抗真菌薬4系統すべてが効かない酵母が、アフリカで初めて見つかった。しかも米国の株とは別に生まれていた

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カンジダ・アウリスという酵母(カビの仲間)がいます。2009年に日本で患者の耳から見つかって記載された、比較的新顔の病原体で、学名はいま Candidozyma auris に変わっています。この酵母は病院の環境にしぶとく残り、患者から患者へ広がりやすく、しかも薬が効きにくい。記載から十数年で6大陸60か国以上に広がり、世界保健機関(WHO)は2022年に、真菌(カビ)の病原体のうち最優先で対策が必要な「クリティカル」群に入れました。

この酵母の中でも、とくに厄介な株がケニアで見つかりました。人間が持っている抗真菌薬の主要な4系統すべてに耐性を示す「汎薬剤耐性」の株です。こうした株の報告は、2022年に米ニューヨークで1例あっただけで、今回が世界で2例目、アフリカでは初めてになります。ケニア医学研究所(KEMRI)と米ウォルター・リード陸軍研究所アフリカ(WRAIR-Africa)のチームが、2026年9月29日の Scientific Reports に報告しました。

4系統、すべて効かない

株が見つかったのは、ナイロビの病院で待機手術を受けた28歳の女性です。手術のあとに手術部位の感染(院内感染)を起こし、傷口のぬぐい液からこの酵母が育ちました。自動の同定・薬剤感受性検査装置で調べると、結果は次のとおりでした。

  • アゾール系(フルコナゾール):最小発育阻止濃度 64mg/L 以上で耐性
  • エキノキャンディン系(ミカファンギン):8mg/L 超で耐性
  • ポリエン系(アムホテリシンB):2mg/L で耐性
  • フルシトシン:64mg/L 以上で耐性

最小発育阻止濃度とは、その薬をどれだけの濃さにすれば菌の増殖を止められるかという数字で、大きいほど薬が効きません。抗真菌薬は細菌向けの抗生物質に比べて種類がもともと少なく、主要な系統はこの4つでほぼ全部です。その全部に耐性があるというのは、標準的な治療の選択肢が尽きるということを意味します。

ニューヨークの株とは、変異の組み合わせが違った

チームは、この株の全ゲノムを読み、標準株(B8441)と比べて変異を洗い出しました。株は、薬剤耐性が強いことで知られる系統群「クレードI」に属していました。見つかった主な変異は4つです。

  • ERG11 遺伝子の Y132F 変異:アゾール系への耐性と関係する、よく知られた変異。
  • CDR1 遺伝子の E709D 変異:薬を細胞の外へくみ出すポンプの遺伝子で、こちらもアゾール系耐性と関係。
  • FKS1 遺伝子の S639F 変異:エキノキャンディン系の標的となる酵素の遺伝子で、この系統への耐性と関係。
  • FUR1 遺伝子の機能喪失(ストップゲイン)変異:フルシトシンを細胞内で有効な形に変える経路の遺伝子で、ここが壊れると薬が効かなくなる。

ここで重要なのは、この変異の組み合わせが、2022年のニューヨークの株で見つかったものとは異なっていたことです。もしアメリカからケニアに同じ株が持ち込まれたのなら、変異は同じはずです。違うということは、汎薬剤耐性が別の場所で、別の経路で、独立に生まれた可能性があるということです。つまり「たまたま1株が世界をまわっている」のではなく、条件がそろえば、どこでも同じ結末に行き着きうる。

ただし、この患者の中で耐性が育ったのか、すでに耐性を持った株に感染したのかは分かっていません。患者は治療の過程で複数の抗真菌薬を受けていますが、投与量や期間の記録が十分でなく、それらの薬が耐性を選び出したかどうかは判定できなかった、と著者らは書いています。

なぜ「2例目」が大きなニュースなのか

世界で2例しかないなら、まだ珍しい話です。それでも著者らがこの発見を「警鐘」と呼ぶのには理由があります。

ひとつは場所です。新しい抗真菌薬が使える地域は限られていて、標準薬が効かなくなったときの次の手は、どこでも同じように打てるわけではありません。もうひとつは、この酵母の性質です。病院の環境で生き残り、患者間で広がり、治療に応じて耐性を獲得し、進化する能力を、カンジダ・アウリスはすでに何度も示してきました。その積み重ねの先に、独立に生じた2例目の汎薬剤耐性が現れた、というのが今回の位置づけです。

論文は、真菌のゲノムの監視体制の強化と、耐性の強い系統の広がりを病院の中で抑えるための迅速な診断能力の整備を求めています。研究はKEMRIとWRAIR-Africaの共同で、米軍の感染症監視プログラムの資金で行われました。

記載からまだ20年に満たない新顔の酵母が、人間の持ち札を一枚ずつ無効にしていく。その経過を、ゲノムの変異として読めるようになったことが、少なくとも次の一手を考える材料になっています。

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