深海採掘の候補地の泥から、ウイルス1万1,742種。99%が人間にとって初めて見るものだった

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太平洋の真ん中、ハワイとメキシコのあいだの深海に、クラリオン・クリッパートン海域と呼ばれる広い海底があります。水深4,000〜5,000メートルの泥の上に、こぶし大の黒い塊が一面に転がっている場所です。多金属団塊と呼ばれるこの塊には、マンガン・ニッケル・コバルト・銅といった電池や電子機器に使う金属が詰まっていて、深海採掘の最有力候補になっています。国際海底機構が出している探査契約は世界で32件、そのうち17件がこの海域です。

その海底の泥の中に、どんなウイルスがいるのか。重慶大学などの中国の研究チームが堆積物を採ってウイルスの遺伝情報を読み出したところ、見つかったウイルスの99%以上が、既存のデータベースのどれにも当てはまりませんでした。2026年9月29日の Nature Communications に報告されています。

団塊は、深海の「地面」でもある

多金属団塊は、海水に溶けた金属が何かの核(貝殻やサメの歯のかけら、小石など)のまわりにゆっくり沈着してできます。速いものでも100万年に25センチ、遅いものは100万年に1〜5ミリしか育ちません。深海の底はふつう細かい泥で、固い足場がほとんどありません。だから団塊は、イソギンチャクや海綿のような固着性の生物にとって、数少ない「地面」になっています。採掘の是非が議論されるのは、金属の価値と、この生息地の価値が同じ場所に重なっているからです。

その議論に必要なのが、掘る前の状態を記録しておくことです。何がいたのか分からなければ、掘ったあとに何が変わったのかも分かりません。動物についてはこれまでにも調査があり、新種の報告が相次いでいました。けれど泥の中の微生物、まして微生物に感染するウイルスについては、ほとんど手つかずでした。

泥からウイルスの遺伝子を読む

チームは2023年と2024年にこの海域で堆積物のコア(筒状に抜き取った泥の柱)を採り、そこから DNA と RNA を抽出して配列を読みました。ウイルスはふつう培養できないので、泥に含まれる遺伝子をまとめて読み、その中からウイルス由来の配列を拾い出す方法(ウイルス・メタゲノム)をとります。

こうして組み立てられたウイルスのゲノムは1万1,742種類。タンパク質の似た配列どうしをつないで系統を整理すると、99%を超えるグループが、現在の参照データベースに載っているどのウイルスとも対応しませんでした。ほかの深海の堆積物で見つかっているウイルスとの重なりも小さく、この海域の泥には、この海域なりのウイルスの顔ぶれがあるようです。

宿主は、物質循環を担う微生物

見つかったウイルスの多くは、細菌や古細菌といった単細胞の微生物に感染するものと推定されました。深海の泥の中では、こうした微生物が炭素・窒素・リン・硫黄、そして金属の循環を担っています。ウイルスがそれらの微生物に感染しているということは、ウイルスの働きが、間接的にこの海底の物質循環に関わっている可能性があるということです。

さらにチームは、ウイルスのゲノムの中に「補助代謝遺伝子」と呼ばれる遺伝子を見つけています。ウイルスが自分の増殖のためだけでなく、感染した宿主の代謝を書き換えるのに使う遺伝子です。感染中の宿主を生かしておくためにエネルギー代謝を助けたり、環境のストレスに耐える手助けをしたりします。遺伝子のやり取りの解析からは、ウイルスが宿主の微生物に、金属のストレスに耐える遺伝子を運んでいる可能性も示されました。金属だらけの泥の中で暮らす微生物にとって、ウイルスが「道具の運び屋」になっているのかもしれません。

掘ったあとに、何が戻るのか

著者らはこの研究を、採掘前の「基準線」と位置づけています。採掘が始まれば、海底の表面の泥は機械でかき混ぜられ、巻き上げられ、別の場所に降り積もります。過去に行われた長期の攪乱実験では、団塊のある海底の泥への影響が数十年単位で続くことが分かっています。

そのうえで著者らは、表層の泥とより深い層の泥に共通するウイルスの集団があることに注目しています。表層が壊されたあと、深い層のウイルスが表層の群集を部分的に組み立て直す「種」になりうるというのです。ただし、これはあくまで可能性の話で、実際に採掘が行われたときにウイルスと宿主と生態系の働きがどう変わるかは、もっと研究が要ると念を押しています。

深海採掘をめぐっては、賛成の側にも反対の側にも強い主張があります。この研究が示したのは、どちらの立場を取るにしても「掘る前に何がいたのか」を数えておく必要がある、という当たり前のことです。その数が1万を超え、そのほぼ全部が人間にとって初めて見るウイルスだった、というところに、この海底の分かっていなさが表れています。

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