この記事には広告(Amazon アソシエイトのリンク)を含みます。

| 名前 | ステゴサウルス(Stegosaurus、「屋根のトカゲ」の意味) |
| 分類 | 鳥盤類 装盾類 剣竜類 ステゴサウルス科 |
| 時代 | ジュラ紀後期(約1億5500万〜1億4500万年前) |
| 発見地 | アメリカ西部(コロラド州・ワイオミング州・ユタ州)のモリソン層、ポルトガル |
| 全長 | 約6.5m(ステゴサウルス・ステノプス)〜7〜9m(ステゴサウルス・ウングラトゥス) |
| 体重 | 推定3.5〜5t前後(研究により幅がある。全長5.8mの若い成体「ソフィー」は約1.6tとする推定) |
| 背中の板 | 17〜22枚。最大の板は高さ約1m、幅約60cm |
ステゴサウルスは、ジュラ紀の終わりごろに北アメリカにいた、大型の剣竜(けんりゅう)のなかまです。背中に沿って立ち上がる骨の板と、尾の先の4本のスパイクで知られ、恐竜のなかでも姿を見ればすぐ名前が分かる数少ない一種です。体は乗用車より長いのに脳は小さく、この脳の小ささから、腰に「第二の脳」を持っていたという説が19世紀の記載直後に生まれ、その後100年近く語り継がれました。
姿と暮らし
4本の脚で歩く、背中が山のように盛り上がった恐竜です。前脚が後脚よりずっと短いため、腰がいちばん高く、頭は地面から1mほどの低い位置にありました。尾は地面につけず、後ろへ水平に伸ばしていたと考えられています。後脚の指は3本、前脚は5本で、頭は体に対して小さく、細長い頭骨が短い首の先についています。のどの下には小石のような小さな骨が敷きつめられていて、柔らかいのどを守る役目をしていました。
背中の板は骨格の一部ではなく、ワニのうろこの芯と同じ、皮膚の中にできる骨(皮骨)が大きく発達したものです。板は首から尾の途中まで、左右に互い違いの2列に並びます。この並びは、板が体についたまま化石になったステゴサウルス・ステノプスの標本から分かりました。板の表面には血管の通った溝が刻まれ、近縁のヘスペロサウルスに残っていた皮膚の跡から、生きていたときは板の全体が角質の鞘(さや)で覆われていたことが分かっています。尾の先には長さ60〜90cmのスパイクが2対、上ではなく左右に向かってほぼ水平に突き出していました。
食べていたのは植物です。口の先は歯のないくちばしで、その奥に小さな三角形の歯が並んでいました。歯は小さく、あごの動きも上下方向に限られていたため、長いあいだ「かむ力の弱い恐竜」と見られてきましたが、2016年にコンピューター上の頭骨模型で計算し直した研究では、かむ力はウシやヒツジと同じ程度とされ、ソテツのような硬い植物も食べられたと見直されています。頭の位置の低さから、シダやソテツ、若い針葉樹の葉のような、地面に近い植物を主に食べていたと考えられます。花を咲かせる植物もイネ科の草も、まだありません。
暮らしていたのは、乾季と雨季のはっきりした半乾燥の平野でした。化石が出るモリソン層は、川沿いに針葉樹や木生シダの林が続き、その間にシダの原が広がる土地だったと考えられています。同じ地層からは、アパトサウルスやディプロドクス、ブラキオサウルスといった首の長い竜脚類、小型の草食恐竜カンプトサウルス、そして肉食のアロサウルスが見つかっています。アロサウルスの尾の骨に、ステゴサウルスのスパイクがちょうど収まる大きさの穴が開いた標本があり、傷は治りかけていました。ステゴサウルス側でも、調べたスパイクの1割ほどに折れや傷の跡があります。尾のスパイクは飾りではなく、実際に振るわれていました。
板は何のためにあったのか
「屋根のトカゲ」という名前は、1877年にこの恐竜を記載したオスニエル・チャールズ・マーシュが、最初は板が屋根瓦のように背中に平らに重なっていると考えたことに由来します。板が立っていたと分かった後も、その用途については、鎧のような防御、体温の調節、見せびらかし(ディスプレイ)の3つの説が長く争われてきました。
1976年に出た研究は、板の表面の血管の跡に注目し、板を風に当てて血液を冷やす放熱板だと考えました。1986年には板の内部組織が調べられ、外側の層に血管が密に通っていることが確かめられます。ただし2005年に組織をあらためて分析した研究は、この血管は板を速く大きく育てるための栄養の通り道と見るほうが自然で、放熱のために進化した証拠はないとしました。2010年には、ステゴサウルスの板とワニの皮骨をCTで比べた研究が、内部に枝分かれした管の構造を見つけ、放熱の役割も捨てきれないと報告しています。板が角質の鞘で覆われていたことは、熱を逃がすには不利ですが、ウシの角やカモのくちばしのように角質があっても熱を捨てる例は現生動物にもあります。
現在は、板は主にディスプレイのためのもので、放熱は副次的な役割だったとする見方が主流です。板は薄く、両脇ががら空きになる位置についているため、鎧としては役に立ちません。一方で、体を大きく見せる効果は横から見たときに最も大きく、板の輪郭は種ごとに違います。2015年には、ヘスペロサウルスの板の形に幅の広いものと背の高いものの2タイプがあることから、オスとメスで板の形が違っていたとする研究も出ました。
クルミほどの脳と「第二の脳」
ステゴサウルスの脳は、体の大きさに比べて極端に小さいことで知られています。マーシュは1880年代に、保存のよい頭骨から脳の入っていた空洞の型(エンドキャスト)を取り、当時知られていた恐竜のなかで最も小さい脳だと記録しました。現在の推定でも、脳の重さは80g程度、脳の大きさから知能の目安を出すEQと呼ばれる指標は0.6を下回ります。ただし、この値は動きの遅い大型の草食動物としては特別に低いわけではなく、ゆっくり植物を食べて暮らす生き方にはつり合った大きさだとされています。
「第二の脳」の話は、この小さな脳と、腰の骨の中に見つかったもうひとつの空洞から生まれました。脊椎動物の背骨には脊髄を通す管があり、ステゴサウルスの腰(仙椎)の部分では、この管が大きくふくらんでいます。マーシュは1881年、その空洞が頭の脳の空洞より大きいことを指摘し、これを「後方の脳の入れ物」と表現しました。空洞の容積は頭の脳の20倍近くに達します。1887年に彼が記載した種のひとつは、「二重の神経の集まり」を意味する「ステゴサウルス・ドゥプレクス」と名づけられました。
この記述は、後ろ脚と尾を動かす専用の脳が腰にあった、という形で広まりました。1912年にはシカゴの新聞に、頭の脳と腰の脳で考え事を分担するステゴサウルスをうたった詩が載り、この詩を通じて「二つの脳」のイメージは一般に定着します。1932年にアメリカ自然史博物館のバーナム・ブラウンが博物館誌でこの説を否定していますが、その後も図鑑や解説書には長く「腰に第二の脳があった」と書かれ続けました。
腰の空洞に脳がなかったことは、現在では研究者のあいだで意見が一致しています。そこに何が入っていたかについて、いちばん有力なのは鳥との比較です。鳥の腰の骨の中にも同じようなふくらみがあり、そこには「グリコーゲン体」と呼ばれる、グリコーゲンを大量にためた細胞のかたまりが収まっています。1990年に恐竜と現生動物の脊柱の空洞を比べた研究は、ステゴサウルスの空洞を、このグリコーゲン体が入っていた跡と解釈しました。鳥のグリコーゲン体の働き自体はまだよく分かっておらず、神経系にエネルギーを供給するという説や、平衡感覚に関わるという説があります。同じような腰の空洞は竜脚類にもあり、ステゴサウルスだけの特徴ではありません。マーシュの「後方の脳の入れ物」という言葉は、大きさの比較を述べただけの一文でしたが、この一文が、恐竜のなかでいちばん有名な誤解のひとつを100年にわたって支えることになりました。




関連する商品
この記事に関連する本や商品は、Amazon で探せます。
上のリンクから購入されると、このブログに紹介料が入ることがあります。
出典
マーシュによる最初の記載(1877年):A new order of extinct Reptilia (Stegosauria) from the Jurassic of the Rocky Mountains(American Journal of Science)
「第二の脳」説の由来と現在の解釈(スミソニアン誌の解説記事):The Double Dinosaur Brain Myth(Smithsonian Magazine)
板の内部構造のCT観察(2010年):Farlow et al., Internal vascularity of the dermal plates of Stegosaurus(Swiss Journal of Geosciences)
板とスパイクの成長にともなう組織の変化(2012年):Hayashi et al., Ontogenetic histology of Stegosaurus plates and spikes(Palaeontology)
板の角質の鞘の証拠(2010年):Christiansen & Tschopp, Exceptional stegosaur integument impressions(Swiss Journal of Geosciences)
板の形の2タイプと性差の可能性(2015年):Saitta, Evidence for sexual dimorphism in the plated dinosaur Stegosaurus mjosi(PLOS ONE)
最も完全な標本「ソフィー」の記載(2015年):Maidment et al., The postcranial skeleton of an exceptionally complete individual of Stegosaurus stenops(PLOS ONE)
「ソフィー」の体重推定(2015年):Brassey et al., Body mass estimates of an exceptionally complete Stegosaurus(Biology Letters)
ステゴサウルスの種の整理と模式種の問題(2010年):Galton, Species of plated dinosaur Stegosaurus of western USA(Swiss Journal of Geosciences)
アロサウルスの尾の骨に残るスパイクの傷(スミソニアン誌の解説記事):Watch Out For That Thagomizer!(Smithsonian Magazine)


コメント