死んだはずの白色矮星が、もう一度燃えはじめた

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1996年2月、アマチュア天文家・櫻井幸夫さんが、いて座の方向に見慣れない星を見つけました。最初は新星(星の表面で起きる爆発)かと思われましたが、調べていくうちに、まったく別の、ずっと珍しいものだとわかります。それは、いちど燃え尽きて白色矮星(はくしょくわいせい)になったはずの星が、もう一度火をつけて、ふくらみ直している姿でした。

この星は発見者の名前をとって「桜井天体(Sakurai’s Object)」と呼ばれています。あれから30年。ずっと見守られてきたこの星が、いま新しい段階に入ったことが、2026年9月に天文学の学術誌 MNRAS に掲載された論文で報告されました。

白色矮星という「終わった星」

太陽くらいの重さの星は、寿命の終わりに大きくふくらんで赤色巨星になり、外側のガスを宇宙に吐き出して、あとに芯だけを残します。これが白色矮星です。地球ほどの大きさに太陽と同じくらいの重さが詰まっていて、新しくエネルギーを作ることはなく、余熱でぼんやり光りながら何十億年もかけて冷えていきます。ふつうはこれで話は終わりで、あとは静かに暗くなっていくだけです。

ところが、ごくまれに例外が起きます。芯の表面近くに残っていたヘリウムの層が、冷え始めたあとになって突然燃え出すのです。これを「最終ヘリウムフラッシュ」、学術的には「非常に遅い熱パルス(VLTP)」と呼びます。燃え出した星は急にふくらみ、表面温度が下がって、いったん赤色巨星に戻ったような姿になります。星が人生の最後に、もう一度だけ前の段階をやり直すわけです。天文学者はこれを「生まれ変わった星(born-again star)」と呼んでいます。

この現象を実際に起こしている最中に観測できた星は、桜井天体を含めて2つしか知られていません。もう1つは1919年に出現した V605 Aql(わし座の星)で、桜井天体より約80年先輩にあたります。

30年におよぶ観測と、姿を隠した中心星

桜井天体のすごいところは、変化の速さです。星の一生の出来事は、ふつう何百万年、何十億年という時間で進みます。それがこの星では、白色矮星から赤色巨星に戻るまでがわずか数年。人の一生のうちに星の進化を見られる、きわめて珍しい実例でした。

ただ、研究はすんなり進んだわけではありません。1996年の爆発的なふくらみのあと、星は自分が吐き出した大量のガスと塵(ちり)にすっぽり包まれてしまいました。炭素を多く含む濃い塵で、可視光では中心の星がほとんど見えなくなったのです。そのため研究者たちは、電波や赤外線、そして周囲のガスの観測から、星がどう変わっているかを間接的に追いかけるしかありませんでした。周囲の塵やガスを調べると、星が再び縮んで熱くなり始めているらしいことはわかってきましたが、中心星そのものの温度を直接測ることはできない状態が続きました。

その間、2023年にはアルマ望遠鏡の観測で、吐き出された物質が砂時計のような形に広がっていることもとらえられています。星のまわりに円盤があり、そこから上下に向かってガスが数百 km/s の速さで噴き出している構造です。

予想よりゆるやかだった再加熱

今回の論文では、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡 VLT に取り付けられた分光器 FORS2 で2023年に撮られたスペクトル(光を波長ごとに分けたもの)を、恒星大気の計算モデルと突き合わせています。星の光のなかには、その星の温度や成分に応じた「輝線」という目印が現れます。これを読み解くことで、塵の向こうにある中心星の正体を初めてはっきりさせました。

その結果、中心星はいまウォルフ・ライエ型星の一種、[WC]型になっていることがわかりました。ウォルフ・ライエ星は、強い星風(星から吹き出すガスの流れ)を持ち、炭素や酸素の輝線が目立つ高温の星です。本来は太陽の何十倍も重い星がなる種類ですが、記号を角かっこで囲んだ[WR]や[WC]は、惑星状星雲の中心にある軽い星が同じようなスペクトルを示す場合を指します。桜井天体の重さは太陽の0.6倍ほどですから、まさにこちらです。星風の速さは秒速約500 km、表面の成分はヘリウムと炭素が大半を占め、水素はほとんどありません。1996年直後は表面の9割がヘリウムでしたが、いまでは炭素が半分を超えており、燃え方が大きく変わったことがうかがえます。

そして、ここが今回いちばん面白い点です。中心星の表面温度は約2万7000〜3万6000度(絶対温度)、いちばんよく合うモデルで約3万500度と求まりました。1996年に赤色巨星になった直後の数千度からはずいぶん熱くなっています。ところが、研究チーム自身が2005年に出していた予測では、2020年までに約9万度まで上がっているはずでした。実際はその3分の1程度にとどまっていたことになります。先輩にあたる V605 Aql が、爆発から約80年後に約9万5000度に達していたのと比べても、桜井天体の再加熱はかなりゆっくりです。

なぜ予測が外れたのか。桜井天体が1996年に数年で赤色巨星に戻った速さは、当時の標準的な理論では説明がつかず、「ヘリウムが燃える層での物質の混ざり方をわざと弱める」という調整を入れてはじめて再現できていました。その調整を入れたモデルは、冷える速さは合わせられた代わりに、再び熱くなる速さを速く見積もりすぎていたわけです。一方で、混ざり方をいじらず、代わりに計算の時間刻みを細かくし、星の重さを太陽の0.58倍ほどとやや軽めに置いた別のモデルがあり、今回の温度はこちらとよく合っていました。どちらのモデルが正しいかは、こうして現実の星と照らし合わせないと決められません。今回の測定は、1998年以来はじめて得られた中心星の温度の実測値であり、理論を選別するための貴重な1点になりました。

二度目の白色矮星へ向かう道のり

桜井天体はこれからも縮みながら熱くなっていき、最終的にはふたたび白色矮星に落ち着くと考えられています。その途中で、周囲に広がったガスが星の光に照らされて、きれいな惑星状星雲として輝く段階もあるでしょう。ただし、道のりがまっすぐとは限りません。理論の中には、いったん熱くなったあとでもう一度ふくらみ直す可能性を示すものもあり、そうなるかどうかはまだわかっていません。

論文の筆頭著者はブラジル・リオデジャネイロ連邦大学ヴァロンゴ天文台の W. Marcolino さんで、ベルギー、ドイツ、メキシコ、オーストリア、ポーランド、フランス、スウェーデン、チリ、イギリスの研究者が名を連ねる国際チームです。共著者のアルバート・ザイルストラさん(マンチェスター大学)は、星の進化はふつう人の寿命よりはるかに長い時間で進むため、別々の星の「スナップショット」をつなぎ合わせて推測するしかないのに、桜井天体では数十年のうちに劇的な変化を目の前で見られる、と話しています。

観測では、スペクトルの中にまだ正体のわからない輝線が残っていたり、星風が球対称ではなく偏っている可能性があったりと、片づいていない点もあります。周りの塵に散乱された光を見ている影響も否定しきれません。中心星がさらに熱くなれば、いまは弱い高温側の輝線がはっきり出てくるはずで、研究チームは分光観測を続ける構えです。

いて座の方向、およそ1万光年あまり先(距離の推定にはまだ幅があります)で、1人の日本人アマチュアが見つけた星が、30年たったいまも恒星進化論の最前線に立っています。これからの数十年、この星がどう変わっていくのか、まだ見届ける楽しみは続きます。

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出典

W. Marcolino et al., “The emergence of a [WC] star in Sakurai’s object”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, Volume 552, Issue 1 (2026), https://doi.org/10.1093/mnras/stag1533(オープンアクセス)

Evan Gough, “A Zombie White Dwarf Star is Born Again. Hallelujah!”, Universe Today, 2026年9月17日 https://www.universetoday.com/articles/a-zombie-white-dwarf-star-is-born-again-hallelujah

Robert Lea, “A rare ‘born again’ star is changing again”, Space.com, 2026年9月18日 https://www.space.com/astronomy/stars/a-rare-born-again-star-is-changing-again

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