新種の生きものを見つけるというと、人がなかなか立ち入らない森や離島に分け入る話を思い浮かべます。ところが今回見つかった新種のテントウムシは、研究者の実験室のすぐ外——キャンパスに生えていた松の木にいました。しかも同じ研究で、もう1種の新種も見つかり、数十年ものあいだ続いていた分類上の取り違えまで正されました。

キャンパスの松で見つかった1ミリの新種
九州大学の研究チームが、箱崎サテライト(福岡)に生えていたクロマツで、これまで知られていなかったテントウムシを見つけました。名前は Parastethorus pinicola。「松に住むもの」という意味で、見つかった場所そのままの名前です。体長はわずか1ミリほど。真っ黒で、砂粒より少し大きい程度の小さな虫です。
見つけたのは、昆虫学研究室で学ぶ博士課程の学生、関良太(せき・りょうた)さん。「このなかまのテントウムシは松につくことが多いと知っていました。箱崎サテライトにはクロマツがあったので探してみたら、そこで新種が見つかったんです」と話しています。虫を採集する人は、ふつう松の木をあまり気にとめないそうで、それがこの虫が長く見過ごされてきた理由かもしれない、とのこと。
解剖しないと見分けられない黒いテントウムシ
テントウムシというと、赤地に黒い水玉のナナホシテントウを思い浮かべる人が多いはずです。でもこの仲間は、それとはだいぶ様子が違います。全身が黒くて小さく、外見だけではほとんど区別がつきません。関さんは「砂粒より少し大きいくらいで、どれも同じに見える。解剖して、生殖器を顕微鏡で確かめないと種を見分けられない」と説明します。見分けが難しいために、これまでの記録には取り違えがたくさんあったといいます。
1700個体を調べ直した50年ぶりの見直し
今回の研究は、この見分けにくいグループ——ハダニ(植物の汁を吸う小さなダニ)を食べる小さなテントウムシのなかま、ステトルス族——の分類を、日本では50年以上ぶりに見直したものです。3年をかけて、およそ1700個体を調べ直しました。
その過程で、日本で長らく「Stethorus japonicus」と呼ばれてきたおなじみのテントウムシが、実は中国から東南アジアにかけて広く分布する「Stethorus siphonulus」と同じ種だとわかりました。別々の名前がついていたけれど、正体は同じだったわけです。さらに、北海道からもう1種の新種が見つかり、Stethorus takakoae と名づけられました。この名前は、関さんが子どものころから昆虫の道を応援してくれた祖母、大月孝子(おおつき・たかこ)さんにちなんでつけたものです。
小さな虫の名前をそろえる意味
名前をそろえるのは、地味に見えて大事な作業です。関さんは「名前を標準化しておけば、アジアのほかの国とデータや研究を共有できる。この虫が熱帯から日本の温帯まで広く分布する種だと、はっきりさせられる」と話します。
このなかまのテントウムシが食べるハダニは、松をはじめ植物を弱らせる害虫です。つまり、小さくて目立たないこの虫たちは、身近な緑を守る“天然の害虫退治役”でもあります。どれがどの種なのかを正しく見分けられるようにしておくことは、生き物を守ったり管理したりするうえでも役に立ちます。
足元にいる、まだ名前のない生きもの
研究を監修した九州大学総合研究博物館の丸山宗利(まるやま・むねとし)准教授は、「こんなに小さな虫に気づく人はめったにいません。でも今回のように、街なかや大学のキャンパスにも、すぐそばで暮らしている未知の種がいるんです」と話します。「こうした“地味な”虫が、生態系を支えている。足元に広がる、見過ごされがちで面白い世界に興味を持ってもらえたら」
新しい発見は、いつも遠くの秘境にあるとは限りません。実験室のドアを出てすぐの松の木にも、まだ名前のなかった生きものがいた——というのが、この研究のいちばん愉快なところです。
出典
New species of ladybird beetle discovered on Kyushu University campus(九州大学 研究成果)


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