Ia型超新星(白色矮星=星の燃えかすが起こす大爆発)は、宇宙の距離をはかる“ものさし”として長く使われてきました。どれもほぼ同じ明るさで光るので、見かけの暗さから「どれだけ遠いか」を逆算できるからです。ところが実際には、爆発した星の素性や、まわりの銀河・宇宙のちりによって、明るさは少しずつずれます。このずれを取りこぼすと、宇宙がどれだけの速さで膨らんでいるか(膨張の速さ)の見積もりにも誤差が乗ってしまいます。
そこで登場したのが、超新星の画像そのものから「その爆発が置かれた環境」まで丸ごとモデルに組み込むAIの枠組み「CIGaRS(シガーズ)」です。手間のかかる分光観測に頼らず、明るさの情報(測光)だけで、従来より約4倍細かく距離を見積もれたと報告されています。イタリアのSISSA、インペリアル・カレッジ・ロンドン、バルセロナ大学の国際チームが、査読付きの学術誌 Nature Astronomy に2026年に発表しました。

宇宙の“ものさし”としての超新星
Ia型超新星は、宇宙論で「標準光源(明るさの基準になる天体)」と呼ばれます。本来の明るさがだいたいそろっているので、見かけがどれだけ暗いかを測れば、その距離が分かる。宇宙が加速しながら膨らんでいる、というダークエネルギーの発見も、この超新星の観測から始まりました。
ただ、これらの爆発は完全に同じではありません。爆発を起こした星に含まれる重元素の量(金属量)や星の年齢、さらに超新星が生まれた銀河の性質や、そこに漂うちりによって、届く光は少しずつ変わります。よく知られた例が「質量ステップ」と呼ばれる現象で、太陽のおよそ100億倍ほどの重さを境に、銀河の重さによって超新星の見かけの明るさが段差のようにずれます。こうした環境の影響を取り違えると、距離の目盛りがわずかに狂います。
この“わずか”が効いてくるのが、宇宙の膨張の速さ(ハッブル定数)の議論です。宇宙初期の観測から求めた値と、近くの超新星などから求めた値が食い違う「ハッブルテンション」という問題が長く続いていて、ここでは測定の精度がそのまま結論を左右します。だから、環境によるずれをどれだけ正確に扱えるかが、宇宙論全体の課題になっているわけです。
環境ごと丸ごとモデル化するAIの発想
これまでのやり方は、明るさのずれを段階的に補正していくものでした。ちりの影響を差し引き、銀河の重さで調整し……と一つずつ処理していく。しかもそのために、光を波長ごとに分解して詳しく調べる分光観測が要り、精密にやろうとすると超新星のごく一部にしか手が回りません。
CIGaRSは発想を変えて、超新星の明るさ・生まれ持った性質(金属量と年齢)・母銀河の進化・ちりによる減光・観測でどれが選ばれやすいかという偏り・そして宇宙の膨張までを、ひとつの一貫したモデルの中でまとめて推定します。しかも入力は主に測光、つまり色ごとの明るさの画像だけ。星形成や銀河の化学的な進化については、Prospector-βという物理モデルを土台に使っています。
研究チームがシミュレーションで確かめたところ、金属量による明るさのずれは、先ほどの「質量ステップ」とよく似た形で現れることが分かりました。これまで銀河の重さのせいだと思われていた段差の一部が、実は爆発した星そのものの性質を映していた可能性がある、という見方につながります。つまり、超新星と環境を切り分けずに一緒に解くことで、これまで混ざって見えていた要因をほどける——それがこの枠組みの核心です。結果として、画像の明るさだけを使いながら、距離の見積もりの細かさは従来手法の約4倍に達したとしています。
シミュレーションで確かめた手順
CIGaRSが使うのは「シミュレーションベース推論」と呼ばれる方法です。ありうる宇宙をコンピューター上でたくさん作り、その模擬データでニューラルネットワークを訓練して、観測から背後の物理的な性質を一気に読み取れるようにします。従来よく使われる計算手法では、これだけ多くの要因を同時に扱うのは現実的でない、という判断からの選択です。
検証では、まず現在の超新星カタログと同じくらいの規模にあたる1,578個のサンプルを用意し、さらにその約10倍、およそ1万6千個という、将来の観測なら1か月ぶんに相当する大きさのカタログへ広げました。そのうえで、宇宙の膨張の様子や、超新星が母銀河の環境からどう影響を受けるかといった、絡み合った複数の性質を同時に取り出せることを示しています。画像だけを使ったときの宇宙論パラメーターの精度は、分光を含む従来のより小さなサンプルでの解析に匹敵するとされました。
次世代サーベイに向けた意味
この枠組みが見据えているのは、チリで観測を始めるベラ・C・ルービン天文台です。10年にわたる大規模な空のサーベイで、Ia型超新星が年に数十万個という規模で見つかると予想されています。ところがそのうちおよそ99%は、分光ではなく色ごとの画像(測光)でしか観測されません。詳しい分光が取れるのは、場合によっては全体の1%ほどにとどまります。
これまでのやり方だと、その少数の“分光つき”の超新星に頼らざるをえませんでした。CIGaRSのように画像だけからでも十分な情報を引き出せれば、これまで使いきれていなかった大多数のデータも生かせるようになります。膨大な観測が眠ったままにならずにすむ、という点に狙いがあります。
解釈上の留意点
この研究は、実際の観測データで新しいハッブル定数の値を出したものではありません。あくまで解析の“枠組み”を提案し、その性能をシミュレーション(模擬データ)で確かめた段階です。論文名に「CIGaRS I」とあるとおり、これから続く一連の研究の最初の一歩という位置づけでもあります。
「約4倍」という精度の向上も、現時点ではシミュレーション上での見積もりです。ルービン天文台の本物の観測データにあてはめたときに、想定どおりの成果が出るかどうかはこれから確かめることになります。ハッブルテンションのような食い違いに直接の決着をつけた、という話ではない点は押さえておきたいところです。とはいえ、増え続ける画像データをどう生かすかという実務的な課題に、精度の面から具体的な道筋を示したことは確かです。
出典・もっと知りたい人へ
元論文(Nature Astronomy、2026年。本文は有料の場合があります):CIGaRS I: combined simulation-based inference from type Ia supernovae and host photometry
無料で全文が読めるプレプリント版(arXiv、内容は査読済みの論文とほぼ同じ):arXiv:2508.15899
大学プレスリリース(バルセロナ大学 ICCUB):A new way to read the Universe
大学プレスリリース(インペリアル・カレッジ・ロンドン):New AI method sharpens view of the Universe from supernova light


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