「確率で計算するコンピューター」が半導体チップに載った——東北大などが世界初の実証

テクノロジー・エネルギー
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いまのコンピューターは、0か1かをきっちり決めて計算します。ところが、わざと0と1のあいだを行ったり来たり、確率的にゆらがせたほうが速く解ける問題があります。その「ゆらぐ計算」を担う部品を、東北大学と米国国立標準技術研究所(NIST)のチームが、世界で初めて半導体チップの上に作りこむことに成功しました。日本発の技術が、実用化に向けて一歩進んだという話です。

確率で計算するという発想

ふだん私たちが使っているパソコンやスマホは、内部のすべてを0と1のどちらかにきっちり決めて動かしています。これはとても正確ですが、苦手な計算もあります。代表が「組合せ最適化」――たくさんの選択肢の中から、いちばん良い組み合わせを探すような問題です。配送ルートの最適化や、AIの学習などがこれに当たります。

こうした問題では、答えをわざとランダムに揺らしながら少しずつ正解に近づけていく「乱数を使う計算」がよく効きます。ところが、すべてをきっちり0/1で動かす今のコンピューターで乱数を扱うと、わざわざ計算で疑似的な乱数を作る必要があり、手間も電力もかかります。

そこで出てきたのが、確率論的コンピューター(Pコンピューター)という考え方です。基本部品である「Pビット(確率ビット)」は、0と1をきっちり決めずに、短い時間のあいだ確率的にパチパチと切り替わりながら出力します。しかも、その「0と1がどれくらいの割合で出るか」を外から調整できます。乱数を計算で作るのではなく、部品そのものが自然にゆらいでくれる――この性質が、最適化やAIのような計算と相性がよく、低い消費電力で速く解ける可能性があるとして注目されてきました。

ちなみにこの発想自体は新しくありません。1981年、物理学者のリチャード・ファインマンが、量子コンピューターと並べて「確率的な現象を効率よく計算する仕組み」として講演で触れています。Pコンピューターは、量子コンピューターとは別ルートの「新しいタイプのコンピューター」のひとつ、という位置づけです。

世界初の半導体集積

今回の成果を一言でいうと、このPビットを「半導体チップの上に一体化して作る」ことに世界で初めて成功し、狙い通りに動くことを確かめた、というものです。

これまでもPコンピューターの試作は行われてきましたが、その形が課題でした。ゆらぐ素子と、それを制御する半導体回路を、別々に用意してケーブルでつなぐ方式だったのです。これだと100個(100ビット)ほどの小規模な実証が限界で、本格的に使うために必要な大きさには遠く届きません。

実用的なPコンピューターを作るには、半導体の製造技術を使って、たくさんの部品を1枚のチップにまとめて作りこむ必要があります。今回は、まさにその「チップに作りこむ」第一歩をクリアしたことになります。

ゆらぐ磁石を使う仕組み

Pビットの「ゆらぎ」を生み出しているのは、磁石です。正確には、スピントロニクスと呼ばれる、磁石の性質(N極・S極の向き)を電気で扱う技術を使っています。固い棒磁石ではなく、とても小さく作った磁石は、まわりの熱の影響でN極・S極の向きがひとりでにパタパタと入れ替わります。この自然なゆらぎを、そのまま0と1のゆらぎとして使うわけです。電子回路でわざわざ乱数を計算しなくても、物理現象そのものが乱数を供給してくれる、という発想です。

今回の試作では、この役割を「超常磁性トンネル接合」という、熱で向きがゆらぐように設計された小さな磁石素子が担っています。チームは、米SkyWater Technology社の130ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリ)世代の半導体プロセスでトランジスタ回路を作ったあと、その上に東北大学でこの磁石素子を載せて、シリコン基板の上で一体化させました。日本とアメリカ、それぞれの半導体技術を組み合わせて1枚のチップに仕立てた形です。測定の結果、Pビットとして期待される通りの「確率的にゆらぎ、その割合を外から制御できる」入出力の特性が確認されました。

大規模化への道筋

この実証のいちばんの意味は、「大きくできる見通しが立った」ことにあります。ケーブルでつなぐ方式では100ビット程度が限界でしたが、半導体に作りこむ基盤ができたことで、東北大学は100万ビット程度までの大規模化が射程に入った、としています。100個から100万個へ、つまり1万倍の規模が見えてきた、ということです。

背景には、AIの普及で電力消費がふくらみ続けているという事情があります。データセンターが使う電気は増える一方で、計算を省エネで回す技術の重要性が増しています。Pコンピューターは、量子コンピューターのような極低温の特殊な装置を必要とせず、AIや最適化の計算を低い電力でこなせる可能性がある点で、その候補のひとつと見られています。

現時点での位置づけ

とはいえ、今回実証されたのはあくまで基本部品であるPビットを半導体に集積できた、という段階です。実際に役立つ規模のPコンピューターがすぐ完成するわけではなく、大規模化や性能の作り込みはこれからの課題です。

もうひとつ、名前が似ているので混同しやすいのですが、Pコンピューターは量子コンピューターとは別物です。量子ビットが0と1の「重ね合わせ」を使うのに対し、Pビットは0と1を確率的に「切り替える」もので、原理が異なります。一定の似たところはありつつ、それぞれ得意分野の違う、別系統の技術だと考えるのがよさそうです。それでも、AI時代の省エネ計算という大きな課題に対して、日本発の研究が世界初の一歩を刻んだ意味は小さくありません。

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