ヤスデは脊椎動物より8000万年早く陸に上がっていた

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最初に陸へ上がった動物は何だったのか——この素朴な疑問に、新しい答えの候補が示されました。バージニア工科大学を中心とする国際研究チームが、現生するヤスデの全ての目(もく)を網羅した初めての進化史を完成させ、その結果を学術誌Current Biologyに発表しました。分析から見えてきたのは、ヤスデの起源が約4億6000万年前まで遡るかもしれない、という推定です。研究責任者のポール・マレック准教授は「ヤスデは脊椎動物より8000万年以上早く陸に上がっていた」と述べています。

4億6000万年前というのは、恐竜が現れるよりさらに2億年以上前。私たちの祖先にあたる脊椎動物が陸に足をかけるずっと前から、ヤスデはすでに地面の上で暮らしていた計算になります。

最古の陸上動物としてのヤスデ

ヤスデは、落ち葉や朽ち木を食べて土に還す「分解者」です。庭の石をひっくり返せば出てくる地味な生き物ですが、実は古生物学の世界では特別な存在で、これまでに見つかっている最古の陸上動物の化石はヤスデの仲間です。その年代は約4億2500万年前。つまり「動物の上陸一番乗り」の有力候補は、以前からヤスデでした。

ところが、これほど古い歴史を持つグループでありながら、ヤスデの進化の全体像は完成していませんでした。原因は、系統樹(生き物の家系図)に100年以上埋まらない穴が2つ残っていたことです。

100年間置き場所が決まらなかった2つのグループ

現生のヤスデは複数の「目」に分類されていて、これまでに1万4000種あまりが記載されています。そのうちシフォニウリダ類(Siphoniulida)とシフォノクリプティダ類(Siphonocryptida)という2つのグループだけは、存在自体は100年以上前から知られていたのに、家系図のどこに置けばよいのか誰にも分かりませんでした。DNAを調べようにも、解析に使える新鮮な標本が手に入らなかったからです。

無理もない話で、片方は体長1センチほどしかなく、一生を地中で過ごします。もう片方は、世界でも数か所でしか見つかっていません。研究チームはこの2つを「私たちの白鯨のような存在だった」と表現しています。追い求め続けて、なかなか捕まらない相手という意味です。

メキシコとカナリア諸島での「白鯨」探し

チームはこの2種を求めて、メキシコのロス・トゥストラスと、スペインのカナリア諸島へ向かいました。狙いはシフォニウルス・ネオトロピクス(Siphoniulus neotropicus)とヒルディクリプトゥス・カナリエンシス(Hirudicryptus canariensis)。どちらも、進化の解析にDNAが使われたことが一度もない種です。

捜索は簡単ではありませんでした。論文の筆頭著者ルイサ・バスケス=バルベルデ氏によると、体長10ミリの成体を1匹見つけるのに、10人がかりで1週間以上かかったそうです。現地で目にしたのは白い糸くずのような姿で、顕微鏡で覗くまで本当にヤスデかどうか確信が持てなかったといいます。

こうして採集した2種のDNAを解読し、82種のヤスデにわたって数百の遺伝子を比較。さらに29点の化石から得られる形態の証拠を組み合わせて、数億年分の系統関係を計算し直しました。

完成した系統樹が示した4億6000万年前という推定

結果は、二重の意味で予想外でした。

まず、白鯨の片方だったシフォノクリプティダ類は、独立した目ですらありませんでした。100年以上「どこに置くべきか分からない独自のグループ」とされてきたのに、蓋を開けてみれば既存の系統の中に収まる仲間だったのです。もう片方のシフォニウリダ類は、ようやく家系図の中で最も近い親戚の隣に位置づけられました。

そして、全ての目がそろった系統樹から年代を計算し直すと、ヤスデの起源は約4億6000万年前——オルドビス紀と呼ばれる時代まで遡る可能性が示されました。これは最古のヤスデ化石よりさらに約3500万年古く、従来の見積もりを大きく上回ります。マレック氏は「一番の驚きは、一部の系統がここまで古かったことだ」と語っています。つまり、化石として残っているよりずっと前から、ヤスデは陸にいたかもしれないのです。

木も葉もない地表で始まっていた生態系

4億6000万年前の陸上は、いまの地球とはまるで別の場所です。マレック氏の言葉を借りれば、脊椎動物はおらず、木も、葉も、花の咲く植物も、種子を持つ植物さえありませんでした。ヤスデたちは、朽ちたコケや分解の進んだぬめり、地表にたまった原始の有機物を食べて暮らしていたと考えられています。

地味に聞こえますが、これは重要な仕事です。死んだ有機物を分解して栄養を循環させる役目を、最初期の陸上生態系でヤスデが担っていたことになるからです。マレック氏は「ヤスデは、人類や脊椎動物を含む、その後の陸上の生命の舞台を整えた」と述べています。私たちの祖先が上陸したとき、そこにはすでに、ヤスデたちが数千万年かけて回してきた物質循環の仕組みがあったわけです。

完成した系統樹からは、もうひとつ面白いことが分かりました。ヤスデの多くは、敵に襲われると体から防御物質を出します。この化学防御がいつ生まれたのかを辿ると、約2億6000万年前に行き着きました。マレック氏はヤスデを「小さな化学工場」と呼び、生き物として最初期に化学的な武器を備えたグループのひとつだとしています。

解釈上の留意点

約4億6000万年前という数字は、現生種のゲノムと化石の情報を組み合わせた計算による推定であって、その年代のヤスデ化石が実際に見つかったわけではありません。研究チーム自身も「起源はおよそ4億6000万年前まで遡る可能性がある」という言い方をしています。また「脊椎動物より8000万年以上早い」という比較はマレック氏の説明によるもので、脊椎動物側の上陸年代の見積もりが変われば、この差も変わりえます。

それでも、これまでに記載された1万4000種あまりに対して、未発見の種はまだ数万に及ぶかもしれないと専門家は見ています。最古の陸上動物の物語は、これで完結ではなく、むしろ書き足されていく途中のようです。

出典

この記事は、バージニア工科大学のプレスリリースと、Current Biology誌に掲載された論文をもとに書いています。

Ancient millipedes still had secrets to tell(EurekAlert!/Virginia Tech・2026年6月12日)
Reshaping the millipede tree of life by inclusion of the last two unsampled orders(Current Biology)
Millipedes beat vertebrates to land by 80 million years(ScienceDaily)

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