成層圏の「空飛ぶ基地局」が太平洋を往復し、室戸岬の上からふつうのスマホにつながった

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携帯電話の電波は、地上の基地局か、最近では人工衛星から届きます。その2つのあいだ、高度およそ20kmの成層圏に「空飛ぶ基地局」を浮かべるという3つ目の層が、日本の空で初めて実際につながりました。米国の Sceye(スカイ)社の成層圏プラットフォーム(HAPS)が、ニューメキシコ州から太平洋を渡って日本に到達し、高知県・室戸岬沖の上空に約1週間とどまって、ソフトバンクのネットワーク経由で市販のスマートフォンと通信したのです。

ソフトバンクが2026年9月2日、Sceye が9月9日にそれぞれ発表し、New Atlas が10月3日に取り上げました。企業の発表であって、査読や第三者の検証を経たものではありません。それでも、飛んだ距離と確かめた内容は、この分野の節目として記録に残しておく価値があります。

太平洋を渡って、室戸岬の上で止まる

Sceye の機体は「ST1」と名づけられた、ヘリウムで浮く空気より軽い型の飛行船です。2026年8月9日午後10時(日本時間)にニューメキシコ州ロズウェルを出発し、太平洋上空を約13日間、1万5,000km以上飛んで、8月23日午前7時11分に日本上空に到達しました。

そのまま高知県室戸市周辺の上空、室戸岬沖で滞空に入ります。この場所が選ばれたのは、南海トラフ地震のような大規模災害を想定したエリアだからです。成層圏の風向きや風速に合わせて機体を運用しながら、指定された試験エリアで長時間、半径5km以内に位置を保つことができました。地上から見れば、ほぼ同じ場所に浮かび続ける「静止した」基地局になります。

日本での試験を終えたあと、機体は再び太平洋を横断して米国へ戻り、9月4日に大陸に再突入、9月5日にニューメキシコ州モリアーティの本社近くの空域に戻って、追加の試験のあと計画どおり降下しました。往復で30日、飛行距離は約3万kmです。

市販のスマホが、そのままつながった

室戸市周辺で行われたのは、HAPS と地上のスマートフォンとの双方向の通信試験です。機体には 4G LTE 相当の基地局が載っていて、地上のゲートウェイを介してソフトバンクのコアネットワークに接続されました。

確かめられたのは、音声通話とテキストメッセージの送受信、SNS などのアプリの利用、ビデオ通話や動画視聴といった大容量のデータ通信です。緊急地震速報や津波警報の緊急速報メールが届くことも確認し、海上保安庁の協力のもとで、音声通話による118番への緊急通報も試されました。データ通信では、地上の基地局との電波干渉を抑えながら、地上のネットワークと同等の通信性能を出せることが確認されたとしています。

ここで大事なのは「改造していない、ふつうのスマートフォン」で通じたことです。専用の端末やアンテナが要らないなら、災害で地上の基地局が使えなくなった地域に、空から直接いつもの電話を届けられることになります。

ドローンとの通信と、成層圏での計算

ソフトバンクが「3次元通信ネットワーク」と呼ぶ構想の試験も行われました。地上だけでなく、上空を飛ぶドローンにも安定した通信を届けるというものです。今回は HAPS の通信環境下でドローンを遠隔制御で自動飛行させ、飛行の制御、位置情報の送信、映像の伝送が安定して行えることを確認しました。災害時の被害確認や物資輸送、離島や洋上の監視、送電線や道路の点検といった用途が想定されています。

もうひとつ、両社が「世界初」とうたうのが、HAPS の上でのエッジコンピューティングです。機体に処理用のサーバーとモバイルコアを載せ、スマートフォンからの通信を地上のネットワークを経由せずに機体の中で処理して返す試験を行いました。応答にかかった時間は往復平均で68ミリ秒。インターネットを経由してクラウドで処理する場合に比べ、遅延を40%以上減らせたとしています。ロボットなどが外の世界を見て判断する「フィジカルAI」のように、広い範囲と低い遅延の両方が要る用途を見込んだものです。

基地局500本ぶん、ただし商用化は2027年以降

Sceye によれば、HAPS は本格展開時に1機で地上の基地局およそ500本ぶんの面積を覆う設計です。成層圏は、地球に近いので大容量の通信ができ、同時に広い範囲を見渡せる高さにある。静止衛星と同じように同じ場所にとどまりながら、静止衛星より1,800倍近く、打ち上げの費用もかからない、というのが同社の言い分です。

一方で、できたのはあくまで試験サービスの段階です。ソフトバンクは、2027年以降の日本国内での商用化に向けて、期間・エリア・端末を限定した通信試験を続け、運用方法の整備と通信品質の向上を進めるとしています。6G の時代を見据えて、衛星・HAPS・地上網をつなぐ構想の一部という位置づけです。

「HAPS」という言葉は10年近く前から聞かれてきましたが、太平洋を自力で往復し、日本の上で1週間止まり、ふつうのスマホにつながるところまで来たのは今回が初めてです。空の3つ目の層が、構想から運用の手前まで進んだ。そう言える出来事でした。

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