しているようなレーザーがある。「ブリーザー(breather=呼吸するもの)」と呼ばれるこの不思議なレーザーは、長いあいだ、その仕組みをうまく説明できずにいた。その謎が、ひとつの数式モデルでまとめて解けた、という研究です。

手がけたのは、英アストン大学のソニア・ボスコロ博士らを含む国際研究チーム。成果は物理学の専門誌『Physical Review Letters』に2026年3月に掲載されました。

超高速レーザーとソリトン

今回の主役は「超高速レーザー」。ごく短い時間だけ光るパルス(光のかたまり)を、次々と打ち出すレーザーです。その短さはピコ秒からフェムト秒——1兆分の1秒から1000兆分の1秒というレベル。フェムト秒がどれくらい短いかというと、1フェムト秒を1秒の長さに引き伸ばしたとき、本物の1秒はおよそ3000万年ぶんに相当します。それくらい、けた違いに短い光です。

これだけ短い光のパルスは、眼の手術や、体の中をのぞく医療用の画像、材料を精密に削る加工など、幅広い場面で使われています。

このパルスは、レーザーの中にある「共振器(光がぐるぐる周回する空間)」を何度も回りながら、ソリトンという安定したかたまりに育ちます。ふつうの光のパルスは、進むうちにだんだん広がってぼやけていきますが、ソリトンは形をたもったまま進む、ちょっと特別な波です。たいていの場合、このソリトンは毎回そっくり同じ形で、規則正しく出てきます。規則的な拍動のような、落ち着いた状態です。

「呼吸する」ソリトンの二つの顔

ところがブリーザー・レーザーでは、ソリトンが共振器を一周するたびに少しずつ姿を変えます。大きくなって、小さくなって、また元に戻る——この伸び縮みが「呼吸」に見えるわけです。出てくる光が一定にとどまらず、時間とともに変わり続ける状態です。

やっかいなのは、この「呼吸」に、まったく違う二つのタイプがあったこと。レーザーがパルスを出し続けられる最低限の力を「しきい値」といいますが、これより上か下かで振る舞いが分かれます。

しきい値より上では、ソリトンは数回まわるあいだに素早く伸び縮みします。いっぽうしきい値より下では、ずっとゆっくりで、一回の「呼吸」を終えるのに数百回から数千回もの周回がかかります。

同じ「呼吸するレーザー」なのに、速い呼吸とゆっくりの呼吸とでは振る舞いがあまりに違う。そのため、これまでは二つを別々の数式モデルで説明するしかありませんでした。

二つの挙動を貫く統一モデル

研究チームがつくったのは、その速い呼吸とゆっくりの呼吸を、一本の数式モデルでまとめて説明できる枠組みです。光が共振器を回るたびの細かな変化と、レーザーにエネルギーを供給する側のゆっくりした変化——この二つを一緒に組み込んだことで、別々に見えていた現象が、じつは同じ仕組みの裏表だったことを示しました。

ボスコロ博士によれば、速い呼吸と遅い呼吸の両方を一度に予測できたのは、これまで一つのモデルでは不可能だと思われていたことだといいます。手法としては、共振器の中の細かな描写は残したまま、エネルギー供給側のゆっくりした動きをモデルに新しく取り込んだ、という改良が肝になっています。

速い呼吸と遅い呼吸の正体

この統一モデルは、二つの呼吸がそれぞれ違う物理によって起きていることも明らかにしました。しきい値より下のゆっくりした呼吸は、レーザーのエネルギーがたまっては一気に放出される動き(Qスイッチング)と、ソリトンが形を整える働きが組み合わさって生まれる。いっぽうしきい値より上の速い呼吸は、強い光が物質を通るときに屈折のしかたが変わる性質(カー効果)と、光が波長ごとに進む速さの違い(分散)が主役になっている。同じ「呼吸」でも、その奥で効いている力が違っていたわけです。

レーザー開発への意味

この成果は、実際の開発にどうつながるのか。超高速レーザーは、より強く、より安定したものが求められ続けています。これまでは状況に応じて複数の別々のシミュレーションを使い分ける必要がありましたが、一本のモデルで両方の振る舞いを見通せるようになれば、設計の現場で挙動を予測しやすくなる。研究チームは、このモデルが技術者にとって実用的な手引きになると見ています。

つまり、呼吸の謎が解けたこと自体より、これからつくるレーザーをねらった通りに振る舞わせるための、確かな道具が一つ増えた——というのが今回の意味合いです。

解釈上の留意点

今回の研究が扱ったのは、光ファイバーを使ったタイプのレーザー(ファイバーレーザー)の中で起きる現象です。モデルは実験で観測された振る舞いをよく再現したと報告されていますが、その価値が実際の開発でどこまで生きるかは、これから技術者が使っていくなかで見えてくる部分もあります。長年の「謎が解けた」とはいえ、これでレーザーのすべてが分かった、という話ではありません。

出典・もっと知りたい人へ

アストン大学のプレスリリース:Aston University researcher helps solve a decades-old ultrafast lasers puzzle(EurekAlert!版はこちら

解説記事(ScienceDaily):Physicists finally solve the strange mystery of “breathing” lasers

元論文(Physical Review Letters。本文は有料の場合があります):Unified model for breathing solitons in fiber lasers: Mechanisms across below- and above-threshold regimes

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