この記事には広告(Amazon アソシエイトのリンク)を含みます。
中国の雲南省は、6,000種を超える菌類が記録され、モリーユやトリュフの産地としても知られる土地です。それでも、森の地面から交通コーンほどの高さに立ち上がる菌が、名前も付かずに残っていました。中国科学院昆明植物研究所の Jing Song さんらは、この菌を新種 Dianjunus rex(ディアンジュヌス・レックス)として記載し、既知のどの科にも入らない新しい科 Dianjunaceae を立てたと Frontiers in Fungal Biology に報告しました。学名の rex はラテン語の「王」で、大きさと堂々とした姿から付けられています。
高さ50cm、重さ2.2kg
キノコと聞いて思い浮かぶ傘のある形は、担子菌(たんしきん)という大きなグループのものです。D. rex はそれとは別の子嚢菌(しのうきん)に属します。子嚢菌にはモリーユ、トリュフ、冬虫夏草、そして酵母やカビの多くが含まれますが、胞子を飛ばすために地上に作る器官はたいてい小さく、大きいものでも高さ20〜30cm どまりでした。
D. rex の子座(しざ。子嚢菌が胞子を作るために立てる塊)は、最大で高さ50cm、1つで2.2kg に達します。若いうちは先が球根のように膨らんだ棒で、育つと指のように枝分かれします。表面は黄色っぽい粉状の層で覆われ、中は生のうちはとても肉厚で、採ると急に乾いていきます。強い匂いも味もありません。採集されたのは昆明市と楚雄州の温帯の針葉樹林、そして西双版納の熱帯雨林で、どれもアベマキ(Quercus variabilis)など、枯れた広葉樹の根や切り株から生えていました。熱帯のものほど大きく育っています。

既知のどの科にも入らなかった
研究チームは5つの標本から4つの遺伝子領域(ITS、LSU、RPB2、TUB2)を読み、さらに3つの子座から全ゲノムも解読しました。系統樹の上で D. rex は、キシラリア目の中の Graphostromataceae という科のすぐ隣に、独立した枝として立ちます。いちばん近い既知の種は Graphostroma platystoma という、北半球の枯れた広葉樹に薄く広がる地味な菌で、姿はまるで似ていません。胞子の表面に S 字型の割れ目があること、胞子を入れる袋の先端に逆台形の輪があることなど、形の特徴も既知の科と一致しなかったため、新しい属と科が必要だと判断されました。
属名の Dianjunus は、いま雲南省がある場所にかつてあった「滇(てん)」の国と、中国語で菌を意味する「菌(jūn)」を合わせたものです。
恐竜が消えた直後に分かれた枝
年代の分かっている多数の菌と塩基配列を比べ、変化の速さから枝分かれの時期を見積もる分子時計の計算では、Dianjunaceae が隣の科から分かれたのは約6,500万年前、暁新世(ぎょうしんせい)の初めになります。小惑星の衝突で非鳥類型恐竜を含む動植物の約75%が消えた白亜紀末の大量絶滅(約6,600万年前)の、およそ100万年後です。
著者らはこれを偶然とは見ていません。大量絶滅のあとの森には、枯れた植物体が大量に横たわっていたはずで、木を分解する菌にとっては新しい食べ物があふれた時代でした。北米やニュージーランドの地層からは、この時期に菌類の胞子が急増した跡が見つかっています。D. rex の系統がそこで生まれたとすれば、「恐竜のいない森」の最初の住人の子孫が、いまも雲南の森に立っていることになります。ただし分子時計の年代はあくまで見積もりで、この結びつきも論文は可能性として書いています。
巨大なのに、分解の道具は少ない
ゲノムを読んで分かった意外な点は、この巨大な菌が、木を分解するための酵素の遺伝子を驚くほど少ししか持っていないことです。炭水化物を分解する酵素の遺伝子は3つの標本でそれぞれ約220個で、同じ目の木材腐朽菌(Xylaria で535〜635個、Hypoxylon で423〜577個)の半分以下でした。植物の細胞壁をほどく最初の一手になるペクチン分解酵素は、ほとんどゼロです。
著者らはここから、D. rex は生きている木の中に病気を起こさずひそんでいて、木が枯れてから分解者に転じるという暮らし方をしているのではないかと考えています。子座が見つかるのが枯れた根や切り株だけであることも、これと合います。分解のための酵素を作る負担を減らし、代わりに菌の細胞壁を作る酵素を増やして、手に入れた炭素を自分の体へ素早く回す。そうやって巨大な子座を立てているのだろう、という仮説です。
なぜそこまで大きくするのかは、まだ分かりません。木々が密に茂る森では、落ち葉や下草より高いところから胞子をまくほうが風に乗りやすい、と著者らは推測しています。大きな体を作るには相応のエネルギーが要るので、この戦略は、それだけの見返りがある場所でだけ成り立つはずだとも書いています。
森にはまだ名前のない菌がいる
最初の標本が採られたのは2024年8月、昆明市の大麦地(Damaidi)でした。50cm の菌が、菌類学者の多い雲南省で2024年まで記載されずにいたのは、子座が出る季節が限られ、出る場所が枯れた根の脇に限られ、そして調べる人の関心が食用菌などに向きがちだったからだと著者らは見ています。雲南省の菌の総数は10万種を超えるとも見積もられていて、記録されているのはその一部にすぎません。王の名を持つこの菌は、東アジアの森にまだどれほどの未記載種が残っているかを示す目印として記載されました。
関連する商品
この記事に関連する本や商品は、Amazon で探せます。
上のリンクから購入されると、このブログに紹介料が入ることがあります。
出典
- Song, J. et al. (2026) “Unearthing a fungal giant: Dianjunaceae fam. nov., a novel Paleocene lineage of Xylariales harboring Dianjunus rex gen. et sp. nov.” Frontiers in Fungal Biology 7:1940464. https://doi.org/10.3389/ffunb.2026.1940464
- EurekAlert!(Frontiers)“Unearthing a fungal giant…”(2026年10月13日)https://www.eurekalert.org/news-releases/1147398
- ScienceAlert “Meet D-Rex: Ancient Fungus as Tall as a Traffic Cone Has Just Been Discovered in China”(2026年10月15日)https://www.sciencealert.com/scientists-uncover-d-rex-gigantic-new-king-fungus-from-china-traces-its-roots-to-65-million-years


コメント