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電気抵抗がゼロになる超伝導体には、磁場への反応で2つの型があります。第一種は、ある強さまでは磁場を完全に押し出し、それを超えると一気に超伝導をやめる、ふるまいの単純な型です。第二種は、磁場を細い糸のように少しずつ中に通しながら超伝導を保ち、強い磁場に耐えます。MRI の磁石に使われるのは第二種で、研究の最前線で「風変わりな超伝導」が報告されるのも、ほとんどが第二種です。第一種は、教科書の最初に出てくる、素直で説明のつく超伝導と見なされてきました。
その第一種で、これまで一度も見つかっていなかった性質が観測されました。インド科学教育研究大学ボパール校(IISER ボパール)を中心とするチームが、イッテルビウムとアンチモンの化合物 YbSb₂ の結晶で、超伝導になった瞬間に内部に自発的な磁場が生まれることをとらえ、2026年9月23日の Physical Review Letters に報告しました。「時間反転対称性の破れ」と呼ばれる性質で、第一種超伝導体では初めてです。
時間を逆回しにしても同じ、という対称性
物理の法則の多くは、時間の流れを逆向きにしても同じ形で成り立ちます。ボールが放物線を描いて飛ぶ映像は、逆再生しても力学的にはおかしくありません。これを時間反転対称性といいます。ところが磁場は、時間を逆向きにすると向きが反転します。電流の向きが逆になるからです。ですから、何も磁場をかけていないのに物質の内部にひとりでに磁場が生まれるなら、その物質の状態は、時間を逆向きにしたときに元と同じにはなりません。これが「時間反転対称性が破れている」という状態です。
超伝導体の中では、電子が2個ずつ組になって動きます(クーパー対)。ふつうの超伝導体では、組になる2個の電子は互いに逆向きのスピン(電子が持つ小さな磁気の向き)を持ち、磁気は打ち消し合います。時間反転対称性が破れる超伝導では、この組み方がふつうと違い、組そのものがわずかな磁気を持ちます。それが内部の自発的な磁場として現れるわけです。これまでこうした性質は、第二種の、しかも仕組みのよく分かっていない「非従来型」の超伝導体でだけ報告されてきました。
約1K で超伝導になる、第一種の結晶
YbSb₂ は、イッテルビウムの層とアンチモンの層が弱い力で積み重なった、層状の結晶です。第一種の超伝導体であること自体は以前から知られていました。チームはまず単結晶を育て、X線で結晶の構造と純度を確かめたうえで、電気抵抗と比熱を測り直しました。抵抗は0.95K(約マイナス272.2℃)でゼロになり、比熱の測り方からも、超伝導になるときに電子の状態がはっきりと変わる、ふつうの第一種の性質が確認されました。超伝導が壊れる磁場の強さ(臨界磁場)は、0.1K で51ガウス。地球の磁場の100倍ほどで、第二種の超伝導体に比べればごく弱い値です。
比熱の温度変化からは、クーパー対をほどくのに必要なエネルギーの隙間(ギャップ)が、どの方向にも途切れずに開いていることも分かりました。「完全にギャップの開いた状態」で、これも素直な超伝導体の特徴です。ここまでは、YbSb₂ はどこから見ても普通の第一種超伝導体でした。
ミューオンが見た、ひとりでに生まれる磁場
決め手になった測定は、ミューオンスピン回転・緩和法(μSR)です。ミューオンは電子の仲間で200倍ほど重い素粒子で、小さな棒磁石のようにふるまいます。これを結晶に打ち込むと、結晶の内部の磁場を感じて向きを変え、やがて崩壊して陽電子を出します。出てくる陽電子の向きを数えると、ミューオンが結晶の中でどんな磁場を感じたかが分かります。測定は英国のラザフォード・アップルトン研究所にある ISIS 施設で行いました。
外から磁場をいっさいかけない状態でこの測定をしたところ、温度が超伝導転移の0.95K を下回った直後から、ミューオンの向きが乱れる速さが増えました。結晶の内部に、ごく弱い磁場が自発的に生まれたことを意味します。約10ミリテスラ(100ガウス)の弱い磁場を縦にかけるとこの乱れが消えたので、原因は動き回る磁気ではなく、静かにそこにある磁場だと分かります。超伝導になった瞬間に内部磁場が現れる。これが時間反転対称性の破れの、いちばん直接的な証拠です。
一方、外から磁場をかけた状態での μSR では、第二種の超伝導体なら見えるはずの「磁束が糸状に入り込んだ格子」の兆候はなく、第一種らしく磁場が押し出されるようすが見えました。素直な第一種の性質と、風変わりな内部磁場が、同じ結晶に同居していることになります。

対の組み方と、表面に現れるかもしれない粒子
なぜ第一種で時間反転対称性が破れるのか。チームは第一原理計算で YbSb₂ の電子の状態を調べ、この物質が超伝導になる前の段階ですでに、電子のエネルギーが線状にゼロになる「ディラック線」を持つトポロジカル金属であることを示しました。トポロジカルというのは、物質の内部の電子状態のねじれ方が、表面に特別な電子状態を生む性質のことです。
そのうえで、結晶の対称性にもとづく理論の整理から、クーパー対の組み方としていちばんありうるのは「内部で反対称な非ユニタリーのスピン三重項」だと提案しています。かみくだくと、組になる2個の電子が互いに別の軌道から来ていて、組全体として磁気を少しだけ持つ状態です。この組み方なら、外から磁場をかけなくても対そのものが時間反転対称性を破り、しかも表面にマヨラナモードという、自分自身が反粒子でもある特別な励起が現れうるとしています。
マヨラナモードは、熱や電磁的な雑音に強い量子ビットの材料として長く探されてきたものです。ただし今回の論文が実際に測ったのは内部磁場と、第一種の性質と、電子の状態までで、表面のマヨラナモードそのものはまだ観測されていません。計算と対称性の議論から「ありうる」と示した段階です。
分類の線引きを揺らす結果
この研究が面白いのは、新しい材料を見つけたからというより、「第一種は素直、風変わりなのは第二種」という分類の線引きが、絶対ではなかったと分かったところにあります。YbSb₂ そのものは以前から知られていた物質で、見方を変えて測り直したら、見落とされていた性質が出てきました。同じような「素直なはず」の超伝導体が、ほかにも同じ性質を隠している可能性があります。
チームは、第一種超伝導体で時間反転対称性が破れたことで、超伝導の対称性と結晶の対称性がどう結びつくかを調べる新しい材料群が開けたとしています。マヨラナモードを直接とらえる実験が次の課題になりそうです。
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出典
- Kataria, A. et al. (2026). Observation of Time-Reversal Symmetry Breaking in the Type-I Superconductor YbSb₂. Physical Review Letters 137, 136002. https://doi.org/10.1103/drzq-lfn5
- 同論文のプレプリント(arXiv、全文無料): https://arxiv.org/abs/2601.07460
- ScienceAlert (2026-10-02). Physicists Find a Superconductor That ‘Breaks’ The Symmetry of Time – A First For Its Kind. https://www.sciencealert.com/physicists-find-a-superconductor-that-breaks-the-symmetry-of-time-a-first-for-its-kind


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