【シルル紀の生物】クサリサンゴ – 卒業論文の調査で見つかった、日本のシルル紀の最初の証拠

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名前クサリサンゴ(学名 Halysites=「鎖のようなもの」。ギリシャ語の halysis「鎖」から)
分類刺胞動物門 花虫綱 床板サンゴ類 クサリサンゴ科(絶滅)
時代オルドビス紀後期〜シルル紀(約4億5000万年前〜約4億2000万年前)。もっとも栄えたのはシルル紀
発見地北アメリカ、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア。日本では岩手県大船渡市・住田町、高知県越知町の横倉山、九州のシルル紀の石灰岩など
群体の大きさ1センチ足らずから数十センチまで
個体(ポリプ)の大きさ筒の径は1.5ミリ前後。筒と筒のあいだに、径0.5ミリ以下の細い管がはさまる
成長の速さ上へ年に6ミリほど(エストニア産の標本の計測)

クサリサンゴは、古生代の海にいた床板(しょうばん)サンゴのなかまです。細い筒が横一列につながって壁をつくり、その壁が曲がりくねって網の目のように閉じるため、断面には鎖をつないだような模様があらわれます。シルル紀の浅い海で礁をつくった顔ぶれのひとつで、日本では、この国にもシルル紀の地層があることを最初に示した化石のひとつでもあります。

姿と暮らし

群体をつくる筒のひとつひとつにはポリプ(サンゴの個体)が1匹ずつ入り、筒の中にはポリプが上へ伸びるたびに張った水平な板が何枚も重なっています。床板サンゴという名前はこの板に由来します。クサリサンゴの筒は、隣の筒と左右の2か所だけで接し、1列に並んで「柵」のような壁になります。柵は途中で枝分かれしたり、ほかの柵とつながったりしながら伸び、上から見ると、壁に囲まれた空き部屋がいくつも並んだ形になります。この空き部屋の部分には骨格がなく、海水が満ちていました。

クサリサンゴ属の特徴は、太い筒と筒のあいだに、もっと細い管がはさまっていることです。祖先とされるカテニポラ(Catenipora)にはこの細い管がありません。2019年にエストニアのシルル紀の標本を計測した研究では、太い筒の径が1.5ミリ前後、細い管が0.2〜0.5ミリほどでした。同じ研究は、筒の内側の広さが周期的に変わる跡を1年ごとの成長の区切りとみて、群体が年に平均6ミリほど上へ伸びていたと見積もっています。2024年には中国のシルル紀前期の標本をマイクロCTで立体的に調べた研究があり、柵が横へ伸びるときに、1か所から何本にも枝分かれして広がっていたことが分かりました。

暮らしていたのは、赤道に近い暖かく浅い海です。ポリプは触手でプランクトンを捕まえて食べていたと考えられています。シルル紀の礁では、海綿のなかまの層孔虫(そうこうちゅう)、塊になるハチノスサンゴ、角のような形の四射サンゴといっしょに海底を覆い、まわりにはウミユリ、腕足動物、三葉虫が暮らしていました。前述の中国の研究では、クサリサンゴの礁は岩全体のうち骨格が占める割合が3割ほどとすき間が多く、網の目の空き部屋は四射サンゴやコケムシなどほかの生き物の居場所になっていたとみられています。スウェーデンのゴットランド島には、クサリサンゴが海底一面に広がった層の中で、四射サンゴが根のような突起を伸ばして体を固定していた例が残っています。

鎖の模様は時代の目印

クサリサンゴを最初に記載したのは、生物の学名の付け方を確立したスウェーデンの博物学者リンネです。1767年、リンネはこれを Tubipora catenularia と名づけ、現在の暖かい海に生きているクダサンゴ(Tubipora)の仲間として扱いました。のちに独立した属に移され、いまの属名 Halysites になっています。

クサリサンゴのなかまはオルドビス紀の後期に現れ、シルル紀に全盛期を迎えたあと、シルル紀の終わりごろに姿を消しました。同じ床板サンゴのハチノスサンゴがペルム紀まで生き延びたのとは対照的です。生きていた期間がはっきり区切られているうえ、鎖の模様は割れた石灰岩の表面でも見分けやすいため、野外で鎖の模様を見つければ、その石灰岩がオルドビス紀からシルル紀のものだと見当がつきます。

大船渡の石灰岩が示した、日本のシルル紀

1930年代の半ばまで、日本列島でシルル紀の地層は確認されていませんでした。それを変えたのは、東北帝国大学の学生だった小貫義男(おぬき・よしお)です。1936年、小貫は卒業論文のための地質調査で、岩手県気仙郡(現在の大船渡市日頃市町)を流れる樋口沢を歩いていました。そこで石灰岩の中にサンゴの化石を見つけます。昼食後にひと休みしたあと、そばの石灰岩に目をやったのがきっかけだったと伝えられています。

樋口沢の石灰岩から出るのは、クサリサンゴやハチノスサンゴなどの床板サンゴ、四射サンゴ、層孔虫、腕足動物です。こうした化石の組み合わせから、石灰岩はシルル紀のものと判断されました。小貫は翌1937年、「北上山地、岩手県気仙郡地方に於けるゴトランド紀層の新発見並びに古生層の層序に就いて」として地質学雑誌に報告しました。ゴトランド紀は、ゴットランド島にちなむシルル紀の当時の呼び名です。日本の地質の歴史は、この報告でシルル紀までさかのぼりました。

その後、岩手県住田町、高知県越知町の横倉山、九州でも、クサリサンゴを含むシルル紀の石灰岩が相次いで見つかりました。北上山地と横倉山では、シルル紀の前半の地層にクサリサンゴ属(Halysites)、後半の地層にはシェドハリシテス(Schedohalysites)という別の属が多く出ます。日本のシルル紀・デボン紀のサンゴをまとめた1981年の総説によれば、日本のこの時代のサンゴは世界中に分布する種類がほとんどで、地域色を示すものはクサリサンゴの仲間に限られます。シェドハリシテスは、シルル紀の日本とオーストラリアのつながりを示すとされる属です。当時の北上山地は、赤道付近にあった大陸の一部だったと考えられています。

樋口沢の産地は1957年に「樋口沢ゴトランド紀化石産地」として国の天然記念物に指定されました。名前には、発見当時の呼び名がそのまま残っています。樋口沢で採集されたクサリサンゴの化石は、大船渡市立博物館で展示されています。

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出典

Kato, M. et al. (1981) Silurian and Devonian corals of Japan. Acta Palaeontologica Polonica 25 (3/4), 557–566

Liang, K., Elias, R. J. & Lee, D.-J. (2019) Morphometrics, growth characteristics, and phylogenetic implications of Halysites catenularius (Tabulata, Silurian, Estonia). Journal of Paleontology 93 (2), 215–231

Ren, X. et al. (2024) Multiple Non-Destructive Approaches to Analysis of the Early Silurian Chain Coral Halysites from South China. Life 14, 1014

Berkowski, B. & Zapalski, M. K. (2018) Large dwellers of the Silurian Halysites biostrome: rhizosessile life strategies of cystiphyllid rugose corals from the Llandovery of Gotland. Lethaia 51, 581–595

fossiilid.info「Halysites catenularius」(リンネによる原記載と計測値)

三陸ジオパーク「樋口沢ゴトランド紀化石産地」

文化庁 国指定文化財等データベース「樋口沢ゴトランド紀化石産地」

岩手県立博物館 三陸の資料「床板サンゴ類化石 シェドハリシテス(クサリサンゴ)」

越知町立横倉山自然の森博物館「クサリサンゴ」

地学写真集「樋口沢」(発見の経緯と小貫(1937)の書誌)

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