筋肉のサプリが心にも効く?クレアチンとうつ症状の最新レビュー

医学・健康
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筋トレをする人にはおなじみのサプリ「クレアチン」。筋肉づくりのために飲まれるあの白い粉が、じつは脳のはたらきにも関わっているかもしれない——そんな研究の見直しが発表されました。カナダ・オタワ大学のチームが、うつ症状に対するクレアチンの効果を調べた過去の臨床試験を集め直して精査したところ、「一部の人には役立つ可能性があるが、まだ効くと言い切れる段階ではない」という慎重な結論にたどり着いています。

筋肉のサプリと「心」がつながる理由

クレアチンは、世界でもっともよく研究されてきた運動サプリのひとつです。体の中では、細胞のエネルギー通貨である「ATP(アデノシン三リン酸)」を素早く作り直すための、いわば充電池のような役目を果たします。使ったATPをすぐ補充できるので、瞬発的に力を出す筋肉と相性がよく、筋力アップの目的で広く使われてきました。

ここで意外なのが、脳も同じしくみに大きく頼っている点です。脳は体重のわずか2%ほどしかないのに、体全体のエネルギーの2割前後を消費します。その脳の中でクレアチンは「ホスホクレアチン」という蓄えの形で待機し、必要なときにATPをすばやく再生する——筋肉とほとんど同じ役割で働いています。

そしてうつ病では、脳のエネルギーづくりに乱れがあることが以前から指摘されてきました。気分に関わる脳の領域でホスホクレアチンが少なめ、という報告もあります。だとすれば、クレアチンで脳のエネルギーの“底”を少し持ち上げれば、うつ症状がやわらぐのではないか——今回のレビューは、この発想を実際の試験データで検証したものです。

集め直された5件の臨床試験

研究チームは新しい実験をしたわけではなく、すでにある研究をていねいに集めて評価しました。文献をふるいにかけた結果、6本の報告としてまとまった5件のランダム化比較試験(本人にも医師にも、本物とプラセボのどちらを飲んでいるか分からないようにする試験)を対象にしています。実施されたのは韓国・アメリカ・ブラジル・イスラエル・インドの5か国。開始時点で合わせて238人が参加し、うち126人がクレアチン、112人がプラセボを受けました。参加者の平均年齢は36歳で、大半が女性、2件は女性のみを対象にしています。5件のうち4件は一般的なうつ病(大うつ病性障害)、1件は双極性障害の抑うつ状態を扱いました。

ひとつ注意したいのは、試験ごとに設計が大きく違うため、著者らは結果を1つの数値にまとめていない点です。「平均するとこれだけ効いた」という形にはせず、1件ずつ中身を見て評価する立場をとっています。

効いた試験と、効かなかった試験

結果はきれいに割れました。効果が見られたのは5件中2件です。ひとつは、うつ病の女性が飲んでいた抗うつ薬(エスシタロプラム)に1日5グラムのクレアチンを足したところ、8週間後にプラセボを足したときより症状が大きく下がったという試験。統計的にもかなり大きな効果(効果量Cohen’s d ≒ 1.13で、これは「はっきり大きい」とされる水準)で、症状がほぼ消える状態まで回復した女性も増えました。もうひとつは、認知行動療法(CBT)にクレアチンを組み合わせた試験で、CBTにプラセボを足したときより症状の下がり方が急でした。

一方、残る3件では意味のある効果は出ていません。すでに薬が効きにくくなっていた人たちでは、1日5グラムでも10グラムでも改善が見られず、思春期の女子を対象にした試験ではいくつかの用量を試してもプラセボと差がつきませんでした。双極性障害の抑うつでも効果は確認されていません。

全体を通してみると、効果がはっきり出たのは女性を対象にした場面でした。動物実験では、クレアチンがうつのような行動に与える影響がオスとメスで違うことが示されており、女性のみの試験でよい結果が出やすかった背景には、こうした性差があるのかもしれない、と著者らは見ています。

見過ごせない安全面の注意

クレアチンそのものは、全体としてよく受け入れられていました。副作用は軽い胃腸の不快感どまりで、安全性の高さはこのサプリの持ち味でもあります。

ただし、レビューは重要な注意点をひとつ挙げています。クレアチンを摂った双極性障害の参加者17人のうち2人が、軽躁または躁状態になったというのです。つまりクレアチンは誰にでも一律に穏やかというわけではなく、その人がもともと抱えている状態によって働き方が変わりうる——気分が過度に上振れする可能性がある人には、慎重さが要るということです。

いまの段階で言えること

まとめの一文を借りるなら、クレアチンは「単独の治療薬ではなく、研究中の“補助的な選択肢”」という位置づけです。抗うつ薬やCBTといった標準的な治療に足したときに、一部の人で後押しになるかもしれない、という段階にとどまります。効いた試験もあれば効かなかった試験もあり、証拠はまだそろっていません。著者らも、規模の大きな二重盲検の試験がこれから必要だと結んでいます。

だから、うつの治療をクレアチンに置き換えたり、自己判断でサプリだけに頼ったりするのは早計です。とくに気分の波が大きいタイプの人では、先ほどの躁転のリスクもあります。もし抗うつ薬などと一緒にクレアチンを試してみたいと思ったら、まずは主治医に相談するのが安全です。安全性が高いぶん、相談しやすいテーマでもあります。身近なサプリが心の健康につながるかもしれない、というのは魅力的な話ですが、期待を先に走らせすぎず、慎重に見守るのがちょうどいい距離感だといえそうです。

出典・参考

元になったレビュー論文(Canadian Journal of Psychiatry、2026年、無料で全文が読めます)と、報道記事は下記から確認できます。

The Effect of Creatine Monohydrate on Mental Disorders: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials(PMC・全文無料)

Scientists say creatine may help fight depression(ScienceDaily)

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