恐竜を滅ぼしたのは巨大な隕石だった——これはよく知られた話です。でも、地球の歴史で起きてきた「大量絶滅」は、じつはほとんどが原因のはっきりしないまま残っています。火山なのか、気候なのか、海面の変化なのか、決め手に欠けるものが多いのです。
そこへ、少し変わった説が出てきました。地球に天体がぶつかったのではなく、惑星くらいの大きさの天体が「そばを通り過ぎた」だけで大量絶滅を引き起こせたのではないか、という仮説です。提唱したのはローマ大学などに所属するダニエレ・ファルジオン氏。2025年の国際会議で発表され、現在は arXiv(査読前の論文を公開するサイト)で読めます。

説明のつかない大量絶滅
大量絶滅とは、ごく短い地質時代のあいだに、地球上の生き物の多く(おおむね4分の3以上)が一気に姿を消す出来事です。過去6億年ほどのあいだに、何度もくり返してきました。
いちばん有名なのは約6,600万年前、恐竜が滅んだ絶滅です。これはメキシコのユカタン半島に巨大なクレーターが残り、隕石に多く含まれる「イリジウム」という元素が同じ時代の地層から濃く見つかるため、巨大隕石の衝突が原因でほぼ決着しています。
問題はそれ以外です。たとえば史上最大の絶滅とされる約2億5,000万年前のペルム紀末には、種の8〜9割が消えたとされますが、衝突を示す大きなクレーターもイリジウムの異常も見つかっていません。火山だけ、隕石だけ、海面の低下だけ——どれか一つでは、いくつもの大量絶滅をうまく説明できない。ここが長年のもやもやでした。
巨大天体のすれ違いという仮説
ファルジオン氏が目をつけたのは、太陽系の外側に数多くあると考えられている、冥王星のような小さな天体です。こうした天体は「矮惑星(わいわくせい)=小さな惑星クラスの天体」と呼ばれ、氷を主成分とし、数千から数万個あってもおかしくないとされています。細長い軌道を回っているものも多いと見られています。
その一部が、ほかの天体の重力に引っぱられて、まれに太陽系の内側、つまり地球のあたりまで入り込むことがある。月はもともと火星サイズの天体が地球に衝突してできたと考えられていますが、正面衝突ほど派手ではなくても、「ぶつからずにそばをかすめる」接近通過——フライバイ——なら、もっと起きやすいはずだ、という発想です。
では、巨大な天体がそばを通ると何が起きるのか。鍵は「潮汐力(ちょうせきりょく)」です。海の満ち引きは、月の重力が海水を引っぱることで起きています。月よりずっと重い天体が、月よりずっと近くを通れば、その引っぱりは桁違いに強くなります。ファルジオン氏は、こうしたすれ違いが、年単位で続く巨大な波、大規模な火山活動、海退(かいたい=海面が下がって陸地が広がる現象)、まとまった流星群、激しい気候変動といった痕跡を残しうると書いています。
複数の異変が重なる仕組み
この説の面白いところは、バラバラだった現象をまとめて引き起こせる点にあります。大量絶滅の地層を調べると、気候の急変・隕石の衝突・大規模な火山が、時期として重なって見つかることが多い。けれど「なぜ同時に起きたのか」は、これまでうまく説明できていませんでした。
天体のすれ違いなら、これらが一度に起こりうる、と著者は考えます。強い潮汐の引っぱりが地殻を変形させ、内部を熱して火山を噴かせる。海をかき回して巨大な波を起こす。さらに、その天体が小惑星帯やカイパーベルト(海王星より外側にある氷の天体の集まり)を横切るときに、小惑星や隕石を地球めがけて弾き飛ばす。ひとつの来訪が、いくつもの災いの「共通の引き金」になりうる、という筋書きです。

仮説を支える状況証拠
状況証拠もいくつか挙げられています。たとえば化石のサンゴ。サンゴは成長線から「1年が何日だったか」を読み取れるのですが、その日数の減り方——言いかえると地球の自転がゆっくりになっていくペース——が、デボン紀(約4億〜3.6億年前)の終わりに急に変わったことが知られています。
地球の自転が少しずつ遅くなるのは、月の潮汐力でブレーキがかかるためで、月が遠ざかるほど効きが弱まります。日数の減り方が急に変わったということは、その時期に月と地球の距離が急に開いた可能性がある。衝突なら一瞬で別種の変化を起こしますが、近くを通る天体の潮汐の引っぱりなら、こうした「急だが滑らかな」変化を説明できる、と著者は言います。
太陽系そのものにも、説明のつかない“傾き”が残っています。天王星は横倒しに近い角度で回り、海王星の衛星トリトンは外からつかまえた天体らしく、惑星のなかには自転軸が大きく傾いたものもある。これらはすべて、過去に大きな天体が通過・衝突・捕獲された名残かもしれない、というのが著者の見立てです。木星についてはさらに踏み込んで、地球の0.5倍ほどの質量の天体と過去に16回ぶつかった、という試算まで示しています。ただし著者自身、天体の質量や飛来の頻度を正確に見積もるのは今の段階では難しい、とも断っています。
将来への備えという視点
過去に起きたのなら、これから起きてもおかしくない。著者はそう続けます。対策として挙げているのは、まず空の暗く遠い領域をていねいに探し、近づいてくる天体を早めに見つけること。小惑星サイズなら軌道を逸らすことも考えられますが、惑星級の天体となると逸らすのは現実的ではなく、標高2〜3kmの山の上に避難場所を用意するくらいしか手がないだろう、としています。
さらに著者は、こうした潮汐による絶滅が「宇宙人はなぜ見当たらないのか」というフェルミのパラドックスの説明にもなりうる、と踏み込みます。文明が育っても、まれな天体のすれ違いでリセットされてしまうなら、生命は不安定で短命なのかもしれない、という大きな話です。もっとも、ここはかなり思弁的な部分なので、話半分に楽しむくらいがちょうどよさそうです。
解釈上の留意点
面白い説ですが、扱いには注意が要ります。これは1人の研究者による会議発表の論文で、まだ査読を受けていないプレプリントの段階です。中身も、地層の「相関(同じ時期に起きている)」を手がかりにした仮説で、著者自身が「決定的なつながりを示すのは難しい」「天体の質量や飛来の頻度を確かに見積もることはまだできない」と認めています。
大量絶滅の主流の説明——ペルム紀末ならシベリアの大規模火山、恐竜絶滅ならチクシュルーブの隕石衝突——が、これで消えるわけでもありません。今回のアイデアは、それらを置きかえるというより、「一つの原因では説明しきれない部分があるなら、こんな可能性もあるのでは」という別の見方として読むのが、ちょうどよい距離感だと思います。
出典・もっと知りたい人へ
元記事(Universe Today):Did Gravitational Tides Cause Earth’s Extinctions?
元論文(arXiv・査読前):Daniele Fargion, “Mass Extinctions by Gravitational Tides” (2026)


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