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銅やリチウム、金、レアメタル。こうした金属が地下に濃く集まった場所を「鉱床(こうしょう)」と呼びます。スマホにも電気自動車にも欠かせないこれらの金属は、掘り当てられた鉱床から採られていますが、その鉱床が「いままさに生まれつつある」ところを見た例は、ほとんどありませんでした。
オックスフォード大学が率いる研究チームが、カリブ海のモントセラト島にあるスーフリエール・ヒルズ火山の地下を調べたところ、地表からおよそ2〜3キロの深さに、金属を含むとみられる高温の塩水だまりが広がっていることが分かりました。差し渡しは1〜1.5キロ。将来の鉱床の卵かもしれない、というのがこの研究の見立てです。論文は査読誌のGeophysical Research Lettersに掲載されました。
おもしろいのは、この塩水だまりを一度も掘らずに見つけたことです。使ったのは、30年前から火山監視のために取られ、そのまま眠っていた地震の記録でした。
鉱床の生い立ちと探査の壁
鉱床がどうやってできるのかは、おおよそ分かっています。地下のマグマが冷えて固まっていくとき、マグマに溶けていた水分が絞り出されます。この水分はただの水ではなく、塩分を極端に濃く含んだ熱い液体で、「ブライン」と呼ばれます。ブラインは銅や金などの金属を溶かし込んで運ぶ性質があり、地下を移動して冷えたところで金属を落としていきます。これが長い時間をかけて積み重なると、鉱床になります。
実際、銅・亜鉛・鉛といった金属の採掘の多くは、大昔に活動を終えた火山の跡地で行われています。つまり、いま掘られている鉱床は「何十万年、何百万年も前の火山の下で起きたことの結果」なのです。
ただし、この筋書きはあくまで、できあがった鉱床を掘って、そこから逆算して組み立てられたものでした。いま活動している火山の下で、金属を運ぶブラインが実際にどこに、どれくらいの規模で溜まっているのかを直接確かめた例は、ほとんどなかったのです。
理由は単純で、地下数キロの様子を確かめる手段が、事実上ボーリング(掘削)しかなかったからです。しかも活火山の近くは高温で、掘ること自体が難しく危険です。どこに当たりがあるかも分からないまま闇雲に掘るわけにもいかず、「金属を運ぶ液体の貯水池」は、あると考えられてはいても、姿を見せない存在でした。
眠っていた火山監視の記録
研究チームが目をつけたのは、スーフリエール・ヒルズ火山の周りに置かれた23か所の観測点が、1996年から2007年にかけて記録し続けた地震波のデータでした。
この火山は1995年、数百年の眠りから覚めて噴火を始めました。火砕流が首都プリマスを埋め、島の南半分はいまも居住できないままです。それだけに監視の目は厚く、地震計は膨大な揺れの記録を積み上げてきました。その記録が、当初の目的とは別の使い道で生きることになります。
地震の揺れには、性質の異なる2種類の波が含まれています。先に届く速いP波と、遅れて届くS波です。この2つは、通り抜ける物質によって速さの変わり方が違います。とくに重要なのは、S波は液体の中を伝わらないという性質です。
この違いを手がかりに、たくさんの地震について「どの観測点に、どちらの波が、どれだけ遅れて届いたか」を突き合わせていくと、地下のどこに固い岩があり、どこに溶けたマグマがあり、どこに液体で満たされた岩があるのかを描き分けられます。レントゲン写真を何枚も重ねて体の中を立体的に写すCTスキャンと同じ発想で、研究チームは火山の地下の3次元地図を作り上げました。

地下に浮かび上がった塩水のレンズ
できあがった地図には、火口へと続くマグマの通り道のすぐ横、深さおよそ2〜3キロのところに、液体をたっぷり含んだ岩の層がくっきりと写っていました。差し渡し1〜1.5キロ。研究チームはこれを、マグマから絞り出されたブラインが溜まった「レンズ」だと解釈しています。レンズと呼ばれるのは、平たく水平に広がった形をしているためです。
論文では、こうしたブラインが超高塩分の液体として重要な金属を運びうるため、経済的に高い意義を持つと述べられています。つまりこの塩水レンズは、何十万年か先に鉱床になるかもしれないものを、生まれつつある段階で捉えた姿だ、という可能性があるわけです。ふつう地質の話は「何億年前に何が起きたか」ですが、これは現在進行形の話です。
地図にはほかにも、火山の固い芯にあたる部分や、地熱で温められた水が循環している領域、その上にふたのようにかぶさる粘土の層まで写っていました。この全体像が過去の別の研究による地下モデルとよく一致したことは、地震波でブラインを探すというこの手法自体がちゃんと機能している証拠にもなっています。
研究チームはさらに、火口のすぐ横にこの塩水レンズがあることが、この火山が周期的に活動を強めたり弱めたりする振る舞いにも関わっているかもしれない、と指摘しています。資源探査の話にとどまらず、噴火の仕組みの理解にもつながる発見かもしれないのです。
掘らずに当たりを付けられることの意味
この研究のいちばんの実用的な価値は、「掘る前に、どこを掘るべきかが分かる」ようになるかもしれない点です。
電気自動車の電池、送電網、再生可能エネルギーの設備。脱炭素に向かう世界は、銅をはじめとする金属をこれまで以上に必要としています。新しい鉱床を探す需要は高まる一方ですが、活火山の近くでの試し掘りは費用も危険も大きい。そこに、すでにある地震計の記録を解析するだけで候補地を絞り込める手法が加われば、探査の姿は変わります。論文も、この手法が掘削計画のリスクを減らせると述べています。
しかも、こうした塩水だまりは高温です。金属の供給源としてだけでなく、地熱発電の熱源としても使える可能性があります。一つの場所からエネルギーと金属の両方を取り出す——そんな将来像も、論文では示されています。

火山国・日本から見た位置づけ
この話は、日本にとって他人事ではありません。日本は世界有数の火山国で、地熱資源量はアメリカ、インドネシアに次ぐ世界第3位(約2,347万kW)とされています。その一方で、銅もリチウムもレアメタルも、ほぼ全量を輸入に頼っています。足元の火山の下にも、同じような金属を含む塩水が溜まりつつあるのかもしれない——そう考えると、この手法の意味は違って見えてきます。
しかも日本の火山には、すでに長年の監視で蓄積された地震観測の記録があります。今回の研究が使ったのも、まさにそういう「監視のために取られ、眠っていたデータ」でした。新しい観測網をゼロから作らなくても、手元の記録を別の目で読み直すだけで見えてくるものがある、という点は、日本にもそのまま当てはまります。
ただし、日本で地熱や地下資源の開発を進めるには、温泉地への影響や国立公園の規制との調整という現実的な課題があります。資源が「ある」ことと「使える」ことの間には、技術以外の距離もあることは踏まえておきたいところです。
解釈上の留意点
ここまで読んで「新しい鉱山が見つかった」と受け取ると、話が変わってしまいます。今回見えたのは、金属を含むとみられる塩水だまりであって、掘って採れる鉱石ではありません。研究チーム自身も、この中に実際に何がどれくらいの濃さで含まれているのかは、今後の調べが必要だとしています。
また、ブラインが鉱床に育つには、ふつう何十万年から何百万年という時間がかかります。固まった鉱石になるのを待たずに、液体のまま金属を取り出すという構想もありますが、その技術はまだ生まれたばかりの段階です。「もうすぐ採掘が始まる」という話ではまったくありません。
そして、スーフリエール・ヒルズは現に活動を続けている火山です。最後に噴火したのは2013年で、1995年からの一連の噴火は首都を埋め、多くの命を奪いました。この場所を「資源が眠る宝の山」とだけ見るのは、そこで暮らしてきた人たちに対して公平ではないでしょう。今回の研究成果も、資源探しと同時に、火山の振る舞いを理解して災害に備えるための知見として、島の将来に役立てられようとしています。
掘らずに、壊さずに、すでにある記録から地下の姿を描き出す。鉱床の「生まれる瞬間」に立ち会うようなこの手法が、次はどの火山で試されるのか。楽しみに待ちたいところです。
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出典
ScienceAlert:An Active Volcano May Be Creating a Valuable Metal Deposit Deep Underground(2026年8月25日)


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