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2025年12月に発表された生物医学の論文のうち、89%——ほぼ9割にAIで書いた痕跡がある。そんな推定が2026年8月、論文として公開されました。
調べたのは、ドイツ・テュービンゲン大学のLena Holzwarth氏、Rita González-Márquez氏、Dmitry Kobak氏(ゲント大学と兼務)のチームです。生物医学分野の論文を無料で公開しているデータベース「PubMed Central」に収められた英語論文の全文を解析したところ、AIの利用は年を追うごとに広がり、2024年の論文で52%、2025年の1年間で77%、そして2025年12月の論文にかぎると89%に達していた、というのが結論でした。
この研究は、査読前の論文(プレプリント)として8月11日にarXivに投稿されたものです。まだ他の研究者によるチェックを受けていない段階の数字であることは、先にお伝えしておきます。それでも、Kobak氏自身が「計算を間違えたと思った」と語るほどの数字が、確認を重ねても崩れなかったという点で、注目を集めています。
単語の癖から浮かぶAIの利用
そもそも、論文をAIで書いたかどうかを、あとからどうやって見分けるのでしょうか。
手がかりは、単語の使い方の癖です。ChatGPTのような文章生成AI(大規模言語モデル)には、好んで使う単語があります。人間が書いた文章ではそこまで頻繁に出てこない単語が、AIの普及後に急に増えていれば、それはAIが文章に手を入れた痕跡だと考えられる——この発想で、チームは論文全体の単語の出現パターンを統計的に解析しました。
実は、同じチームは2025年にも似た調査を発表しています。そのときの推定は「2024年の論文の少なくとも13.5%」でした。今回の89%とはずいぶん差がありますが、これには理由が2つあります。
1つめは、調べた範囲です。前回は論文の要旨(アブストラクト)だけを見ていましたが、今回は本文全体を解析しました。2つめは、推定のしかたです。前回の13.5%は「少なくともこれだけはある」という下限の見積もりでしたが、今回はAIの利用率そのものを直接推定する方式に変えています。実際、新しい方式で2024年の要旨を推定し直すと、13.5%だった数字は31%まで上がりました。つまり、これまでの調査は氷山の一角しか見えていなかった可能性がある、ということです。

年ごとの推定値を並べると、増え方がよく分かります。
| 2024年の論文 | 52% |
| 2025年の論文(通年) | 77% |
| 2025年12月の論文 | 89% |
この数字を裏づける材料もあります。出版大手Wileyが2025年に行った調査では、研究者の71%が「執筆の補助にAIを使っている」と自己申告していました。アンケートでは実際より控えめに答える人がいることを考えれば、89%という推定はそこまで突飛ではない、とチームは見ています。一方で、別の研究チームが2026年に発表した推定では、分野を問わず集計した場合の2025年の論文のAI利用率は57%とされており、数字には幅があるのが現状です。
最も使われていた場所
今回の研究でいちばん興味深いのは、合計の数字ではなく、その内訳かもしれません。チームは論文をパートごとに分けて、どこでAIが多く使われているかも調べました。
科学論文はふつう、研究の背景を説明する「序論」、実験のやり方を書く「方法」、データを示す「結果」、そしてデータの意味を論じる「考察」という順で構成されます。解析の結果、2025年12月の論文では、考察の節の約78%にAIの痕跡があった一方、結果の節では約58%にとどまりました。序論や要旨でも利用率は高く、方法の節では低めでした。
つまり、AIが最も使われていたのは、実験の手順やデータをそのまま記録する場所ではなく、結果の意味を考えて文章を練る場所だった、ということになります。事実の記録はまだ人間の手元にあり、解釈を語る部分から先にAIが入り込んでいる——そんな構図が浮かびます。
Kobak氏はこの内訳について、2つの懸念を挙げています。1つは結果の節です。文章生成AIには、事実ではない内容をもっともらしく書いてしまう性質(ハルシネーション)が知られており、データを記述する場面で使われると、存在しない数値が紛れ込むおそれがあります。もう1つは序論です。分野の背景や重要な先行研究を紹介する部分をAIに任せると、AIが持つ偏りが、そのまま分野全体の「常識」として文献に染み込んでいくかもしれない、と氏は指摘しています。
数字の読み方と残る限界
ここで注意したいのは、この89%が「9割の論文はAIに書かせたものだ」という意味ではない、という点です。
検出されたのは、あくまで「AIが好む単語の出現パターン」です。論文を丸ごとAIに書かせたのか、自分で書いた英文の校正だけを頼んだのかは、この手法では区別できません。英語が母語でない研究者が文章のチェックにAIを使うことは、多くの学術誌や学会で認められており、それ自体は不正ではありません。今回の研究チームも、AIによる執筆支援には言葉の壁を取り除く価値があると明記したうえで、利用の実態を把握することが今後のルール作りに必要だ、という立場をとっています。何をどこまで認めるかの線引きは出版社や学会ごとに異なり、日本でも大学や学会が生成AIの利用指針を整えつつある段階です。
数字そのものにも、留保がつきます。Kobak氏は、今回の手法がAIの利用に対してより敏感なため、従来の手法より高い数字が出やすいと説明しています。また、対象は英語で書かれた生物医学分野の論文だけで、学術界全体にこの数字をあてはめることはできません。Nature誌の取材に応じた他の研究者たちも、AIの普及ぶりを考えれば高い利用率はありうるとしつつ、文献全体を代表する数字かどうかは、さらなる分析が必要だと述べています。
それでも、AIが研究論文の執筆に深く入り込みつつあること自体は、複数の調査が一致して示しています。前述の57%という控えめな推定を出した研究者でさえ、この流れが元に戻ることはないだろうと語っています。9割という数字の細部は今後の検証で動くかもしれませんが、「論文はすべて人間が書いたもの」という前提のほうは、すでに過去のものになりつつあるようです。
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出典
Kaia Glickman, “Staggering 90% of biomedical papers now show signs of AI help”, Nature news(2026年8月20日)
https://www.nature.com/articles/d41586-026-02551-z
Lena Holzwarth, Rita González-Márquez, Dmitry Kobak, “Most biomedical publications show signs of LLM-assisted writing”, arXiv:2608.10715(2026年8月11日投稿・査読前プレプリント)
https://arxiv.org/abs/2608.10715


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