2つの白色矮星(はくしょくわいせい)が、わずか6分あまりで互いのまわりを回っている。そんな連星のX線をていねいに追いかけたところ、その軌道が毎年少しずつ縮んでいることが、はっきり数字で見えてきました。Rahul Sharma 氏を筆頭とする国際チームが、2026年のアストロフィジカル・ジャーナル・レターズ誌に報告した研究です。
天体の名前は eRASSU J060839.5−704014。長いので、以下では J0608 と呼びます。軌道が縮んでいる、というだけなら他にも例はあります。ただ、この星の縮み方は、これまでの代表格をしのぐ速さでした。そして縮む速さこそが、この星から重力波が出ていることの直接の手がかりになっています。
6分ごとに届くX線の閃光
J0608 が最初に見つかったのは2024年です。ドイツとロシアが共同で打ち上げたX線望遠鏡 eROSITA が、全天を何度も走査するなかで、大マゼラン雲の方向に新しいやわらかいX線源を拾いました。追跡観測をしてみると、そのX線は約374秒、つまり6分14秒ほどの周期で明るくなったり消えたりを繰り返していました。
周期的に明滅する天体は珍しくありません。中性子星が高速で自転して灯台のように光を振り回すパルサーもそうですし、2つの星が互いを隠し合う食連星もそうです。ただ J0608 の場合、明滅の形が特徴的でした。急に明るくなり、ゆっくり半分ほどまで落ち、また急にゼロまで消える。しかもX線の色(エネルギーの分布)がとてもやわらかい。このパターンは、すでに知られていた2つの天体——HM Cnc と V407 Vul——とそっくりでした。どちらも、白色矮星が2つ、5分から10分の周期で回り合っていると考えられている連星です。
白色矮星というのは、太陽のような星が燃え尽きたあとに残る芯です。大きさは地球ほどしかないのに、質量は太陽の半分から1個分ほどある、ぎゅっと詰まった星です。その2つが6分で1周するとなると、2つの間の距離はおよそ8万キロメートル、地球と月の距離の5分の1ほどしかありません(2つ合わせた質量が太陽1個分程度、という前提での目安です)。地球サイズの星が、地球6個分ほどの間隔で、秒速1,000キロメートルを超える速さで回り合っている。そういう世界です。

ガスが円盤を作らずに直撃する距離
なぜX線が「点滅」するのかも、この近さから説明がつきます。ふつう、星が相手からガスを吸い込むときは、ガスがいったん星のまわりに渦を巻いて円盤(降着円盤)を作り、そこからじわじわ落ちていきます。円盤はずっと光り続けるので、X線も一定の明るさになりやすい。
ところが J0608 では、2つの星が近すぎて、円盤を作る余地がありません。軽いほうの白色矮星からこぼれ出たガスは、そのまま相手の表面に直接たたきつけられます。ぶつかった場所だけが高温になって強く光り、その場所が公転につれて見えたり隠れたりする。だから X線は、公転周期と同じ6分ごとにピークを打つわけです。今回の研究でも、X線の温度や明るさがピークのタイミングでそろって最大になり、消えている間はほとんど何も出ていないことが確かめられました。ぶつかっている場所が、星の裏側に回ると見えなくなる。そう読める結果です。
ここまでは、2024年の発見時点でおおよそ見えていた絵です。今回の論文が加えたのは、時間の軸でした。
3年のX線データが示した軌道の縮み
研究チームは、NASA の中性子星観測装置 NICER と、中国が2024年に打ち上げたX線衛星 Einstein Probe で J0608 を新たに観測し、さらに XMM-Newton が過去に撮っていたデータも掘り起こしました。ばらばらの時期の観測を、パルスのタイミングが1周期分もずれないようにつなぎ合わせる。この「位相をつなぐ」作業ができたことで、3年あまりにわたる周期の変化が1本の式で表せるようになりました。
出てきた公転周期は 374.15013 秒。そして、この周期が1秒あたり 4.7×10−11 秒ずつ短くなっている、という値です。桁が小さすぎて実感がわきませんが、1年に換算すると、周期が約1.5ミリ秒ずつ縮んでいる。腕時計の遅れなら気にもならない量ですが、3年のあいだに連星は25万周以上回っています。1周ごとの小さな縮みが積み上がって、X線パルスの到着時刻の「ずれ」として確実に測れる大きさになるのです。
この縮み方は、代表格の HM Cnc や V407 Vul よりも速い。つまり J0608 は、この種類の連星のなかで、いま知られている限りもっとも急いで縮んでいる星のひとつです。

縮む速さが語る重力波の放出
軌道が縮むには、連星がエネルギーを失う必要があります。ここで出てくるのが重力波です。重い天体が互いをぐるぐる回ると、時空そのものがわずかに揺さぶられ、その揺れが波として外へ逃げていく。エネルギーを持ち去られた連星は、少しずつ距離を詰め、周期を短くしていく。アインシュタインの一般相対性理論が予言し、中性子星の連星やブラックホールの合体で確かめられてきた現象です。
研究チームは、J0608 の軌道の縮みがおもに重力波によるものだと仮定して、縮む速さから連星の質量を逆算しました。重力波の出方は、2つの星の質量を特定の形で組み合わせた「チャープ質量」という量で決まります。J0608 のチャープ質量は太陽の約0.43倍。2つの白色矮星の質量がほぼ同じだとすれば、それぞれが太陽の半分ほどということになり、同じ種類の連星のなかではかなり重い部類に入ります。重いほど重力波は強く、軌道も速く縮む。縮みの速さが速かったのは、星が重かったから、という説明で筋が通ります。
つまり J0608 では、重力波そのものは検出されていないのに、重力波が運び去ったエネルギーの分だけ軌道が縮んでいるところが、X線の到着時刻の変化として測れているのです。見えているのは光(X線)、語っているのは重力波。この連星から重力波が出ている証拠を、電磁波の側から押さえた、と言えます。
公転周期が6分なら、そこから出る重力波の振動数は1秒に約5回(約5ミリヘルツ)です。これは、いま地上で稼働している LIGO や Virgo、日本の KAGRA が捕まえられる周波数よりずっと低く、彼らには聞こえません。かわりに、この帯域を狙って設計されているのが、欧州宇宙機関(ESA)が2035年ごろの打ち上げを目指す宇宙重力波望遠鏡 LISA です。LISA は3機の探査機を数百万キロメートル離してレーザーで結び、まさに数ミリヘルツ帯のゆっくりした重力波を拾うことを目指しています。J0608 の重力波は、その感度のいちばん良いあたりに落ちる周波数です。
距離が決まらないという最後の壁
それなら J0608 は、LISA が打ち上がった瞬間から聞こえる「確実な標的」なのか。ここに一つ、決まっていないことがあります。この星までの距離です。
重力波の強さは、光と同じように、距離の2乗に反比例して弱くなります。同じ連星でも、近ければ大音量、遠ければかすかな音になる。ところが J0608 はX線でしか詳しく調べられておらず、X線の観測からは距離が出ません。可視光では暗い相手しか見つかっておらず、距離を直接測る手立てがまだありません。2024年の発見論文では、こういう「直接衝突」型の連星が出すはずの明るさから逆算すると、5,000パーセク(約1万6,000光年)より遠くにある必要がある、という見積もりも出ています。もしそこまで遠ければ、重力波はかなり弱まって届くことになります。
Universe Today の解説によれば、研究チームは、この連星のまわりに第3の星がいることを期待しています。もし外側にもう1つ星があって、その光が測れれば、そこから距離が決められる。距離が決まれば、J0608 が LISA でどのくらいの強さで聞こえるかも計算できるようになります。
もうひとつ、論文自身が注意している点もあります。6分のX線周期が、本当に公転の周期なのか、それとも磁場の強い白色矮星が1つ自転している周期なのか。HM Cnc や V407 Vul では、ほかの周期が見つからないことや可視光の観測から、自転説はほぼ退けられています。J0608 でも同じ理屈で公転説が有力ですが、可視光でのくわしい確認はまだこれからです。
それでも、X線の到着時刻だけから、ここまで一直線に「重力波を出しながら縮んでいる連星」の絵が描けたことは、それだけで十分に見どころです。LISA が飛ぶころ、J0608 が最初に名前の挙がる標的の一つになるのか、それとも遠すぎてかすかな候補にとどまるのか。答えは、距離という一つの数字にかかっています。
出典
Sharma, R. et al., “Rapid Orbital Decay in the Ultracompact Double-degenerate Binary eRASSU J060839.5−704014”, The Astrophysical Journal Letters, 1007, L7 (2026)。DOI: 10.3847/2041-8213/ae8cf7:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ae8cf7
同論文のプレプリント(無料で全文が読めます):https://arxiv.org/abs/2608.09341
発見を報告した2024年の論文 Maitra, C. et al., “eRASSU J060839.5−704014: A double degenerate ultra-compact binary in the direction of the LMC”, Astronomy & Astrophysics(2024):https://www.aanda.org/articles/aa/full_html/2024/03/aa47811-23/aa47811-23.html
Universe Today “A Pair of White Dwarfs Locked in a Six-Minute Orbit Might One Day Be Observed By Gravitational Waves”(2026年9月6日、Brian Koberlein):https://www.universetoday.com/articles/a-pair-of-white-dwarfs-locked-in-a-six-minute-orbit-might-one-day-be-observed-by-gravitational-waves


コメント