自宅の作業台でLEDを1粒作る——基板に載せて白く光らせるまで

スポンサーリンク

この記事には広告(Amazon アソシエイトのリンク)を含みます。

LEDは、いまや1個数円で買える部品です。ところが、あの小さな粒の中身がどうやって作られているかを順を追って見られる機会は、ほとんどありません。工場のクリーンルームの中の話であって、外からは見えないからです。その工程を、自宅のラボで最初から最後まで実演した人がいます。「Dr. Semiconductor」と名乗る人物で、電子工作系メディアのHackadayが2026年8月23日に紹介しました。しかも光らせて見せるだけの実演ではなく、チップを基板(PCB)にはんだ付けし、基板から電気を流すと白く光る、部品として成立したLEDまで作り切っています。

白いLEDの中身は「青+黄色」の2段構え

まず、LEDがどういう仕組みで光っているのかを押さえておきます。部屋の照明に入っている白色LEDは、じつは白く光る素子ではありません。中で光っているのは青色LEDで、その上に黄色く光る蛍光体の層がかぶせてあります。青い光の一部が蛍光体に吸収されて黄色に変わり、残った青と混ざって、人の目には白く見える。世の中の白色LEDのほとんどが、この2段構えでできています。

心臓部の青色LEDは、窒化ガリウム(GaN)という半導体でできています。電子が多い層(n型)と電子が足りない層(p型)でごく薄い発光層を挟んだ構造になっていて、電気を流すと、この薄い層の中で電子と正孔(電子の抜けた穴)が出会い、青い光になって出てきます。この青色LEDは日本で実用化された技術で、開発に貢献した赤﨑勇・天野浩・中村修二の3氏は2014年のノーベル物理学賞を受賞しています。

アマチュアが半導体を作る試みはこれまでにもありました。ただ、その多くは「電流を流すと反応する」ことを確かめる実演にとどまっていて、部品として使える形まで持っていった例はごくわずかです。今回の挑戦が目を引くのは、そこを越えているからです。

いちばん難しい部分は、買える

ここが今回の話でいちばん面白いところです。LED作りの最難関は、原子がきれいに並んだ半導体の結晶を育てる工程です。サファイアの円盤の上に、n型のGaN、発光層、p型のGaNを原子レベルの精度で積み上げていく。これには専用の大型装置が必要で、個人にはどうやっても手が出ません。

ところが、この「積み上げ済みの円盤」は、エピウェハーという名前で普通に売られています。本人の解説サイトによれば、2インチのウェハーが160ドルほどから買えて、小さく切り分ければ一生分のLEDの材料になる量です。つまり、LEDのいちばん難しい部分は、じつは市販品で済む。Dr. Semiconductor本人も「結晶成長という最難関こそが、買える部分だ」とはっきり書いています。自作したのは、その先の全部です。

誤解のないように書いておくと、今回の挑戦は「半導体をゼロから自作した」わけではありません。Hackadayのコメント欄でもその点は指摘されています。ただ、ウェハーを買ったあとに残っている工程——切る、電極を着ける、切り分ける、基板に載せる、白くする——も、ひとつひとつが本来クリーンルームの仕事です。それを自宅でやり切ったところに、この話の値打ちがあります。

刻んで、着けて、載せて、塗る

工程の流れを追ってみます。買ってきたウェハーは、発光層とp型の層が表面をすっかり覆っているので、まず下に埋まったn型の層まで掘り下げて、電極を着ける場所を作らなければなりません。ここで使ったのが波長355ナノメートルの紫外レーザーです。この波長の光はGaNには吸収されるのに、下のサファイアはほぼ素通しするという性質があって、GaNだけを狙って分解できます。レーザーで削った面は荒れているので、温めた水酸化カリウム(KOH)の薄い溶液に浸けて、傷んだ部分だけを溶かし落として整えます。本人はこの組み合わせを「レーザーがチェーンソー、KOHが紙やすり」と表現しています。

次は電極です。フォトレジストという感光材料で「金属を着けたい場所だけ穴の開いたマスク」を作り、その上からスパッタリングという方法でニッケルや銀、チタンの薄膜を吹き付けます。最後にマスクを溶かすと、マスクの上に載っていた金属ごと剥がれて、狙った場所にだけ電極が残る。リフトオフと呼ばれる、半導体工場でも使われている定番の手法です。この段階で2つの電極のあいだに電流を流すと、チップは青く光りました。

ここで終わらないのが今回の挑戦です。ウェハーを同じ紫外レーザーで1粒ずつのチップに切り分け、基板の上にインジウムという柔らかい金属の小さな突起を電気めっきで育てて、チップを裏返して載せ、加熱してはんだ付けしました。配線はチップの下に隠れ、光は透明なサファイアを透かして上に抜ける。市販のLEDと同じ、フリップチップという実装方式です。

仕上げが白色化です。セリウムを加えたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)という蛍光体の粉を透明な封止材に混ぜ、チップの上に塗りました。青い光の一部が黄色に変わって混ざり、白い光になる。冒頭で触れた、世の中の白色LEDと同じ2段構えが、ここで完成します。

真似はできないが、見る価値はある

先に書いておくと、これは家庭で真似できる工作ではありません。使われているのは、目に見えない光で一瞬で目を傷めるクラスの紫外レーザー、加熱した水酸化カリウム溶液、皮膚に触れると危険な現像液といった、専用の設備と保護具を前提にした道具ばかりです。本人のサイトにも、安全対策が最優先であることが繰り返し書かれています。

効率の面でも、工場で作られたLEDにはまだ及びません。それでも、電気を流すと白く光る、基板に実装された1粒のLEDが、個人の作業台の上で完成した事実は残ります。ふだん何気なく使っている数円の部品の中に、結晶を育て、削り、電極を着け、載せて、塗るという工程がぎっしり詰まっている——それを通しで見せてくれる例は、そうありません。次に部屋の照明を見上げたとき、あの白い光が「青と黄色の混ざりもの」だと思い出せたら、この話を読んだ甲斐があったと言えそうです。

関連する商品

この記事に関連する本や商品は、Amazon で探せます。

上のリンクから購入されると、このブログに紹介料が入ることがあります。

出典

Aaron Beckendorf, “Making LEDs In The Home Fab”, Hackaday, 2026年8月23日
https://hackaday.com/2026/08/23/making-leds-in-the-home-fab/

Dr. Semiconductor, “Making LEDs From an Epiwafer”, semiconductor.diy
https://www.semiconductor.diy/guides/making-leds/

コメント

タイトルとURLをコピーしました