恐竜の卵、地球でもっとも南の記録が更新——南パタゴニアで見つかったティタノサウルスの卵殻

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アルゼンチンの南のはずれ、マゼラン海峡から北へ300キロほどのところに、チョリージョ層と呼ばれる白亜紀末の地層がある。ここで2020年と2024年の調査中に、恐竜の卵の殻のかけらが255点も集まった。持ち主は、史上もっとも大きな陸の動物として知られるティタノサウルス類。首と尾の長い四足歩行の草食恐竜で、大きなものは75トン、シロナガスクジラの半分ほどの重さにまで育つ仲間だ。

卵の殻そのものは、恐竜の化石としてはそれほど珍しいものではない。このニュースの肝は、見つかった「場所」にある。約6,800万年前の当時、この場所は南緯55〜60度。今の地図でいえば南極圏の手前で、恐竜の卵が確認された地点としては地球上でもっとも南寄りになる。筑波大学の田中康平氏を筆頭に、日本とアルゼンチン、カナダの研究者が組んだチームがこの卵殻を調べ、2026年9月に学術誌 Royal Society Open Science で報告した。

ティタノサウルス類の営巣地と緯度の偏り

ティタノサウルス類の骨は、南は南極、北はモンゴルやテキサスまで、世界のあちこちから出ている。ところが卵や巣となると話が変わる。これまでに知られている営巣地は、アルゼンチン中部やインド、スペイン、フランスなど、当時の緯度でいえば赤道に近い温暖な地域にかたよっていた。恐竜全体で見ても、極に近い卵の記録はカナダ(北緯57〜60度)とシベリア(北緯70〜75度)の2か所くらいしかなく、南半球の高緯度からは出ていなかった。

骨は出るのに卵は出ない。これを「高緯度には餌を求めて季節的に来ていただけで、繁殖は暖かい土地でしていた」と読むのが、これまでの自然な解釈だった。今回の卵殻は、その前提をひとつ崩したことになる。

巨体と寒さがつくる二重の壁

高緯度で卵を育てるのが難しい理由は、気温だけではない。ティタノサウルス類には、体の大きさそのものが問題になる。

鳥は自分の体温で卵を温める。小型の獣脚類(ヴェロキラプトルの仲間など)も、巣に座って抱卵していた証拠が化石に残っている。ところが数十トンの体で卵の上に座れば、巣ごと押しつぶすだけだ。共著者でカルガリー大学の Darla Zelenitsky 氏は取材に「大きなオムレツが一つできあがる」と表現している。つまりティタノサウルス類は、体温で卵を温める道を最初から選べない。

そこに寒さが加わる。研究チームの見積もりでは、当時のチョリージョ層の年平均気温は12〜14.5℃。氷に閉ざされていたわけではなく、今のニューヨークやカナダのアルバータ州あたりに近い気候だが、卵を地面に置きっぱなしにして育つ暖かさではない。親が温められず、環境も温めてくれない。この二つの壁を、この巨大恐竜はどう越えていたのか。答えは、卵の殻そのものに刻まれていた。

殻の小さな穴から読み取れる巣のつくり

研究チームは殻の破片を顕微鏡とマイクロCT(小さな試料の内部を輪切りで見る装置)で調べ、厚みや表面の模様、そして殻を貫く細い通気孔の数と大きさを測った。卵殻には、中の胚が呼吸するための小さな穴が無数に開いている。この穴の「密度」が、巣のつくりを教えてくれる。

理屈はこうだ。地面の上に置かれた卵は、空気に直接ふれているので、穴は少なくてすむ。穴が多すぎると、水分がどんどん抜けて胚が乾いて死んでしまう。逆に、土や植物の下に埋められた卵は、まわりの空気が湿っていて酸素が届きにくいので、穴を増やして呼吸を確保する必要がある。だから通気孔の密度を測れば、その卵が「置かれていた」のか「埋められていた」のかが分かる。現生のワニや鳥、そして既知の恐竜の卵で確かめられてきた手法だ。

チョリージョ層の卵殻は、穴の密度が非常に高かった。他の地域で見つかっているティタノサウルス類の卵と同じで、埋められた卵の特徴をはっきり示している。つまりこの恐竜は、卵を巣材の中に完全に埋め、露出させずに育てていた。

そして、埋めていたのなら熱源も見えてくる。土や砂だけでは寒冷な気候で卵を温めきれない。最も筋が通るのは、落ち葉や枯れ草を山のように積んだマウンド型の巣で、植物が腐るときに出る熱(微生物が分解するときの発酵熱)で卵を温めていた、という説明だ。現生のワニ類がやっている方法そのもので、オーストラリアのツカツクリという鳥も同じやり方で卵を育てる。体温を使えない巨体の恐竜は、堆肥の熱を借りて、寒い土地でも子を孵していたことになる。

寒冷地で生まれる子と巨体への道のり

この結果が示しているのは、ティタノサウルス類が高緯度に「通っていた」だけではなく、そこで「暮らしていた」可能性だ。卵から孵った子どもは、当然その土地で育つ。研究に加わっていないトロント大学の Robert Reisz 氏は、これほど高い緯度で産卵していたこと自体が興味深く、しかも熱源が植物の分解だと分かった点を評価している。

卵はバレーボールほどの大きさとされる。そこから75トンの成体まで育つには、生まれた直後から食べ物がふんだんにある環境でなければならない。当時の南パタゴニアが、生まれたての竜脚類を養えるだけの豊かな土地だったことも、間接的に見えてくる。

分かっていないことも残る。まず、この卵がどの種のものかは決まっていない。同じ場所からはコロッソサウルス類(ティタノサウルス類の中でも特に巨大な一群)の歯が出ているが、卵殻と骨が同じ個体や同じ層から直接つながって出たわけではない。卵殻は Fusioolithus(フシオオリトゥス)という卵化石の分類名で扱われており、ゴンドワナ各地のティタノサウルス類の卵と結びついているものの、あくまで「おそらく」の範囲だ。完全な卵が見つかっていないため、通気孔の総面積を計算するのに使った卵の大きさも、別の地域の Fusioolithus の記録から借りている。年平均気温の12〜14.5℃という数字も推定値で、季節ごとの温度差までは分からない。

それでも、南半球でここまで南の恐竜の卵が確認されたのは今回が初めてで、巨大恐竜が寒い土地で繁殖していた直接の証拠になった。ワニと同じやり方で卵を育てていた巨人が、恐竜時代の最後の数百万年に南のはずれで暮らしていた。そう考えると、白亜紀末の高緯度の風景が少し変わって見える。

出典

Kohei Tanaka, Fernando E. Novas, Makoto Manabe, Chisako Sakata, Jordi Alexis Garcia Marsà, Darla K. Zelenitsky「Titanosaur eggshells from the latest Cretaceous of Patagonia, Argentina: implications for nesting at high latitude」Royal Society Open Science 13(9): 260333(2026年9月)DOI: 10.1098/rsos.260333

解説記事:Smithsonian Magazine(2026年9月9日)/Phys.org(2026年9月9日)/CBC News

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