カレーは一晩置くとうまくなる。煮込み料理は翌日のほうがいい。台所でよく聞く話ですが、本当でしょうか。味が変わっているのか、それとも「翌日のほうがうまいはず」という思い込みが舌を動かしているのか。オーストラリアのディーキン大学の食品・感覚科学者ラッセル・キーストらが、この俗説を盲検の官能試験で正面から試しました。
結果を先に書くと、「翌日のほうがうまい」は丸ごと迷信ではありませんでした。ただし、思われているほど一般的な現象でもありません。試した4品のうち、翌日のほうが好まれたのは1品だけでした。研究は2026年7月31日に査読前のプレプリントとして公開されており、まだ専門家による審査を受けていません。
まず「翌日うまくなる料理」を選ぶ
キーストは食品科学者になる前に料理人として修業していて、この言い伝えを何度も耳にし、自分でも経験してきたといいます。夜にテイクアウトのカレーを食べ、翌朝に残りを食べると、なぜかもっとおいしく感じる、と New Scientist の取材に話しています。
チームはまず、25品の料理の一覧を大学の職員と学生30人に見せ、「一晩置くとおいしくなる」と強く信じているものを4つ選ばせました。選ばれたのは、ビーフラザニア、バターチキン、ダール(豆の煮込み)、アップルクランブル。どれも「翌日うまい」の定番と言ってよい顔ぶれです。
どちらが翌日ぶんかは、誰も知らない
本番の試験には、別の65人の大人が参加しました。4品それぞれについて、その日に作ったものと、24時間前に作って冷蔵し、温め直したものを用意します。参加者には符号だけを付けた試料を渡し、どちらが当日ぶんでどちらが翌日ぶんかは伏せました。「翌日のほうがうまい」という先入観が舌に入り込む余地を減らすための、この研究の芯になる手順です。試験は2回のセッションに分けて行われました。
各料理について、3種類の質問をしています。
- 違いが分かるか:2つの試料を出して「同じ」か「違う」かを答える(同じものを2つ出す回も混ぜる)。
- どちらが好きか:当日ぶんと翌日ぶんを並べて食べ、好きなほうを選ぶ。
- 単独でどれくらい好きか:1つだけ食べて、好みの度合いを点数で付ける。
「違いが分かる」と「好き」と「おいしい」は別の話なので、別々に測る必要がある、というのがこの設計の考え方です。

違いは分かる。でも好きとは限らない
違いの判別では、ダールがもっともはっきりしていました。実際に違う試料を出したときに「違う」と答えた割合は83%で、同じものを2つ出したときの「違う」(半分強)を明確に上回りました。バターチキンとアップルクランブルも、一晩冷蔵庫に入ったあとでは判別できました。いちばん化けなかったのはビーフラザニアで、参加者の繰り返し回答を考慮した補正をかけると、当日ぶんと翌日ぶんを区別できたという統計的な証拠は残りませんでした。
ところが、違いが分かることと、翌日ぶんのほうを好むことは別でした。並べて食べて翌日ぶんがはっきり好まれたのは、4品のうちバターチキンだけ。比較のおよそ64%で翌日ぶんが選ばれました。ダールとアップルクランブルは、違いは分かるのに、当日ぶんを選ぶ人と翌日ぶんを選ぶ人がほぼ半々。ラザニアもどちらに傾くこともありませんでした。
さらに、1つだけ食べて点数を付ける「単独の好み」では、4品とも当日ぶんと翌日ぶんに統計的に意味のある差はありませんでした。料理のあいだには差があり、アップルクランブルがいちばん人気でしたが、それは「みんなアップルクランブルが好き」ということを示しているだけです。
著者らのまとめは「翌日効果は控えめで、料理によって違い、何を測るかで変わる」というものです。レシピは補足資料に載っているので、同じ料理で自分の台所で試すこともできます。
なぜバターチキンだけなのか
この研究は人が何を感じたかを測ったもので、鍋の中の化学変化を調べたわけではありません。だから、バターチキンだけが一晩で良くなった理由は、この研究からは言えません。
ただ、食品科学で知られている仕組みはいくつか挙げられています。味の体験は、香り、味、食感、温度、記憶までが脳の中で重なってできあがります。ソースの多いバターチキンのような料理は、香りや味の成分が一晩のあいだに移動し直す「動く部分」が、ラザニアのように構造の決まった料理より多いのではないか、と著者らは見ています。デンプンが冷えて組み替わる変化や、脂に溶けた香りの成分の広がり方なども候補です。これらは今回確かめられたことではなく、次に調べるべきことです。
大きな発見というより、台所の言い伝えに「どこまで本当か」の線を引いた小さな研究です。査読を通る前の段階であることは繰り返しておきます。それでも、65人に目隠しで食べさせて確かめた、という手順の分だけ、「翌日のカレーはうまい」という言葉は少し精密になりました。少なくともバターチキンについては、冷蔵庫の中で本当に何かが起きているようです。
出典
- Keast, R., Sayompark, D., Wanich, U., Lewin, S., Dias, D. A., Liem, D. G. & Riddell, L. (2026). Do Foods Really Taste Better the Next Day? A Blinded Sensory Study of Fresh and Day-Old Foods. Preprints.org(査読前). https://doi.org/10.20944/preprints202607.2367.v1
- ScienceAlert(2026年10月3日):Scientists Tested Whether Leftovers Really Taste Better The Next Day. One Dish Stood Out.


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