強迫症とチック症のリスク遺伝子、4個から36個へ——うち30個は両方に共通していた

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強迫症(OCD)とチック症のリスク遺伝子が、これまでの4個から一気に36個に増えました。カリフォルニア大学サンフランシスコ校とラトガース大学を中心とする国際チームが、2026年9月1日付でNature Neuroscienceに発表した研究です。当事者およそ4,000人のDNAを読み、発症のしやすさを大きく上げる遺伝子を36個まで絞り込みました。

数が増えたこと自体も大きいのですが、この研究で目を引くのは、その36個の中身のほうです。別々の病気として扱われてきた強迫症とチック症が、遺伝子のレベルではかなり深く重なっていました。

別々の病名で扱われてきた二つの病気

強迫症は、手を洗ったか何度も確かめる、戸締まりが気になって家を出られない、といった「頭から離れない考え」と「それを打ち消すための繰り返し行動」が特徴の病気です。一方のチック症は、まばたきや首振り、咳払いや声などが本人の意思と関係なく繰り返し出る病気で、1年以上続くものを慢性チック症と呼びます。トゥレット症はその代表です。どちらも人口の1〜2%にみられ、子どもの頃に始まることが多い病気です。

二つは診断名も、典型的な症状も、治療法も違います。それでいて、同じ人に同時に出ることがやけに多い。慢性チック症の人の半分には強迫症状があり、強迫症の人の2〜3割にはチックの経験があります。家系の中で両方が出ることも珍しくなく、遺伝の影響が強いこともずっと前から知られていました。

ところが、具体的にどの遺伝子が関わっているのかは、長いあいだほとんど分かっていませんでした。「この遺伝子に変異があると発症リスクが大きく上がる」と自信を持って言える遺伝子は、強迫症で2個(CHD8とSCUBE1)、チック症で2個(CELSR3とWWC1)の、合わせて4個だけ。しかもそれぞれ別々の研究で見つかったもので、二つの病気をまとめて眺めた地図はありませんでした。

数が伸びなかった理由の一つは、探し方にあります。強迫症やチック症の遺伝的な背景には、「ありふれた変異が少しずつ効いている」部分と、「珍しい変異が一つで大きく効いている」部分があります。今回のチームが追ったのは後者で、これは一人ひとりを丁寧に読まないと見つかりません。とくに有効なのは親子3人組のDNAを比べる方法です。子どもにあって両親のどちらにもない変異(新生変異)を拾い出せば、その子の発症に関わった可能性が高い候補が、狙い撃ちで出てきます。

36個のうち30個が両方の病気に共通していた

今回のチームは、親子3人組を2,418組、本人だけのサンプルを1,546人、合わせて3,964人分のエクソーム(ゲノムのうちタンパク質の設計図にあたる約1%の部分)を解析しました。過去の研究のおよそ2倍の規模です。比較対象として、健常なきょうだいを含む1,734組の親子3人組と、2,380人の単独サンプルも用意しています。

その結果、統計的に高い確度でリスクに関わるとみなせる遺伝子が36個見つかりました。従来の4個はすべてその中に含まれています。

そして、36個のうち30個は、強迫症の当事者からもチック症の当事者からも証拠が出ていました。チック症だけに由来するものは1個、強迫症だけに由来するものは5個。残りは全部、両方にまたがっています。診断名としては別の病気なのに、壊れている遺伝子はかなりの部分が同じだった、ということです。

重なりは二つの病気の間だけにとどまりません。今回見つかった遺伝子の一部は、自閉スペクトラム症、発達の遅れや知的障害、統合失調症のリスク遺伝子として、すでに知られていたものでした。たとえばCHD8は自閉スペクトラム症の代表的なリスク遺伝子として有名です。チームは念のため、同じく遺伝の影響が強いけれども脳とは関係のない先天性心疾患の遺伝子とも突き合わせていますが、こちらとは重なりが出ませんでした。「遺伝性の病気なら何でも重なる」のではなく、脳の発達に関わる病気どうしで、根が共有されているわけです。

これらの遺伝子が脳のどこで働いているかも調べられました。ヒト・アカゲザル・マウスの脳の遺伝子発現地図を突き合わせたところ、大脳皮質・線条体・視床で、胎児期から生後にかけて高く働いていることが分かりました。この三つをぐるっとつなぐ回路(皮質—線条体—視床—皮質回路)は、衝動の抑制や運動、習慣づけに関わる回路で、以前から脳画像や動物実験で強迫症やチック症との関係が指摘されていた場所です。遺伝子の側からも同じ回路が浮かび上がったことになります。生後の小脳で強く働いている点は、これまでの研究では出ていなかった新しい手がかりです。

さらに、36個の遺伝子は互いに無関係にばらばらと存在しているのではなく、タンパク質どうしのつながりの上で一つのネットワークを作っていました。ラトガース大学のジェイ・ティッシュフィールド氏は、遺伝子は単独ではなくネットワークとして働いていて、ネットワークごと標的にできれば新しい治療の設計がしやすくなる、と述べています。

大きな効き目、ただし当事者のごく一部

効き目の強さも桁違いです。これらの遺伝子に機能を壊す変異があると、発症のしやすさは平均で57倍、いちばん強いものでは210倍になると見積もられています。「ありふれた変異」が一つあたりせいぜい1.1倍とか1.2倍の世界で効いているのと比べると、まったく別の種類のリスクです。

ただし、ここは読み方に注意が要ります。効き目が大きい変異は、それだけ珍しい変異でもあります。チームの見積もりでは、こうした変異を持っているのは当事者全体の3〜8%ほど。強迫症やチック症の人の大多数は、これらの遺伝子に問題を抱えているわけではありません。今回の36個は「原因の全体像」ではなく、「大きく効く部品の一覧」です。チームは同じ方法で見つかるはずの遺伝子がまだ数百個あると推定していて、36個はその入り口に過ぎません。

それでも、この入り口には意味があります。効き目が大きい遺伝子は、そこを壊したマウスや培養細胞で病気の仕組みを再現しやすく、薬の標的として調べやすい。ティッシュフィールド氏が言うように、強い遺伝子が2〜3個しかなかった時代には製薬企業が動きようがなかったのが、30個以上の標的が並んだことで状況が変わります。自閉スペクトラム症では、こうした大きく効く遺伝子の発見が動物モデルや治療研究につながってきた実績があり、チームは強迫症とチック症でも同じ道をたどりたい、と考えています。

もう一つ、この研究を支えたのは20年前に集められたDNAサンプルでした。ラトガース大学のゲイリー・ハイマン氏によると、サンプルを集め始めた当時は今のような安価で速いゲノム解読の技術はなく、家族たちは「病気の理解に役立てば」と協力してくれたそうです。それが技術の進歩によって、20年越しで価値を持ったことになります。

分かっていないことも残ります。今回の解析はエクソームの中の小さな変異に限られていて、大きな欠失や重複、遺伝子の外側の領域は含まれていません。単独サンプルの解析はヨーロッパ系の人に絞られており、他の集団で同じ結果になるかも今後の課題です。強迫症とチック症で症状も治療の効き方も違う以上、「共通する根」だけでなく「どちらか片方にしか効かない遺伝子」も存在するはずで、それを見分けるには、もっと多くの当事者のデータが要ります。病名の線引きと遺伝子の線引きがどこまで一致していて、どこからずれているのか。その答えは、まだ途中です。

出典

Wang, B. et al. “Whole-exome sequencing in individuals with obsessive–compulsive disorder and chronic tic disorders identifies 36 large-effect risk genes.” Nature Neuroscience (2026年9月1日公開・オープンアクセス) https://doi.org/10.1038/s41593-026-02419-5

Rutgers University. “Researchers Discover Dozens of Genes Tied to OCD and Tic Disorders.” ラトガース大学プレスリリース(2026年8月31日)

Farkas, I. “Scientists Uncover Shared Genetic Roots of OCD, Tourette Syndrome, And Autism.” ScienceAlert(2026年9月8日)

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