軍用の水陸両用車を、そのまま高級リゾートに連れてきて、雰囲気よく仕立て直したら——。そんな見た目の電気自動車が登場しました。ポルトガル発の新興メーカー「Amble(アンブル)」が発表した「Amble One」です。第二次世界大戦中にフォルクスワーゲンが作った水陸両用車「シュビムワーゲン」を思わせる丸みのある車体に、コルクや帆布をあしらった内装。見るからに水の上も進めそうですが、ここが肝心なところで、水には浮きません。
派手な性能で勝負するクルマではありません。最高速度は65km/h、航続距離は約100km。「ちょっとした移動のために、わざわざ大きなクルマを使わなくてもいいのでは」という発想から生まれた、デザイン先行のニッチな一台です。

Ambleという新顔のメーカー
Ambleは、2026年6月25日にステルス状態から姿を現したばかりの会社です。面白いのは創業メンバーの顔ぶれで、Apple、Audi、電動自転車メーカーのCowboy、デザインスタジオのforpeople、それにホテルなどホスピタリティ業界の出身者が集まっています。CEOのAdrien Roose氏はCowboyの共同創業者、デザインを率いるJulian Hoenig氏はAudiとAppleでの経歴を持つ工業デザイナーです。
「クルマは速さ・距離・効率のために設計されている。でも実際の移動の多くは短く、そういう用途にはクルマは大きすぎて、複雑で、高すぎる」——というのが彼らの出発点。乗る人と周りの風景のあいだに、ドアや画面でいちいち仕切りを作らない、開けっ放しの乗り物を目指したといいます。
車体のスペックと走り
動力は48Vの電気モーター1基で、出力はおよそ20馬力(15kW)。後輪を駆動します。バッテリーは約11kWhで、これで最大100km(62マイル)を走るとしています(※New Atlasは12kWhと報じており、媒体によって数値が分かれています)。0→30km/hは2.5秒未満と、街なかの発進ならきびきび動く程度の俊敏さはあるようです。車重は約450kg。
足回りは前後とも独立懸架で、オフロード向けにチューニングされた28インチの大径タイヤを履きます。25%の急な坂も上れるとされ、見た目どおり「砂浜や未舗装の小道もそこそここなす」性格です。充電は220/230Vのコンセントから約5.5時間。日本やヨーロッパの家庭用電源に近い電圧で、米国でいえば乾燥機用の240Vコンセントに相当します。
素材とデザインへのこだわり
車体はアルミ製のフレームに、革・コットン(帆布)・コルクといった、強い日差しや経年変化に強い素材を組み合わせています。使い込むほど味が出る方向の作り込みです。ドアはなく、ダッシュボードまわりも最小限。スクリーンを並べる代わりに、物理的なスイッチ類を残しているのも今どきのEVとしては珍しいところです。
細かいところでは、ダッシュボード前のバーがバイクのハンドルと同じ太さで作られていて、スマホホルダーなど自転車・バイク用のアクセサリーをそのまま取り付けられます。座席は倒すと荷室が広がり、車体は構成を組み替えられる設計なので、後からドアや帆布のサイドパネルを足すこともできるとしています。
クルマとゴルフカートの中間という立ち位置
Amble Oneは、テスラのような本格的なEVとも、リゾートでよく見るゴルフカートとも違う、その中間を狙った乗り物です。メーカー自身も「軽量・短距離という新しいカテゴリー」と説明しています。想定しているのは、家族の2台目のクルマ。ビーチの町でよく見かける幌なしのジープのような役どころを、もっと小さな電動モビリティで担おう、というイメージです。まずは4人乗りで、5〜6人乗りも追って用意するとしています。
スペックが控えめなのには理由があります。EUでは車両重量450kg以下・出力15kW以下に収めると「四輪バイク(L7eカテゴリー)」として扱われ、これを超えると「クルマ」になって規制が一段重くなります。Amble Oneがちょうど450kg・15kWに収まっているのは、この枠を意識した設計だからです。
価格と発売スケジュール
価格は税・諸費用を除いて2万5000ドル(約2万ユーロ)から。予約は返金可能な100ドルのデポジットで受け付けています。ただし手に入るのはまだ先で、2027年の最初の納車枠は高級リゾートなどホスピタリティ施設向けに確保され、個人向けの納車は2028年からの予定です。すでに米ユタ州のAmangiri、カリブ海のMustique Island、フランス・ロワール地方のSix Senses Les Bordesといった著名な宿泊施設が関心を示しているといいます。
購入前の留意点
正直なところ、ゴルフカートに毛が生えた装備で2万5000ドルというのは安くはありません(New Atlasのコメント欄にも同じ声が早速ついていました)。最高速度40マイル(65km/h)・航続100kmという性能も、長距離移動には向きません。あくまで「短い距離を、気持ちよく移動する」ことに割り切った製品です。
また、現時点では発表されたばかりで、納車も2027〜2028年とこれからの段階。公表スペックも媒体によって細部が分かれている(バッテリー容量など)ので、最終的な仕様は今後の正式情報を待つ必要があります。それでも、機能や航続距離を競うEVが多いなかで、「移動そのものを楽しい体験にする」ことに振り切った発想は、ひとつの面白い方向性ではあります。水には浮かない水陸両用車風、というのがまた、いい力の抜け具合です。


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