この記事には広告(Amazon アソシエイトのリンク)を含みます。
永久凍土(えいきゅうとうど)が融けると、閉じ込められていた炭素が放出されて温暖化がさらに進む——気候の話でよく聞く、この一方通行の図式に「例外」が見つかった。スウェーデンのウメオ大学と中国の華東師範大学の研究チームが、チベット高原の50本の川を調べたところ、凍土の融解は温室効果ガスを放出させるだけでなく、大気中のCO2を吸い込む働きも同時に強めていた。場所によっては、吸収が放出を上回ることさえあったという。この研究は2026年6月、科学誌Natureに掲載された。
温暖化を加速させる存在としての永久凍土
永久凍土は、2年以上つづけて凍ったままの地面のことだ。シベリアやアラスカのような北極圏が有名だが、標高の高い山岳地帯にも広がっていて、今回の舞台であるチベット高原は、極地を除けば地球最大の凍土地帯にあたる。
この凍った地面の中には、大昔の植物などに由来する有機物が、分解されないまま大量に眠っている。いわば天然の冷凍庫だ。ところが温暖化で地面が融けはじめると、冷凍庫の中身が解凍され、微生物がそれを分解してCO2やメタンを吐き出す。融け出した炭素は川にも流れ込み、川面からも温室効果ガスが立ちのぼる。放出されたガスが温暖化を進め、温暖化がさらに融解を進める——この悪循環があるため、永久凍土の融解は「温暖化を加速させる時限爆弾」として警戒されてきた。
CO2を消費する地質のプロセス、岩石の風化
一方で、地球にはCO2を大気から取り除く自然の仕組みもある。その代表が「岩石の風化」だ。雨や川の水は、大気中のCO2を溶かし込んでごく弱い酸性になっている。この水が岩に触れると、岩の成分がゆっくり溶け出し、そのときCO2は水に溶けた別の形(溶存無機炭素)に変わって川から海へ運ばれていく。つまり、岩が水に溶けるという地味な化学反応が、大気からCO2を抜き取る働きをしている。
ただし、このプロセスは基本的にとてもゆっくりだ。数千年から数百万年という地質学的な時間をかけて効いてくるブレーキであって、いま進んでいる温暖化の話とは時間の桁が違う——そう考えられてきた。
融解が速めていた風化のブレーキ
今回の研究チームは、チベット高原の50河川で、川から出ていくCO2の量、水に溶けている炭素、炭素の由来をたどる同位体データを測定し、地球化学モデルと組み合わせて解析した。高原の中には、凍土がびっしり続いている場所から、融解が進んでまだら状になった場所、ほとんど残っていない場所までが混在している。この「融け具合のグラデーション」を使って、融解が進むと炭素の流れがどう変わるかを比べたわけだ。
結果は、冒頭の一方通行の図式をひっくり返すものだった。凍土の融解が進んだ流域ほど、川からのCO2放出は減り、岩石の風化によるCO2の取り込みは増えていた。地面が融けると、それまで凍結に守られていた鉱物がむき出しになり、水が岩とふれあう機会も増える。つまり、融解そのものが風化を加速させていた。数千年単位で効くはずのゆっくりしたブレーキが、融解の現場では、いま観測できる速さで踏み込まれていたことになる。

数字で見ると、調査地域全体の平均では、風化によるCO2の取り込みが、川からのCO2放出のおよそ35%——3分の1ほどを打ち消していた。さらに興味深いのは場所によるばらつきで、凍土がまだ隙間なく続いている流域では相殺効果は小さかったのに対し、融解が進んで凍土がまだら状・島状になった流域では、取り込みが放出の100%を超えるケースもあった。生き物が炭素を「出す」働きと、地質が炭素を「吸う」働きが、同じ川の中で同時に進み、張り合っていたのだ。
それでも「救世主」ではない理由
この結果は、永久凍土の融解が心配いらないという話ではまったくない。研究チーム自身も、岩石の風化は温暖化の単純な解決策にはならないと釘を刺している。
まず、風化の効き方は岩の種類しだいで変わる。鉱物の組み合わせによっては、風化がむしろCO2を放出する側に回る反応もあり、どこでも吸収が勝つわけではない。また、今回相殺が確認されたのは「川から出るCO2」に対してであって、融けた土壌から直接放出されるガスや、CO2より強力な温室効果を持つメタンまで含めた収支の話ではない。舞台がチベット高原という高山の凍土である点にも注意がいる。地質も水の流れ方も異なるシベリアやアラスカの凍土で、同じことがどこまで起きるかは、これからの検証課題だ。
それでもこの発見が重要なのは、現在の気候モデルの多くが、この「地質による吸収」をほとんど織り込んでいないからだ。永久凍土の将来予測は、微生物が炭素を分解して出すガス、つまり生物側の放出を中心に組み立てられてきた。ウメオ大学のヤン・カールソンさんは、生物の炭素循環と地質の炭素循環は密接につながっており、凍土の融解が最終的に温暖化を強めるのか弱めるのかを知るには、放出と吸収の両方を見る必要があると指摘する。融ける大地の炭素の収支は、これまで考えられていたより複雑だった。その複雑さを数えに入れることが、予測の精度を上げる次の一歩になる。
関連する商品
この記事に関連する本や商品は、Amazon で探せます。
上のリンクから購入されると、このブログに紹介料が入ることがあります。
出典
Liwei Zhang et al., “Rock weathering can counteract river CO2 emissions induced by permafrost thaw,” Nature (2026). DOI: 10.1038/s41586-026-10664-8
ウメオ大学プレスリリース:Thawing permafrost may trigger overlooked carbon sink in rivers(2026年6月17日)


コメント