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「33の惑星系を電波で調べたら、1件だけ気になる信号が残った」。そう聞くと、つい期待してしまいます。でもこの話の本当の見どころは、見つけたことではなく、その信号を研究チームが自分たちの手で疑い、地球側のノイズである可能性のほうが高いと結論づけたところにあります。
2026年に天文学の専門誌 The Astronomical Journal に載った、中国の研究チームによる論文の話です。世界最大の電波望遠鏡のデータから、どうやって「宇宙人らしい信号」を探し、どうやってそれを潰していったのか、順を追って見ていきます。
世界最大の電波望遠鏡で聴いた33の惑星系
舞台は中国・貴州省にある FAST(ファスト)。直径500mの、一枚のお皿としては世界最大の電波望遠鏡です。この望遠鏡は2021年に、惑星を持つことがわかっている33の恒星系を順番に観測していました。多くは、液体の水が存在できる距離(ハビタブルゾーン)に惑星を持つ系で、もし誰かが電波を出しているなら候補になりそうな場所を選んであります。

今回の論文は、その2021年のデータを、新しく作った解析の仕組みで洗い直したものです。北京師範大学などの Zi-Qi Li さんを筆頭とする研究チームが、ウェーブレット解析という手法を組み込んだ機械学習の処理系を作り、電波の記録の中から「怪しい形」を拾い上げる作業を自動化しました。観測そのものが新しいわけではなく、データの読み方を変えた研究です。
宇宙人らしい電波の三つの条件
そもそも「宇宙人らしい電波」とは、どういうものでしょうか。研究チームが探していたのは、次の三つを満たす信号です。
一つ目は、周波数の幅が極端に狭いこと。星や星間ガスといった自然の天体が出す電波は、広い周波数にまたがってだらっと広がります。逆に、人間が作る送信機の電波はぴたりと一点に集中します。狭い電波は、自然にはまず作れません。
二つ目は、周波数がゆっくりずれていくこと。送信機が惑星の上にあれば、その惑星の自転や公転で送信機が私たちに近づいたり遠ざかったりします。救急車のサイレンの高さが変わるのと同じ理屈で、電波の周波数もわずかに変わり続けるはずです。
三つ目は、狙った星の方向からだけ届いていること。FAST の受信機には19本の「ビーム」があり、真ん中の1本を目標の星に向けると、残りの18本は同時にそのすぐ隣の空を見ています。宇宙から来た電波なら真ん中の1本にしか入りませんが、地上の電波は望遠鏡の周りから回り込むので、たいてい複数のビームに同時に現れます。

やっかいなのは、地球そのものが電波だらけだという点です。人工衛星、航空機、通信、測位システム、電子レンジまで、あらゆるものが電波を出していて、その中には「狭くて、ずれていく」という宇宙人らしい特徴をたまたま持つものが混じります。だから見つけることより、地球由来のにせものを除くことのほうがずっと大変で、この論文の中心も実はそこにあります。
新しい処理系を33の惑星系のデータにかけると、最初に拾われた候補は13万9127件。そこから隣のビームにも出ているものなどを機械的に取り除き、803件まで絞り、最後は人の目で1件ずつ確認しました。残ったのは2件だけです。1件はケプラー438という星の方向で以前から知られていた信号で、こちらは過去の解析ですでに地球側の干渉と判定されています。もう1件が、今回初めて見つかった新顔でした。
三つの条件をすべて満たした K2-155 の信号
新顔の信号は、地球から238光年離れた赤色矮星(せきしょくわいせい)K2-155 の方向から来ていました。赤色矮星は太陽より小さく暗い星で、K2-155 には地球より大きな岩石惑星が3つ見つかっています。いちばん外側の惑星は半径が地球の1.6倍ほどで、ハビタブルゾーンの近くを約41日で回っています。探す場所としては申し分ない星です。
信号には NBS 260108 という名前がつきました。NBS は「狭帯域信号」の略、260108 は見つけた日付です。周波数は 1148.4167MHz。幅は極端に狭く、観測の間に1秒あたり0.038Hz ずつ下がっていき、19本のビームのうち K2-155 を向いた真ん中の1本にしか現れませんでした。三つの条件を、すべて満たしています。
周波数のずれ方も計算で確かめられています。この程度のずれなら、地球の自転や公転、あるいは K2-155 の惑星の公転で十分に説明がつく大きさで、「宇宙から来た」と考えても物理的な矛盾はありません。ここまでなら、候補として胸を張って発表できる材料がそろっていたことになります。
信号を疑った研究チーム自身
ところが研究チームは、ここで手を止めませんでした。電波には偏波(へんぱ)という性質があって、FAST は電波を直交する二つの向きに分けて別々に記録しています。宇宙のはるか遠くから届く電波なら、二つの記録の両方に出るのが普通です。NBS 260108 は片方の記録にだけくっきりと現れ、もう片方には影も形もありませんでした。これは、装置の中や地上に原因があるときによく見られる特徴です。
さらに決め手になったのが、同じ日の別の観測でした。K2-155 の観測は2021年9月10日に行われ、その日は K2-18、GJ 9066、ロス128という別の3つの星も続けて観測しています。その3つのデータを調べ直すと、どれにも 1148MHz 付近に、片方の偏波にだけ現れる似た形の信号が見つかりました。強さやずれ方には違いがあり、ロス128のものは周波数が 0.02MHz ほど離れ、GJ 9066 のものはほとんどずれていません。それでも、別の方向を向いた望遠鏡に同じような信号が同じ日に繰り返し出るのは、K2-155 にいる誰かが送っていると考えるよりも、地球側に共通の原因があると考えるほうが自然です。
研究チームは、犯人になりうる地上の電波も一つひとつ点検しています。航空機の距離測定装置、通信衛星、GPS などの測位衛星、軍用レーダー。1148MHz は航空機向けの無線が使う帯域と重なっていますが、そうした電波は短いパルスが主で、なめらかに続く一本線の信号にはなりにくい。衛星の電波は地球全体を照らしているので複数の観測に同時に混じる点は合いますが、周波数が数十MHz 離れていて、直接の説明にはなりません。結局、「これが原因だ」と特定できるものは見つかりませんでした。
そのうえで論文は、はっきりこう書いています。地上か装置に由来する干渉である可能性のほうが、地球外の信号である可能性より高い。NBS 260108 は優先度の低い候補として扱い、確かな検出とはみなさない、と。原因が突き止められなかったことも隠さず、今後より強い判別ができる観測で確かめたい項目として、内部の宿題に残しています。
見つけることより疑うことに重心を置いた論文
今回の研究で、宇宙人の信号は見つかっていません。狙った惑星系の方向からそれらしい信号が出て、しかも三つの条件を全部満たしたのに、研究チームはそれを自分たちで疑い、地球側のノイズの可能性が高いと結論づけて、その判断の根拠を全部論文に書きました。
この分野では、候補を見つけるより、候補を潰すほうがはるかに手間がかかります。FAST のように感度の高い望遠鏡ほど、拾ってくる「怪しい信号」の数は増えるので、それを機械的に、しかもあとから誰でも検証できる形で絞り込む仕組みが要る。今回の論文の本題はそちらで、K2-155 の信号はその仕組みが正しく働いた実例として載っているにすぎません。研究チームは処理系のコードも公開しています。
いつか本物が来たとしても、それを本物だと言えるのは、こうやってにせものを潰し続けてきた積み重ねがあるからです。地味な結論ほど、その先の発表が信じられるものになる。そういう論文でした。
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出典
ScienceAlert(2026年9月26日、Michelle Starr):Astronomers Searched 33 Planetary Systems For Alien Signals. One Caught Their Attention.
元論文(The Astronomical Journal, 2026):Zi-Qi Li et al., A Wavelet-Integrated Search Pipeline for Narrowband Technosignatures in FAST Observations of 33 Exoplanet Systems
同論文のプレプリント(無料で全文が読めます):arXiv:2605.23739


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