12億5,000万年前、1日は19時間で月は4万km近かった――グランドキャニオンの地層が残した記録

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グランドキャニオンの崖には、オレンジ色の地層がひときわ目立つ場所があります。ハカタイ頁岩(けつがん)と呼ばれる、およそ12億5,000万年前の泥がかたまってできた岩です。この岩の縞模様を丹念に測っていったら、当時の1日の長さが約19時間だった、という数字が出てきました。

2026年9月に学術誌『Nature Geoscience』に載った研究で、筆頭著者はウィスコンシン大学マディソン校とオランダ・ユトレヒト大学に所属する地質学者、マルフリート・ランティンク氏です。岩の縞から1日の長さと月までの距離を割り出す、という話の筋道を追ってみます。

12億5,000万年前の干潟に積もった縞

ハカタイ頁岩ができたころ、いまのアリゾナ州のあたりはローレンシアという古い大陸の一部で、亜熱帯の気候にありました。内陸の海に面した干潟が広がり、乾く時期には水が蒸発して塩の平原のようになっていた場所です。岩の中には、石膏(せっこう)のかたまりが後で別の鉱物に置き換わった跡が残っていて、強い蒸発が繰り返されたことを物語っています。

そこに積もった泥は、一様ではありませんでした。炭酸塩を多く含んでかたく締まった層と、泥っぽくてもろい層とが、規則正しく交互に重なっています。崖の表面では、かたい層が出っ張り、もろい層がへこむので、遠目にも縞として見えます。研究チームはこの出っ張りとへこみを、崖に沿って1枚ずつ記録していきました。

測ったのは、グランドキャニオン中東部のタピーツ・クリークとレッド・キャニオンという2か所です。両者は65kmほど離れているのに、縞の並び方がほぼ同じでした。狭い範囲の偶然ではなく、広い地域の気候がまとめて変わっていた証拠になります。

気候の周期と月の距離の関係

気候が周期的に変わる原因としてよく知られているのが、ミランコビッチ周期です。地球の公転軌道の形、自転軸の傾き、自転軸の向きが、それぞれ数万年から数十万年の周期でゆっくり揺れていて、その組み合わせで地球に届く日射の量と配分が変わります。氷期と間氷期の繰り返しもこの周期で説明されていて、地層の縞にその痕跡が残ることは、比較的新しい時代の岩でよく確かめられています。

この周期のうち、自転軸の向きがぐるりと一周する「歳差(さいさ)」には、ほかにない特徴があります。歳差の速さが、月の重力に大きく左右されることです。月が近ければ歳差は速く回り、遠ければゆっくり回る。つまり、岩に記録された歳差の周期を読み取れれば、その時代の月までの距離が計算でき、さらに潮汐(ちょうせき)のやりとりを通じて、地球の自転の速さ、すなわち1日の長さまでたどれます。

ただし、遠い過去ほど計算は難しくなります。太陽系の惑星の動きは、数千万年を超えると予測が効かなくなる「カオス」の性質を持っていて、いまの天文計算をそのまま10億年以上さかのぼらせても正しい答えは出ません。だからこそ、岩そのものに残った記録が貴重になります。同じ手法は、中国北部の約14億年前の地層でも使われていて、そのときは1日が約18.7時間だったという結果が出ています。今回のハカタイ頁岩は、それに続く古い時代の実測記録になります。

ふたつに割れていた自転軸の傾きの信号

ところが、ハカタイ頁岩の縞を周波数ごとに分解してみると、いまの地球の周期をそのまま縮めただけでは説明できない部分が出てきました。自転軸の傾きの揺れに対応するはずの信号が、ひとつの山にならず、ふたつに割れて現れていたのです。しかも、周期ごとの強さの比率も現在とは大きく違っていました。

研究チームは、この割れ方の原因として二通りの可能性を挙げています。ひとつは、太陽系の惑星どうしの引力が生む「共鳴」の状態が、当時と現在で違っていたという説明。もうひとつは、気候システムが日射の変化に対して素直に応じず、複数の周期を混ぜたような反応をしていたという説明です。どちらが正しいかは、この研究だけでは決まっていません。

この異常を織り込んだうえで計算をやり直した結果が、歳差の周期およそ1万5,730年です。現在の歳差はおよそ2万6,000年なので、当時はかなり速く回っていたことになります。そこから月までの距離は地球半径の53.8倍、およそ34万kmと求まりました。現在は約60倍、38万4,000kmほどですから、月は4万km以上も近くにあった計算です。そして地球の自転は、1日が約19時間になる速さでした。

この結果には、もうひとつ意味があります。地球の自転は、月の潮汐によって少しずつ遅くなり続けてきたと考えられていますが、原生代の途中で自転の減速がいったん止まり、1日の長さが19.5時間や21時間あたりで長い間そのままだった、という仮説が提案されていました。大気の潮汐が月の潮汐と釣り合って、ブレーキが効かなくなったという考えです。今回のハカタイ頁岩の記録は、この「止まっていた時期」を裏づける証拠を示しませんでした。当時の地球と月の関係を扱った既存のモデルとは、よく合っています。

岩の縞から読める地球の歴史

ハカタイ頁岩は、干潟の泥が固まっただけの、見た目には地味な岩です。それでも縞の間隔を65km離れた2か所で丁寧に測り、周期を解きほぐしていくと、12億5,000万年前の1日の長さと月の位置、さらには太陽系の惑星の動きに関わる情報まで引き出せました。地層が、当時の風景の記録であると同時に、天体の動きの観測記録にもなっている、ということです。

一方で、自転軸の傾きの信号がなぜ割れていたのかは、まだ答えが出ていません。太陽系の力学の問題なのか、気候の応答の問題なのかによって、この時代の地球の見え方は変わってきます。同じ時代の別の場所の地層で同じ割れ方が見つかるかどうかが、次の手がかりになりそうです。

月はいまも1年に約3.8cmずつ地球から遠ざかり、1日は少しずつ長くなっています。19時間だった1日が24時間になるまでにかかった12億年あまりの時間を、グランドキャニオンの崖は縞模様として抱えていました。

出典

Lantink, M. L., Eyster, A., Kocken, I. J., Meyers, S. R. & Zeebe, R. E. (2026). Earth–Moon and Solar System history recorded in Mesoproterozoic Grand Canyon strata. Nature Geoscience.
https://doi.org/10.1038/s41561-026-02100-3(本文は有料。要旨は無料で読めます)

Grand Canyon Rocks Preserve a 1.2-Billion-Year Record of Earth And The Moon(ScienceAlert、2026年9月26日)
https://www.sciencealert.com/grand-canyon-rocks-preserve-a-1-2-billion-year-record-of-earth-and-the-moon

Meyers, S. R. & Malinverno, A. (2018). Proterozoic Milankovitch cycles and the history of the solar system. PNAS, 115(25), 6363–6368.(14億年前の1日が約18.7時間という結果の出典)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6016783

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