【オルドビス紀の生物】筆石 – 岩の文字と呼ばれた動物は、今も海底に生きている

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名前筆石(ふでいし)。英名グラプトライトは、ギリシャ語の「書かれた(graptos)」と「石(lithos)」から。岩の面に書かれた文字のように見えることに由来する
分類半索動物門 翼鰓綱(よくさいこう) 筆石亜綱
時代カンブリア紀前期〜石炭紀後期(約5億1600万年前〜約3億2000万年前)。海を漂うタイプはオルドビス紀〜デボン紀前期
発見地世界各地。オルドビス紀・シルル紀の黒い泥岩(黒色頁岩)にとくに多い
群体の大きさ数センチのものが多く、大きなものは数十センチ
個虫の大きさ1ミリ前後

筆石は、細い管が枝や帯のかたちに連なった群体をつくる海の動物です。ひとつの管の中にひとつの個体が入り、群体全体でひとつの生き物として暮らしていました。化石は黒い泥岩の面に、鉛筆で引いたような細い線として残ります。ノコギリの刃のような縦の線、音叉のように二つに分かれた線、渦を巻く線など、線の形が種類ごとに違います。

オルドビス紀からシルル紀の海では、こうした群体が水中をただよっていました。種類の入れ替わりが速かったため、地層の年代を決める示準化石として、三葉虫やアンモナイトと並ぶ主力になっています。名前のもとになった英名のグラプトライトは、18世紀に「化石ではないもの」に付けられた名前でした。そして現在の分類では、筆石は絶滅した動物ではありません。

姿と暮らし

筆石の本体は、群体を形づくる有機質の管です。この管は「チュバリウム」と呼ばれ、炭酸カルシウムなどの鉱物を含みません。素材はコラーゲンに近いタンパク質だと考えられていますが、キチン質とする意見もあり、まだ確定していません。管の壁には、細い帯を半分ずつ交互に重ねた縞模様(フセルス)があり、これが筆石を見分けるいちばん確実な特徴になっています。

群体は一匹の幼生から始まります。幼生がまず最初の管(シクラ)をつくり、そこから芽が出るように次の個体が生じ、その次がまた生じて、群体が伸びていきます。個体どうしは、管の内側を走る黒い共通の柱(ストロン)でつながっていました。個体そのものは1ミリ前後で、軟らかい体は化石にほとんど残っていません。姿の復元は、後で述べる現生の近縁種をもとにしたものです。

筆石には大きく二つの暮らし方がありました。古いタイプは海底に根を下ろし、枝分かれした扇や木のような群体を立てて暮らしました。この仲間(樹形筆石類)はカンブリア紀に現れ、石炭紀の後期まで続いています。もうひとつは海底を離れ、水中をただよう暮らしに移ったタイプです(正筆石類)。オルドビス紀の初めに現れ、オルドビス紀とシルル紀の海の動物プランクトンとして最大の一群になりました。管の外側に出した個体の腕で水中の小さな粒を集めて食べていたと考えられています。

漂う暮らしに移ってから、群体の形は整理されていきました。オルドビス紀前期には4本の枝を垂らした形が多く、やがて2本になり、2本の枝を背中合わせに貼りつけた1本の柄のような形(クリマコグラプトゥスなど)が中期に現れます。シルル紀には枝が1本だけのモノグラプトゥスの仲間が主流になりました。枝の数が減り、管の並びが規則的になる方向へ、およそ1億年かけて変化しています。

同じ時代の海には、直角石と呼ばれるまっすぐな殻のオウムガイの仲間、三葉虫、腕足類、ウミユリ、そして礁を作る床板サンゴがいました。筆石の化石が多く残る黒い泥岩は、酸素の少ない深い海底に泥が積もったもので、こうした場所では海底に住む動物が少なく、上から沈んできた筆石の群体だけが積み重なるように残りました。

地層の時計になった理由

筆石が示準化石として重宝されるのは、三つの条件がそろっていたからです。海を漂って暮らしたため、同じ種類が大陸をまたいで広く分布した。種類の入れ替わりが速く、オルドビス紀とシルル紀では、ひとつの種類の顔ぶれで区切れる期間(生層序帯)がおおむね100万年以下、短いものでは30万年ほどになる。そして、ほかの化石が残りにくい深海の泥岩にもよく残った。この三つです。

オルドビス紀とシルル紀の国際的な年代区分の多くは、筆石の顔ぶれの変化を基準線にして引かれています。たとえばオルドビス紀後期のサンドビアン期の始まりは、ネマグラプトゥス・グラキリスという種の出現で定義されています。イギリス、中国、北米、オーストラリアの地層を、同じ種の線で突き合わせられるのはこのためです。

筆石の化石は、地層がどれだけ熱を受けたかを調べる材料にも使われています。有機質の管は埋没して温度が上がるにつれて炭化が進み、光を当てたときの反射のしかたが変わります。石炭の熟成度を測るのと同じ原理で、石炭が存在しない古生代前期の地層では、筆石がその役目を担っています。

絶滅していなかった筆石

筆石の英名グラプトライトは、1735年にリンネが『自然の体系』の初版で用いた属名グラプトリトゥスに由来します。ただしリンネはこの名前を、生き物の遺骸ではなく岩の面に生じた模様、つまり化石に見えるだけのものに対して使いました。生き物として扱われるようになったのは19世紀に入ってからで、その後も長いあいだ、枝分かれした群体の形からヒドロ虫(クラゲやサンゴに近いグループ)の仲間だと考えられていました。

この見方を変えたのが、ポーランドの古生物学者ロマン・コズウォフスキです。コズウォフスキはポーランドのオルドビス紀最初期のチャート(珪質の岩)から、押しつぶされていない立体のままの筆石を取り出しました。岩を酸で溶かして残った有機質の管を顕微鏡で調べると、管の壁の縞模様と、個体をつなぐ黒い柱が見えました。同じ構造をもつ現生動物は、ヒドロ虫ではなく翼鰓類(よくさいるい)でした。研究は第二次世界大戦をはさんで1949年に刊行され、筆石は半索動物、つまり脊索動物に比較的近い側の動物だという分類がここで定まります。

翼鰓類は、現在の海に暮らす数ミリの群体動物です。そのひとつであるラブドプレウラは1869年に記載されたもので、岩や貝殻の表面に細い管をはりつけて暮らします。管の壁には筆石と同じ縞模様があり、個体は黒い柱でつながり、幼生は最初の管をつくってから群体を広げていきます。長らく「筆石に似た現生の動物」として、絶滅した筆石の復元の手本に使われてきました。

2013年、ミッチェルらは現生のラブドプレウラと主要な筆石の各グループを、形の特徴にもとづいて同じ系統樹の上で解析しました。結果、ラブドプレウラは筆石の外側ではなく、海底に固着するタイプの筆石のなかに入りました。筆石をひとつのグループとしてまとめる特徴を、ラブドプレウラはすべて備えていたのです。この研究以降、ラブドプレウラは「筆石に似た動物」ではなく、現在まで生き残っている筆石そのものとして扱われています。知られている種は5種で、潮間帯から深さ900メートルほどまで、北極から南極近くまでの海に分布しています。

この結果は、筆石の系統の見方を変えました。海を漂った正筆石類も、海底に立った樹形筆石類も、いずれもラブドプレウラのように岩にはりついて暮らす小さな群体から派生したことになります。カンブリア紀初期の約5億1600万年前の地層からは、現生のラブドプレウラとよく似た管の構造をもつ筆石が2025年に報告されており、その姿はほぼそのまま現在の海まで続いています。地層の時計として使われた華やかな種類はデボン紀までに姿を消しましたが、出発点の形をした筆石は、5億年のあいだ海底で管を貼りつけ続けています。

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出典

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