【デボン紀の生物】ティクターリク – 「いるはずの場所」を先に割り出して掘り当てた魚

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名前ティクターリク(Tiktaalik roseae)。属名はカナダ北極圏のイヌイットの言葉で「大きな淡水の魚」。ヌナブト準州の長老たちが名づけた。種小名は匿名の寄付者にちなむ
分類肉鰭類(にくきるい)・エルピストステゲ類。四足動物にもっとも近い魚のグループ
時代デボン紀後期(フラスニアン期、約3億7500万年前)
発見地カナダ・ヌナブト準州エルズミーア島(フラム層)
全長1.25〜2.75m。見つかっている最大の個体は約2.75m
頭平たく、目は頭の上に並ぶ。下顎の長さは最大で約31cm

ティクターリクは、デボン紀後期の川にすんでいた、平たい頭をもつ大型の肉鰭類の魚です。鰓と肺の両方をもち、胸びれの中には腕と手首にあたる骨があり、頭を胴から独立して動かせる首がありました。魚から四足動物への移行を示す化石として知られていますが、この化石は偶然見つかったものではありません。「この年代の、この種類の岩のある場所」をあらかじめ割り出して探しに行き、5年目に掘り当てたものです。

姿と暮らし

ティクターリクは、ワニのように平たい頭と、横に広い胴をもつ魚です。目は頭の上面に並び、その後ろに呼吸孔(スパイラクル)と呼ばれる穴が開いていました。ふつうの魚では、頭の後ろに鰓を覆う骨の板(鰓蓋)が並び、頭と肩帯がつながっています。ティクターリクにはこの板がなく、頭を胴から切り離して動かせました。首をもつ魚としては、知られているかぎり最古です。

胸びれの中には、上腕骨、橈骨、尺骨、それに手首にあたる小さな骨が並び、その先に鰭条(ひれを支える細い骨)が広がっていました。この骨組みは、ひれを曲げて体重を支える動きを可能にします。胴には約45対の肋骨があり、他の魚より太く重なり合っていて、水の浮力なしでも胴を支えられるつくりでした。体の表面は菱形の鱗で覆われています。鰓のほかに肺もあり、頭の上の呼吸孔から空気を取り込んで呼吸できたと考えられています。

2014年には、それまで見つかっていなかった腰の骨(骨盤)と腹びれが報告されました。骨盤は肩帯とほぼ同じ大きさで、他の肉鰭類に比べて格段に大きく、腹びれも胸びれに近い長さがありました。四足動物の祖先は前のひれだけで体を支える「前輪駆動」だったという見方が有力でしたが、ティクターリクはすでに後ろのひれでも体を支え、押し進めていたことになります。2024年には、肋骨の形が体の部位ごとに異なり、腰のあたりの肋骨が広がって骨盤とつながっていたことも分かりました。

化石が出るのは、川の流れがつくった砂岩と泥岩の地層です。デボン紀後期のエルズミーア島は赤道近くにあり、浅い川が蛇行する温暖な平野でした。ティクターリクはそこで、水底に腹をつけて待ち伏せし、2021年の研究によれば、口を開けて水ごと吸い込む魚の食べ方と、顎で噛みつく四足動物の食べ方の両方を使い分けていたと見られます。

探す場所を先に決めてから見つけた魚

1990年代の終わり、シカゴ大学のニール・シュービン、フィラデルフィアの自然科学アカデミーのエドワード・デシュラー、ハーバード大学のファリッシュ・ジェンキンズの3人は、魚と四足動物のあいだを埋める化石がどこにあるかを考えました。当時知られていた、四足動物にいちばん近い魚(パンデリクチス)は約3億8000万年前、最古の四足動物(アカントステガなど)は約3億6500万年前の地層から出ていました。中間の姿をした動物がいるとすれば、そのあいだの約3億7500万年前の地層です。

条件はもう2つありました。初期の四足動物は淡水の堆積物から出ているので、海ではなく川や湖の地層であること。そして、地表に露出していて、まだ誰も調べていないこと。この3つをそろえて大学の地質学の教科書の地図を見ると、候補はカナダ北極圏のエルズミーア島など、限られた場所しか残りませんでした。エルズミーア島は1970年代にカナダ地質調査所が地質図を作っただけで、古生物学者はほとんど入っていませんでした。

調査は1999年に始まりました。航空写真で有望な露頭を選び、夏の短い期間に現地を歩いて、岩から風化して出てきた骨のかけらを探します。最初の2シーズンは、すでによく知られた魚の化石しか見つかりませんでした。2002年に、吻(鼻先)の一部が拾われましたが、その場では重要性に気づかれず、あとで標本を見た大学院生が最初期の両生類の頭骨との類似を指摘して、初めて注目されました。北極圏の調査は費用がかかるため、2004年の調査は最後と決めて臨みました。その夏、崖の岩の中から、3個体分の化石が見つかりました。

標本はフィラデルフィアとシカゴに運ばれ、岩から取り出す作業に何か月もかかりました。2006年4月6日、Nature 誌に2本の論文が同時に掲載され、頭骨と体の構造、胸びれの骨の並びが記載されました。名前は、ヌナブト準州のイヌイットの長老たちに相談して、現地の言葉で「大きな淡水の魚」を意味するティクターリクと決まりました。その後も同じ場所での調査は続き、標本は60点を超えています。2022年には、発見地から1.5キロしか離れていない場所から、近縁のキキクタニアが記載されました。

ティクターリクが示したのは、魚と四足動物の中間の姿そのものだけではありません。化石の記録から年代と環境を絞り込めば、まだ見つかっていない動物の居場所を予測できる、ということです。

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