2033年に見えなくなる惑星 TOI-1355 b、観測の期限がある理由

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2033年の夏ごろを境に、地球から観測できなくなる惑星があります。約800光年先の巨大ガス惑星 TOI-1355 b です。見つけたのは東京大学の渡辺紀治さん、成田憲保さんを中心とする国際チームで、論文は日本天文学会の学術誌 PASJ に2026年9月18日付で掲載されました。

惑星そのものが消えるわけではありません。惑星は今まで通り、2日ちょっとの周期で主星を回り続けます。それでも「見えなくなる」と言える理由と、残された時間が7年しかないことの意味を、順に見ていきます。

太陽より熱い星のそばを2日で回る巨大惑星

TOI-1355 b が回っている主星 TOI-1355(HD 210058)は、表面温度がおよそ8,400℃あるA型星です。太陽の表面が約5,500℃なので、ずっと熱く、質量は太陽の約2倍、半径は約1.9倍あります。このように熱い星のまわりの惑星探しは、太陽に似た星のまわりと比べてまだ数が少なく、チームはそこを狙って探査を進めていました。

惑星のほうは、質量が木星の約5.8倍、半径が約1.4倍。木星よりかなり重く、少し大きい「スーパージュピター」です。主星までの距離は平均で太陽・地球間の約25分の1しかなく、公転周期はわずか2.17日。こうした主星のすぐそばを回る巨大ガス惑星を「ホットジュピター」と呼びます。昼側の温度は2,400℃前後と見積もられています。

ここまでなら、ホットジュピターとしては珍しくありません。変わっているのは軌道の形です。

円ではなく楕円を描く、めずらしい軌道

軌道がどれだけ円からずれているかを表す数値を「離心率」といいます。0なら完全な円で、1に近づくほど細長い楕円になります。地球の離心率は0.0167で、ほぼ円です。TOI-1355 b の離心率は0.22。主星にいちばん近づくときと遠ざかるときで、距離が1.5倍以上変わる楕円軌道を描いています。

ホットジュピターは主星のすぐそばを回るため、主星の潮汐力(惑星をわずかに変形させる引力の差)で軌道が時間とともに円に近づいていくのがふつうです。熱い星のまわりのホットジュピターで、これほど楕円のまま残っている例はほとんど知られていませんでした。

手がかりは、惑星が主星の後ろに隠れる「二次食」のタイミングでした。惑星が主星の前を横切って光をさえぎるのが「トランジット」、その反対側で主星の裏に隠れるのが二次食です。円軌道なら、二次食はトランジットからちょうど周期の半分後に起きます。ところが過去の観測データを調べ直すと、TOI-1355 の二次食は円軌道で想定されるより早く来ていました。これは軌道が楕円であることを意味します。チームはここから、この惑星を詳しく調べることにしたそうです。

楕円軌道が残っているという事実は、この惑星の来歴を考えるうえで重要です。巨大ガス惑星は主星のすぐそばでは生まれにくいため、遠くで生まれてから内側へ移動してきたと考えられています。その移動の仕方の一つに、ほかの巨大惑星などとの重力のやりとりで軌道が大きく引き伸ばされ、そのあと主星の潮汐で軌道が縮んで円に近づいていく、というシナリオがあります。TOI-1355 b の楕円軌道は、このシナリオの途中段階を見ている可能性があります。ただし、軌道を乱したはずの別の天体はまだ見つかっておらず、来歴はあくまで有力な解釈の段階です。

主星の縁へ少しずつずれていくトランジット

ここからが、この惑星のいちばん変わったところです。

NASA の宇宙望遠鏡 TESS は、TOI-1355 を2019年、2020年、2022年、2024年に観測しています。トランジットの光の減り方を年ごとに比べると、惑星が主星の面を横切る位置が、年々ずれていました。

横切る位置は「インパクトパラメーター」という数値で表します。主星の中心を通れば0、主星の縁をかすめれば1です。TOI-1355 b の値は、2019年の0.85から、2020年に0.86、2022年に0.90、2024年には0.93まで上がっていました。1年あたり0.016ずつ、惑星の通り道が主星の縁へ向かって動いています。

こうなる原因は、主星の形にあります。TOI-1355 のような熱い星は自転が速く、遠心力で赤道方向にふくらんだ、やや扁平な形をしています。惑星の軌道面が主星の自転と大きく傾いていると、このふくらみの重力の偏りを受けて、軌道面がゆっくりと首振り運動をします。これを「軌道の歳差(さいさ)」といいます。歳差で軌道面が傾いていくと、地球から見た惑星の通り道も主星の面の上を動いていくわけです。

この傾向をそのまま延ばすと、2033年の半ばごろにインパクトパラメーターが1を超えます。つまり惑星は主星の前を通らなくなり、地球からはトランジットが見えなくなります。惑星は何も変わらず回り続けているのに、こちらから見える「食」の現象だけが止まる、ということです。歳差は一周するのに長い時間がかかるため、トランジットが再び見られるのは数百年先になると東京大学は説明しています。

トランジットの通り道が動いているのが確かめられたホットジュピターは、これまで Kepler-13Ab、WASP-33b、KELT-9b、TOI-1518b の4つしかなく、TOI-1355 b は5例目です。しかも同じチームが2024年に報告した TOI-1518b は、通り道が主星の中心側へ動いているので、向きが正反対の2例を一つのチームが追っている形になります。

残り7年で何を調べるか

トランジットが見えるうちにしかできない観測があります。惑星が主星の前を通るときの光を波長ごとに分けて調べると、惑星の大気にどんな成分があるかを読み取れますが、これはトランジットが起きている間しか使えない方法です。今回のデータには大気の様子が時間とともに変わっている兆しも見えており、チームは NASA のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡での観測を提案する準備を進めています。

惑星の軌道面が主星の自転に対してどれだけ傾いているかを調べる論文も、別に準備中とのことです。これも惑星が主星の前を通る瞬間の分光観測が必要なので、2033年までが勝負になります。

今回の研究では、惑星の質量を明るさの変化だけから導いたのが大きな挑戦だったそうです。熱い星は自転が速くてスペクトルの線が広がってしまい、惑星の重力で主星がわずかに揺れる動きを捉える定番の方法が使いにくいためです。代わりに、惑星が軌道を一周する間の明るさの微妙な変化を使って質量を割り出しましたが、楕円軌道のぶんだけ、モデルの式も複雑になったとのことです。

観測には日本の装置も関わっています。主星の温度や大きさを決める分光観測は、京都大学岡山天文台の3.8mせいめい望遠鏡に取り付けた高分散分光器 GAOES-RV で行われました。トランジットの追観測には、東京大学などが開発し、ハワイ・マウイ島の望遠鏡に搭載されている多色カメラ MuSCAT3 も使われています。

系外惑星の観測というと「見つけたら、あとはいつでも調べられる」ものと考えがちですが、TOI-1355 b は、こちらから見える時期にたまたま見つかった惑星です。こういう天体が見つかったこと自体、トランジット法が「地球から見てちょうど主星の前を通る惑星」しか捉えられない方法だということを、はっきり示しています。

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出典

・論文:Noriharu Watanabe, Norio Narita ほか「Discovery of an Eccentric Hot Super-Jupiter Leaving the Transiting Geometry of the Early-A-type star TOI-1355」Publications of the Astronomical Society of Japan(2026年9月18日)https://doi.org/10.1093/pasj/psag103

・プレプリント(無料で全文が読めます):arXiv:2608.17387

・東京大学プレスリリース(英語):Time’s running out to catch giant planet’s strange orbit

・Universe Today:Strange giant planet TOI-1355 b set to vanish from view in 2033

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